Redmond 生活:米国 L-1 ビザ申請
縁あって、米国本社で 3 か月のインターンシップに参加している。日本大好き、本社出張のたびお腹を壊す当方にとっては、こちらでの食事だけでもかなりの苦行なのだが、貴重な機会なのでありがたく拝領した次第である。
実は当方、海外生活の経験は一切ない。旅行でならそこそこ出かけてはいるが、最長でも 20 日程度。しかもパリだのハワイだの恵まれた観光地ばかりだ。だから、何よりまず日常生活に不安がある。そんなレベルの当方だからこそ、日ごろ困ったり感心したりしたことを書き留めたら、海外生活の超初心者には多少役に立つかもしれない。これが、こちらでの生活をネタに投稿をしようと思い立った理由である。
第一弾は「L-1 ビザ」の申請、こちらに来る前の、国内での出来事だ。ただし、この情報は 2015 年の当方の経験に基づいており、もはや手続きは変わっているかもしれないので、最終的には公式情報を確認してほしい。
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渡米のために必要なビザの種類
日本国籍があれば、通常の出張ではビザはいらない。国の信用が高いので、特別に免除されているのである。ただし免除されるには、滞在期間が 90 日以内、かつ目的が商用、観光、通過のいずれかであり、さらに ESTA(電子渡航認証システム)で事前承認されている必要がある。「商用」とは取引先との会合や会議への参加、財産の処理や契約交渉とされており、当方の場合はこちらで働くことが目的でいずれも当てはまらないので、ビザ申請が必要なのである。
ビザの種類はものすごく豊富なので、詳細はこちらのサイトを見てほしい。大使館のページからリンクされている、ちゃんとしたサイトである。
当方が取得したのは「企業内転勤者」の L ビザ、もう少し細かく言うと、「L1-A ビザ」である。L ビザにはまず L1 と L2 があり、L1 が本人、L2 が家族である。さらに L1 ビザには L1-A と L1-B がある。L1-A は管理職やエグゼクティブ、L1-B は専門知識を持つ人向けのものである。L1 では両方とも最初 3 年間、その後申請すれば 2 年延長して 5 年間、さらに L1-A ならもう 1 回延長できるので最長 7 年間滞在できる。L2 は家族分なので L1 がなければ発行できないが、L1 が有効である限り L2 も有効となる。
そしてさらに当方の場合、申請時間を短縮するために Blanket-L という手続きを使っている。これはある程度の規模を持つ企業に一定数与えられる L ビザの「枠」のことであり、審査手続きを短縮できるらしい。ところがどっこい、当方の場合全然短くなった気がしなかったのだが、それについてはのちに述べる。
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ビザの申請ステップ
おおまかな流れは、全体として次のようになる
- 受け入れ先である米国の会社(当方の場合本社)が米国移民局 (USCIS) にI-129を提出
- USCIS は承認後に在日米国大使館へ通知
- 渡米者(当方)は必要な書類を持ち在日米国大使館に提出、面接を受ける
- 審査が終わり最終承認されるとビザが自宅に届く
本社で何が行われたかの詳細は知らないので、以下は当方が行ったことを時系列で紹介しよう。
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I-129の作成
I-129 は Nonimmigrant Petition、つまり非移民労働者用の「嘆願書」である。当方は Blanket なので、ひょっとしたら通常の L1 とはちょっと違う要素があるのかもしれないが、いずれにせよこの I-129 は米国での受け入れ会社側が作らなければならない。
社内の申請手続きを開始すると、本社の Corporate Attorney、といっても法律事務所へのアウトソースであったが、とのやり取りが始まった。現在および米国で予定されている職務内容の詳細、これまでの職歴、何人部下がいるか、部門のミッション、組織図、管理している予算、人事権の有無と内容、管理者として作成した業務ポリシー、上司や同じ部門の別の管理者の氏名や協業内容、年収に至るまで、かなり詳細に情報提供しなければならなかった。ちなみに米国で Indirect に Manage するベンダーの名前や学位まで聞かれたのだが、アメリカは日本とは違った意味で強烈な学歴社会で、どうやら Indirect な部下に Professional Worker = College Degree 以上が何人いるかを知りたかったらしい。
後に知ることになるのだが、彼は、もともとは 4 ページほどの簡単な定型フォームである I-129 本体に付随させる形で、当方がいかに重要な人物であるかをとくとくと説明する Note を作っていたのである。そして彼いわく、ここ何年かビザの申請が非常に厳しくなっており、面接のときにも Managerial であることを強調しろとのことだった。つまり現地の単純労働を奪いに行くのではなく、当方がわざわざ日本から出向かなければならないことを証明しなければいけないのである。Note ではそのために最大限宣伝してくれているので、改めて読み返してみると、今後もしもの時の履歴書にも結構使えそうな感じである。大事にとっておこう。
そして、このプロセスの開始から終了までに、2 か月もかかってしまった。国内でのやり取りの齟齬、Attorney の担当者変更などいくつかのイレギュラーがあってのうえなのだが、これで Blanket 利用のメリットが結構吹き飛んでしまった、と思ったのであった。
