オルタナティブ・ブログ > データドリブン・マーケティング GRAFFITI >

マーケターとしてベンダーとして、一貫してデータの世界で生きてきた筆者による、思考と情報整理のためのメモ。

Salesforce の秘密:#1 企業文化

»

IMG_3006(Edited).jpg

のっけから私事で恐縮だが、たった 1 年で日本オラクルを卒業したことをご報告申し上げる。そして新たに Salesforce にお世話になり、このタイトルなのである。今後デジタルマーケティング部門を率いて MarTech 方面の強化をしていく。今度は続くといいなと思う、会社も投稿も。

秘密などと大げさタイトルをつけたのは、自分ではまだそれを十分に理解できていないためだ。創業は 1999年。すでに IT 業界人だった当方、正直なところ「営業部隊」なんて安直な名前の会社、そのうち消えると思っていた。ところがあれよあれよという間の急成長である。昨年 Oracle OpenWorld 参加のためサンフランシスコに行ったのだが、その時に間近に見た Salesforce Tower の威容に衝撃を受けた。曇天でてっぺんが雲に隠れて見えなかったし。そしてその OpenWorld と同じ場所で実施される Salesforce の年次イベント「Dreamforce」の規模は、OpenWorld を大幅に上回っている。クラウド、しかも CRM 周辺でしかビジネスをしていないのに、である。

日本のオフィスも 2年後には皇居の目の前、パレスホテルに隣接する丸の内ガーデンタワーに移転予定だそうだ。オフィスフロアを全棟借りして「セールスフォースタワー東京」と名付けるらしい。従業員はすでに 1,500名を超えているが、向こう 5 年間でさらに + 2,000 人増員するとか。実のところ、この業界における 5 年後なんぞ全くアテにはならんのだが、とにかく今はそんな勢いだ。

それで本題なのだが、なぜこんな事業ドメインが限定された会社が、長く成長を続けているのか。「サブスクリプションビジネスであるクラウドにおいてはカスタマーサクセスがキモだよね」なんて台詞らいくらでも口をついて出てくるのだが、それももはや常識化した話である。Salesforce では、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまでの連携の仕組みを「THE MODEL」と呼ぶようなだが、実際、同じようなものを当方自身がマイクロソフトやオラクルでも実践してきた。競合に移った Salesforce OB が最近同名の本を出しているが、それに怒っている様子もないところを見ると、それ自体を差別化要因にする気はなさそうだ。秘密は別のところにある、といったところなのだろう。まだアウトサイダー脳が残っているうちに、これまでとの差分を書き留めながら、からくりを理解したいと思っている次第だ。

到着するなり、いきなりケーキ。

さて、入社初日は朝 9 時少し前に到着、受付を済ませて座って待つ。すると、一人の女性が近づいてきて「今日は〇〇でケーキをお配りしています。今回はレモンケーキです。」とケーキとハーブティーを渡される。冒頭の写真がそれである。あまりに突然のことで〇〇部分を聞き洩らし、なぜ当方が朝の会社の受付でケーキを受け取っているのか、まったく意味が分からなかったのだが、他の待ち人にも配り始めたので聞き直すのはよしておいた。後で聞いたところによると「Magic Monday」という企画で、サンフランシスコ本社含む主要拠点で行われる毎週月曜日の恒例行事らしい。来客用受付だけでなく、執務エリア内の SHOP と呼ばれるカフェエリアでも配っている。素敵な一週間をお過ごしくださいとのことだ。フム。

午前中の時間を使って、会社の文化やビジョンなどの概略説明を受ける。途中で PC とスマホを受け取りセットアップ。入社前に Windows Mac かを選択できたのだが、浮かれた勢いでつい Mac を選んでしまっていた。仕事のメインマシンに、今さらの人生初 Mac である。以来、壁にぶつかるたびにググって解決はしているが、このいつまでも全容が把握できない感がとても気持ち悪い。

5/20 という中途半端なタイミングの入社だったので、本格的な研修は 6 月入社組を待っての合流となる。よって初日は早々に迎えに来てもらい、午後から早速仕事だ。といっても、前任者がいない新設の部門で引き継ぎもないので、社内ネットワーク上での探索と関係者とのミーティング、それらに基づいて状況整理を行う 2 週間であった。幸いにしてマーケティング本部のオフサイトが入社 2 日後にあり、状況把握に大いに役立った。

イマドキにしてはだいぶ長めの研修、始まる。

6 月になり「Bootcamp」と呼ばれる本来の入社研修メニューに入る。2 週にまたがる 8 日間の研修コースである。これは当方がマーケティングロールだからまだ短いのであり、大方を占める営業ロールはトータル 1 か月もの時間を入社研修に費やすのだそうだ。つまり彼らはまだ研修中である。日系企業だとどうだかわからないが、外資では類を見ない長さだろう。マイクロソフトは当方の入社が古すぎて参考にならないが、オラクルでは 3 日だったし、なにより研修の一環とし て PC のセットアップを IT 部門がガイドしてくれることなどなかった。少し話はそれるが、オラクルは徹底したセルフサービスなうえに、マイクロソフト嫌いがこじれて Active Directory など統合環境を避けるものだからセットアップが超複雑になる。ライフサイクルの異なるログイン ID 4 種類になり、そのうち 1 つが SSO ID と名付けられているのはもはや悪い冗談である。結果、当方も完全にセットアップを完了したのは 3 日後だった。一応元エンジニアでかつマイクロソフト出身の当方が、いちいち B5 サイズのガイドとにらめっこして Windows PC をセットアップするという、屈辱的な絵柄となったのである。

