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プログラミングでメシが食えるか!?

時間外労働に関するお話

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4月から新しい就業規則の運用を開始して1か月ちょっとが経ちました。最も細かく改定した部分が就業時間管理関連で、とくに時間外労働に関しては明確化をしっかり行いました。

当社の場合、長いこと出来高制だった時期があり、基本的な月収以外は出来高に応じた賞与で分配、というのがメンバーの意識に擦り込まれており、昔から時間外手当の記載は就業規則にあったものの、実際はほとんどのメンバーが「どうせボーナスでもらえるから」と申請をしていませんでした。いくらメンバーが自らそうやっていたとはいえ、労働基準法には準拠しないため、揉め事が起きるとまずいと考え、途中からは給与明細に見なし残業分として毎月固定額を明記するようにしてきました。

当社では基本的にほとんど残業はしないで通常業務は間に合うのですが、ずっと気になっていたのが、メンバーが「自ら社内に残ること」でした。技術オタクが多いので、自宅に帰っても趣味のプログラミングや電子工作をするので、広くて機材も豊富な会社で趣味も・・・というケースがそれなりにあったのでした。もちろん、会社としてはそのように趣味を通じて得られる知識も大事なことですので、会社で仕事以外のことを残ってするのを禁止はせずにいましたが、国の指導としては「会社は仕事をする場所であり、会社にいる時間は労働と見なし対価を支払うこと」となっています。以前はタイムカードを使っていましたが、趣味の時間に入る前に打刻するのは忘れがちなため、勤怠報告書を自分の手でまとめて提出するようにしました。

しかし、趣味の時間の最中にも仕事の問い合わせなどがあれば結局対応してしまうなどの問題もありますし、そもそも見なし残業分との関係もわかりにくくなるということで、今回の就業規則改定では、見なし残業は廃止し、国の基準通りに時間外手当を支給するとし、勤怠報告書と時間外労働の申請許可の仕組みを明確化しました。もちろん、趣味で残ることも禁止はしませんが、勤怠報告書と申請許可からは除外することにしています。

実際に1か月ちょっと経ちましたが、実はIT関連メンバーの残業申請はゼロです。「出すなよ」と圧力はもちろんかけていません。こうやって労働時間の管理を明確化したことにより、ひょっとすると、今までは見なし残業代があったために、なんとなく帰りにくかったのが(とはいえ、以前から19時までにはほぼ誰もいなくなっていましたが)、時間管理が明確になったことで帰りやすくなったのかもしれませんね。

IT業界では長時間労働が長年問題になっています。当社でも受託開発が中心だった頃は、比較的長時間労働だった気がします(それでも、他社からは短いと言われていましたが)。製品開発販売に主軸を移してからは、どんどん労働時間は短縮でき、今では定時を過ぎるととっとと帰る状態になりました。小さいお子さんがいる家庭では早く帰宅して子育てを、あるいは、ジムに通ってトレーニングを、夜の勉強会などのイベントに参加、飲みに行く、など、それぞれ時間を有効に使っている様子です。下請け仕事ですと元請けさんより先に会社が空っぽになるのは気が引けたものですが、製品開発販売では、働いた時間ではなく、しっかりした製品を作り、きちんとサポートすることが明確に求められるわけで、むしろ長時間労働して集中力が低下して品質が落ちる方がマイナスなわけです。

もちろん、時間外労働を減らす方向にするために気をつけた点もあります。まず、「上司ほど早く帰ること」にしました。私も率先してとっとと帰ります。会社を出てからでも仕事はいくらでもできる環境にはしてありますので、仕事が残っていても帰るようにしましたが、最近はそもそも皆の仕事の質が高くなったおかげで、夜中までトラブル対応をするなどのケースはなくなりました。やっぱり、上司が残っていると部下は帰りにくいものですので、上司は率先して早く帰るようにしました。時間管理が明確になった就業規則のおかげでさらに上司は帰りやすくなったことでしょう。ちなみに、以前の就業規則では課長以上は時間外手当の支給なしでしたが、現在の就業規則では会社が特別に指定した者以外は全て支給対象としましたので、上司も支給対象です。労働基準法で言うところの管理監督者は、一般的な会社の課長や部長はまず当てはまらないと考えたためです。「労働時間や採用に関する裁量権を持つこと」が、一般的な課長・部長にあるとは考えにくいですものね。

本来は、技術者集団である当社の場合、労働時間による対価を支払うのではなく、成果による報酬の方がはるかにマッチします。腕が良い人ほど短い時間で成果を出しますし、創造的な仕事は時間に縛られずにやるほうが捗ります。しかし、裁量労働制を適用できる分野は非常に限定的で、ソフトウェア開発はまず適用できません。まあ、ルールはルールなのできちんと守るしかないわけで、新しい就業規則はとにかく国の基準通りに、ということで作りました。時間に無関係に、というのは日本のルール上難しいので、あとはできるだけ儲けた中から頑張った人への賞与を増やしたり、右肩上がりにして昇給をどんどんしていくしかないでしょう。

以前から長時間労働の根本的な背景だと感じているのは、何か起きたときに「誠意を見せろ」となり、「人を出せ」「(意味もない)報告書を今すぐ出せ」「(生産性が落ちるだけの)手間のかかるルールに変更する」など、依頼側が大騒ぎする問題です。もちろん、請けた側の能力不足がほとんどなのかもしれませんが、能力が高いチームでも人間ですからたまにはミスもあります。それでも一律同じような大騒ぎをするので、能力が高い人達はそういう仕事を避けるようになり、現場はますます能力不足で長時間労働まっしぐら、となる気がします。私自身も下請け仕事時代は何度もそういう嫌な思いをしました。能力が高い人達は意味のないルールによる締め付けはとても嫌います。本来どうするのが一番効率的かを知っていて、それができない現場など全く魅力を感じません。能力にほとんど関係なく一律の時間単価で非効率なやり方を矯正される現場に能力の高い人が入りたがるわけがありません。もちろん、下請け仕事でもとてもよい現場もあり、そういう仕事を選んでいましたが、いずれにしても自分たちのやり方でもっと良い仕事をしたいという思いから製品開発販売に事業を変化させました。言うとおりにしていればお金はもらえる下請け仕事ではなく、やりたいようにできる代わりに魅力がなければ1円にもならない製品開発販売を選んだわけです。苦労も多いですが、メンバーたちのやり甲斐もあり、労働時間も短縮でき、成果も出る状態に立ち上がりました。すでに下請け時代の最盛期よりも多くの利益を生み出せている状態になっていますが、現状に満足せず、ますます効率的に良い仕事をして行きたいものです。

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