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面接の予約
紆余曲折ありながらも、無事 Attorney から I-129 と付随資料のセットが 3 部届く。中身は全部いっしょなのだが、先般の I-129 Petition と当方の宣伝ドキュメント、Attorney に送ってあった大学と大学院の Certificate (卒業/修了証明) と Transcript (成績証明)、DHS Form G-28 (Attorneyによる代理の証明)、I-797 Notice of Action という Petition 受理の通知である。この 3 セットを面接のときに持っていくと、あとで 2 セット返してくれることになっている。
これらの到着を確認し、在日米国大使館に面接の申し込みをする。全体的な流れは先ほどと同じこちらのサイトで確認。
面接予約を始める前に、まず DS-160 というオンライン申請をしておかなければならない。これに限らず米国の手続きフォーム系はいつも、記号と番号ばかりでややこしく感じるのだが、たぶん識字率が高くないからなのだろう。もちろん本体には何のドキュメントなのかがわかる名前もちゃんと書いてはある。そしてこの DS-160 の入力が思いのほか大変。全部で 1 時間はかかったのではないだろうか。いつまでたっても次の質問が出てきてゲンナリするのだが、間違えてはいけないので手も抜けない。さらに、20 分放置するとセッションが切れるようなので、最初に作成される申請 ID をメモっておこう。大使館のページの下に申請方法のビデオへのリンクがあるので、先に一度見ておいたほうがいい。「トム (豆夢)」という名の、なぜか豆の形のゆるキャラが手順を説明してくれる。
いずれにせよ当方のように、I-129 が夜に届いたからといってこれを就寝前に入力することは絶対にお勧めしない。それぐらいとても面倒なのである。
なお、ビザに印刷されるバストアップの写真データもこのときアップロードするので、あらかじめ準備しておく必要がある。すべての入力が完了すると、最後に確認ページが現れるので、面接に持っていくためにこれを印刷しておく。
DS-160 の申請が完了したら、次にビザ申請料金を支払うことになる。これは面接予約サイトで行う。お金の支払いが先なのは世の常だ。L ビザは $190 必要なのだが、レートは毎月変わるようなので、申請ページを参照のこと。
最後にようやく同じサイトで予約の申し込みを行う。もう細かい内容は忘れてしまったが、個人の基本情報やビザの種類、面接場所、DS-160 の Confirmation Number (確認番号) などを入力していき、希望日時を 15 分単位で選ぶと、最後に Appointment Confirmation (面接予約確認) 画面が出てくるので、こいつも印刷して、面接当日に持っていく。
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面接のため大使館に赴く
注意点がいくつかあるので、ぜひ一度大使館作成のビデオを見ておこう。例のトムが解説している。
まず持ち物だが、滞在期間+6か月間有効なパスポート、I-129 をはじめとする Petition のセット 3 つのパッケージ以外に、オンライン申請した際の DS-160 の Confirmation Page、面接予約確認書、そしてなぜ必要なのかわからない 5cm 四方のバストアップ写真が必要である。なお、大使館のサイトには、カバンはとても小さなもの以外持ち込めないような記述があるのだが、当方はこれらの書類を折らずに入れられる程度のブリーフケースでも OK だったし、もっと大きい肩掛けバッグの女性も通過出来ていた。ただし、なぜかリュックはどうあっても NG のようである。当方の前に並んでいた人が、かなり小さなリュックを背負っていたのだが、駅に戻ってコインロッカーに入れてくるようにと追い返されていた。実はその直前には、受付の一人が間違えてリュックを通過させてしまったらしく、別の人に「リュックはダメって言っただろう」と怒られてもいた。何がそんなに違うのかよくわからないが、そういうルールなのだ。駅はそんなに近くもないし、ロッカーの数も多くはなさそうなので、持っていく荷物は最小限にとどめ、余計な手間を避けよう。また、電子機器の持ち込みは完全 NG で、1 点だけなら入口で預ってもらうことができるが、それ以上は同じく追い返される原因になるので、あれこれ持って行かないように。
そして指定時間までに大使館に赴く。当方が向かったのは赤坂の米国大使館である。朝一番に申し込んだせいかほとんど人が並んでいなかったが、混むとすごいらしいので覚悟のほど。なおここの指定時間は病院の予約時間並みにアテにならないので、逆に混んでいて指定時間が過ぎてしまっても気にする必要はない。先のリュックも、昼までに戻ってこられれば OK と言われていた。入口で荷物検査をし、スマホを預けて番号札をもらってから、いったん敷地内の屋外に出て別の建物の中にある面接会場に移動。なお何かを預けたら、帰りに番号札を返して回収することも忘れずに。当方は 10m ほど歩いてスマホがないことに気づき慌てて戻ったのである。
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面接のステップ
