企業の情報システム部門と現業部門の距離が急速に離れているような気がする。
原始の時代、狩をするのに石のやじりを考えた。自分が使う道具は自分で作った。昭和40年代。企業のコンピュータ化が始まった。経理、営業、設計、生産管理、製造、品質管理などの事業部門から精鋭が集められ、情報システム部門を創設し、出身事業部門のために電子計算機をどう使うかが、まさに真剣に検討された。
あれから半世紀が経とうとしている。仕事の現場とIT部門の距離は、今どうだろうか。西宮市のようにうまくいっているところもあろう。それは、常に現場の職員が今以上にパフォーマンスを挙げることができるかだけを追及してきたからだ。もしそうなら投資をしよう、そうでなければやらない。明確な基本方針があったからだ。西宮市の場合は、もっと明確に言うと「住民のためにならないことはしない」だ。そのかわり「なる」と思ったら他がどこもやっていなくてもうやっているが。
私が企業のIT部門について、変だなと思い始めたのは、Webの反応の遅さにもかかわらず、企業がTCOの削減のためだと言って、がむしゃらに業務システムのWeb化に走ったことだ。企業の情報システム部門は、少なくともそれまでは現場を向いていた。それが自分を見つめるようになった。不況の嵐の中で、情報システム部門も経費を落とせ、外で働けと、経営サイドからの風当たりが強くなった。そして反対向きに走り始めた。ユーザの利便性より自分たちの生産性を優先して考え始めた。その動きに拍車をかけたのが、情報漏洩問題と、個人情報保護法だ。もうユーザのことなど構ってはいられない。自分の身を守らねば生活にも困ってしまう事態になるかもしれない。
そんな背景から、ユーザにパソコンを持たせるのはやめようという議論が沸き起こり、メーカはチャンス到来とばかり、シンクライアントを提案し、大きな流れになってきた。
私は、ほんとうはシンクライアントに反対しているのではない、エンドユーザ不在の議論は、そもそもおかしいだろうと言いたいのだ。もう一度50年前に情報システム部門が創設されたときの精神に戻ろうではないか。何のための情報システムかをもう一度考え直そうではないか。最近人事や法務部門を無くしたという話を2,3聞いた。そんな仕事はそれぞれの部門長の仕事だというのだ。そんな部門があるから仕事が前に進まないのだとも。情報システム部門がIT部門などと呼ばれてしまうと、ますます現場から遊離し、こういった社長の目から見ると、会社の効率を阻害する部門と映るかもしれない。
私は企業の情報システム部門は経営の右腕だと思っている。だからこそ、もう一度自らの役割を考えて欲しいと思っている。こういうことこそ、日経コンピュータあたりの役割だと思うがいかが?