さて話は戻り Salesforce Bootcamp であるが、初日と 2 日目は、会社で働き始める上での概要説明。人事が中心となり、PC のセットアップから社内の様々な仕組み、基本的なプロセスなどを紹介していく。初日夕刻には「Happy Hour」と題して近隣のバーのテラスで 30 名強の同期との交流会。社内でケータリングかと思っていたので、少しうれしい。そして 2 日目の夕刻が特徴的なのだが、いきなりみんなでボランティア活動である。四谷にある、廃校になった小学校の施設をそのまま使った「東京おもちゃ美術館」に行き、皆で清掃にいそしむ。エアコンや床の掃除、木のおもちゃ磨きなどを一通りこなすのだが、分業や分担などで意外と連帯感がわくものである。清掃終了後には少し館内を案内してもらい、おもちゃで実際に遊ばせてもらったり、故津川雅彦氏が寄贈したブリキの船など見せてもらったりで、これが結構楽しかったのである。

IMG_0094.jpg同じ JP ハートマンによる「バベルの塔」もあったが、高さがありすぎて全景を撮影できず。

1-1-1 社会貢献モデル

Salesforce は創業以来、製品の 1%、株式の 1%、就業時間の 1% を活用してコミュニティに貢献するという 1-1-1 社会貢献モデルをうたっている。今回ボランティアに行く前に社内システムで参加登録をしたのだが、ボランティア時間によりポイントが加算され、グローバルで年間スコアがトップクラスになると、コミュニティへの寄付用としての数万ドルが提供されるらしい。社会貢献は、イマドキの会社ならどこもお題目として必ず唱えることになっているが、ここは Salesforce.org という社会貢献専門の組織を作っているぐらい本気である。仕組みとして担保されているので、ありがちな本社機構の一部だけの取り組みではなく、カントリーレベルまで展開されている。かといって、参加への変な同調圧力は今のところ感じない。皆それぞれにしれっとやっている雰囲気である。社内で募集されているものにみんなで参加してもいいし、近隣のちょっとした活動に一人で勝手に参加するのでも登録さえすればポイント加算されるらしい。

図1.pngBootcamp スライドの背景画像。何種類もキャラがいるらしい。Ohana なテイスト。

Salesforce は、当時 Oracle Corporation で若くして VP となった Marc Benioff が、サバティカル休暇で過ごしたハワイの海でふと思いついたビジネスらしい。ハワイの民族文化にいたく感動したらしく、ハワイ語の Ohana (オハナ) ≒ 家族 を企業文化の軸に据えている。顧客、パートナー、従業員といったステークホルダーとの相互扶助関係を重要視しているようだ。また同じく休暇中に立ち寄ったインドの高僧から、今までに勝ち取ってきたものを今度は社会に還元していく番だとの薫陶を受けており、それで社会貢献が創業当時から会社のミッションに含まれているのだという。Salesforce が掲げる 4つの Value、「Trust」「Customer Success」「Innovation」「Equality」はこれらが出発点となっている。社会要請やビジネス戦術により後付けされたのではないので、企業文化に根付くドライバー足りえるのかもしれない。どこぞのワンマン社長が急に思いたって「明日からみんなのことオハナって呼んじゃうぞ」とか言い始めたら確実にキモいしその真意を疑ってしまうが、ここでは、少なくとも当方の目にはごく自然な振る舞いのように見える。月曜の朝に社内外に向けてお菓子を出すのも、そんな振る舞いの一部なのだろう。

会社のミッションステートメントそのものはいくらでも変えられるし、ビジネスモデルですら模倣できる。しかし、企業規模が大きくなればなるほどそれを定着させるのが難しい。結果、日常の小さな活動において頻繁にその約束を破ることになる。その点この Ohana カルチャーは創業以来の Brand Promise だ。「社会からの信頼が云々」とややこしいことを言わずに Ohana という一言で済ませているところがまたイイ。当方、入社前は Salesforce という社名からもっと競争的な企業文化をイメージしており、入社後の印象の違いにとても驚いた。早くも 2 日目におとずれたボランティア活動は、まずそのような企業文化を理解するうえでとてもいい機会となった。まだまだ一端にすぎないだろうが、少し異質なこの企業文化が、成長の秘密の一部であることは間違いないだろう。

次回以降は、もう少し会社のオペレーションモデルや Bootcamp の中身、オフィス環境などにも触れていきたい。

@hirokome on Twitter

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する