会場入り口で面接予約確認書を出し、受付番号をもらう。指定の部屋に入り書類受付にすべての書類を出すと、呼ばれるまで座って待てと言われる。なお書類は会社のロゴ入りのクリアケースにまとめておいたのだが、ビデオで言われていたように大使館のものに入れ替えさせられることはなかった。待機場所に設置されている画面に番号が出るので、出たら指定の窓口まで赴く。
そこでは名前を確認されただけで、Blanket ビザの Fraud Protection Fee というどうも釈然としない $500 を後ろの窓口で払えと言われ、カードで支払う。
再度呼ばれ、今度はいよいよ面接である。まず指紋を取られ、次に簡単な質問のやり取りを英語で行う。ここでは別に英語の能力を測るわけではないので、たどたどしくても全く問題ない模様だ。英語話せるか?と最初に聞かれたのだが、もしそこで No と返したら面接官が変わるのか、または彼が急に日本語でペラペラ話し出すかなのだろう。
面接は個室ではなく、遊園地のチケット販売所みたいな、透明なアクリルに声が通る穴が開いているブースで、立ったまま対面で行う。遊園地と同じく、上部左右にはスピーカーがぶら下がり、アクリルを挟んで向こうにもこちらにもマイクがあるのだが、なぜかこのマイクもスピーカーも全然動いていない。声がこもってとても聞きづらいのである。3 年ほど前に MBA 留学した部下がビザ申請した時にもやはり同じだったようで、常時スイッチ OFF なのかもしれない。
そしてここでどうやら Corporate Attorney の頑張りが役に立ったようだ。当方が持ち込んだ嘆願書の付随資料が、面接官が今まで見たことないぐらいの量だったようである。あなたの会社の Attorney はすごく頑張ったねえ、と言われた。そしてそのおかげか、質問はたった 3 つ、たしか現在の仕事の種類、どれぐらいの期間行くのか、家族は一緒に行くのか、だけだったと思う。そして 1 週間ぐらいでビザ郵送するね、と言われて終わり。結局到着から終了までの全体を通しても 30 分程度で終わっており、持って行った雑誌もほとんど読み残したのであった。
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ビザの入手
ちょうど 1 週間後に、レターパックプラスで自宅にビザが返送されてきた。中を開けると、ビザのシールが中のページに張り付けられたパスポート、持ち込んだ 5cm 四方の写真が貼り付けられた DS-160 に例の釈然としない $500 のレシートがホチキス止めされたもの、そしてオレンジの封筒に入った「Approved」のハンコが押してある I-129 のセットが 2 つ。なお I-129 のセットのうち一つには「Original」と書かれた付箋が貼り付けられていた。Original か Copy か、いずれかを入管で提出して残りを自分で持っているのかな?と思い Corporate Attorney に聞いてみたが、彼は入管手続きまでは詳しくないようだったし、まあ両方持っていけば問題ないだろうから、気にしないことにしたのである。
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入管での手続き
米国到着までは普通の出張時と何ら変わらないが、飛行機を降りて Baggage Claim に行くまでの間の入館手続きが、若干異なる。最近は ESTA で 2 回目以降の入国の場合、KIOSK 端末を使ってすばやく無人の手続きが行えるようになっている。ビザありの場合はそれができないので、昔ながらの有人窓口に行き書類を提出するのだ。とはいえ違うのはその程度。
まず L1 ビザでの入国であることを告げ、飛行機の中でもらう税関の書類とともに、I-129 のセット 2 つを出す。管理職なのか専門職なのかと聞かれたので管理職と答え、あとはたしか居住地ぐらいだったか。通常通り、指紋、写真を撮り終了。むしろ並んでいる人の多かった KIOSK の列より早く終わったぐらいである。しかしここで、いくらなんでも一部は渡し切りだと想定していた I-129 を、2 部とも返されたのだ。
えっ、と思い、これ 2 部とも持って帰っていいのか?と聞いたらその通り、と。じゃあこれ、いつかどこかで提出しなきゃいけなかったりするの?と聞いたが、いや普通に過ごしていて何も起きなきゃそんな機会はないよ、と。これ両方とも持って帰るならそもそもなんで 2 部あるんだ?と食い下がってみたが、悪いが俺もわかんねえんだ、だと。当方も眠くてだんだんどうでもよくなってきたので、No worries, got it. で終了である。本来 1 部は彼が回収しなければいけなかったんじゃないかといまだに疑っているが、正解をご存知の方がいたら教えてほしい。
いずれにせよ、Corporate Attorney が最初に I-129 を USCIS に出すところが一番のハードルだったのだと思う。日本での面接は単に本人確認とパスポート預かり、そして手数料回収のため。受け取った書類は手続き完了を証明するレシートみたいなものか。日本人的には、書類の実体にハンコがペタペタ押されながらワークフローが回るほうが安心できるのだが、これも文化の違いだろう。そんなこんなで、無事インターン生活を開始したのである。
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(追記)
I-129 の税関での取り扱いだが、今日到着した同じ立場の同僚は、表紙をチラ見されただけで終わったようで、当方よりさらに雑な扱いだったそうだ。2 つの例だけで断定はできないが、やはりある種のレシートみたいなものかもしれない。