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ソニーエリクソンの挑戦(2)~井原勝美初代社長が部下に薦めた本

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求む男子。
至難の旅。
僅かな報酬。
極寒。
暗黒の長い日々。
絶えざる危険。
生還の保証なし。
成功の暁には名誉と賞賛を得る。

これは、イギリスの探検家アーネスト・シャクルトンが、1914年から1915年にかけて、エンデュアランス号という船を使った南極探検の参加者を求めるために、ロンドンの新聞に掲載した広告と言われているものです。上の引用は、アルフレッド・ランシングというジャーナリストが書いた『エンデュアランス号漂流』(新潮文庫)の後書きで紹介されていたものです。

いまでこそ、ソニーエリクソンは絶好調ですが、2001年10月にソニーとスウェーデンのエリクソンが50%ずつ出資して設立した時点では、ジリ貧の2社による明らかな弱者連合であって、井原勝美氏にとっても、その会社の社長になるというのは、(「僅かな報酬」ではないと思いますが)本当に上の広告のような気分だったと思います。しかし、聞くところによると、井原氏は、酒の席で部下にシャクルトンの本を薦めながら、「君たちも、こういう厳しい経験をしておくと、いろいろ勉強になるよ、ガッハッハ」と陽気に過ごしていたそうです。現在、井原氏は、ソニーエリクソンを立て直した功績から、2004年にソニーに復帰し、現在は、ソニー副社長として家電事業などを担当されています。

ところで、冒頭に紹介した広告の原文なんですが、

MEN WANTED FOR HAZARDOUS JOURNEY.
SMALL WAGES, BITTER COLD, LONG MONTHS OF COMPLETE DARKNESS,
CONSTANT DANGER, SAFE RETURN DOUBTFUL. HONOR AND
RECOGNITION IN CASE OF SUCCESS.

で、これが実際に、いつどの新聞に掲載されたか、というのは実は謎でして
http://www.antarctic-circle.org/advert.htm
上記のサイトによると、どうも1948年にジュリアン・ワトキンス著『The 100 Greatest Advertisements』において、初めて創作されたもののようで、要するに、こんな広告は実在しなかったのですが、あまりにも雰囲気にマッチしていたことから、これが元ネタとなって日本を含め世界に流布してしまっているようです。

このエンデュアランス号の探検記は、上記の『エンデュアランス号漂流』(新潮文庫)のほかに、シャクルトン自身による記録『エンデュアランス号 奇跡の生還』(ソニー・マガジンズ刊)も面白く読めます。シャクルトンについては、困難な状況に立ち向かうためのリーダー論として、経営者向けの本も何冊か出版されています。

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