インスパイア
5日にイギリスでモダン・アートの「ターナー賞」が発表されますが、2000年には、候補作の1つが盗作ではないかと大きな騒ぎになりました。
このターナー賞(Turner Prize)は、毎年4人の若手モダン・アーティストを候補者としてピックアップし、ロンドンにあるテート・モダンという現代美術館で展示を行い、11月下旬から12月上旬にかけて、優れた作品のクリエイターを表彰するという毎年恒例のイベントです。
2000年に盗作ではないかと大きな騒ぎになった作品は、グレン・ブラウンというイギリス人アーティストの「The Loves of Shepherds 2000」という作品です。
この年は、日本人の女性も候補者の一人に含まれていたことから、私もテート・モダンに見に行きました。問題の作品は、大きな惑星を背景に宇宙船が飛んでいる、というSFチックな大胆な作品で、下馬評では、グレン・ブラウン氏が、この年の最優秀賞の筆頭にあげられていました。
しかし、ターナー賞が発表される直前に、この作品は、1974年に発売されたSF作品の表紙の盗作ではないかとの指摘がなされました。上が問題の絵で、下が本の表紙です。
[問題の絵]
http://news.bbc.co.uk/olmedia/1040000/images/_1044375_glenn300.jpg
[本の表紙]
http://news.bbc.co.uk/olmedia/1045000/images/_1045089_heinleinnew300.jpg
盗作の元になった本は、ハインラインの『Double Star』という有名なSF作品で、表紙を書いたのは、アンソニー・ロバーツというイラストレイターでした。 盗作ではないかとの指摘に対して、グレン・ブラウン氏は、「絵のスケールと色を大きく変えた」と反論しました。また、ターナー賞の審査員も、「盗作にはあたらない」と擁護しました。このため、グレン・ブラウン氏は、失格とはなりませんでした。
では、下馬評通りに、グレン・ブラウン氏が受賞したかと言うと、そういう訳でもなく、2000年のターナー賞は、ドイツ人カメラマンが受賞しました。
結局のところ、先行する作品にインスパイアされた作品自体を否定することはできないものの、元の作品にあまりにも似すぎている、つまり、オリジナリティの乏しい作品に対しては、賞を与えることはできない、という、しごくもっともな結論に落ち着いたわけです。
[参考]Copycat row hits Turner Prize