やりたいことをするには、起業だけが選択肢じゃない
「起業に向いている人、いない人」に関して、ブロガーの皆さんからとても参考になる記事がUPされていますね。オルタナブロガーには起業社長も多いので、経験者の言っていることならではの重みがあります。
私自身は社長ですが、起業して社長になったのではなく、現在の会長が大学発ベンチャーとして起業した会社の2代目社長です。企業社長に比べると間違いなくローリスクですが、ローリターンでしょうし、やりにくい面もとても多いと思います。そんな私が語れるのは、企業についてではなく、後継社長のことでしょう。坂本さんの記事で言うところの、「スタート・サバイバル期」ではなく「拡大期」ですね。
当社の株式は9割以上を会長が所有していますので、オーナーは会長であり、社長の私に求められるのは、会社を持続発展させることです。会社の存続に関わるような判断はもちろん会長に相談する必要があります。非常に分かりやすく言えば、「オーナー社長に比べ、決定権は弱い」とでも言えるかも知れません。
会長は大学院時代に会社を立ち上げ、それから30年黒字経営を続けてきました。10年持つのが50社に1社と考えれば、会長の経営はすばらしいの一言なのですが、その反面、独裁的でもありました。私は保険証によれば社員番号49番なので、私より先輩が48人いたはずなのですが、現在私より社歴が長いのは会長を含め3人です。他の人は皆辞めてしまったのです。もちろん辞めた理由は本人の都合もあり、会社側の都合もあり、様々ですが、基本的に会長と直接関わる位置にいた人はほぼ「ついていけなくなって」辞めたのです。会長は、自分の思い通りでなければ激しく攻撃しますし、言われたことしかやらなくても叱ります。新入社員に対しても経営者視線を要求するというような感じでした。その厳しさの結果として、会社は30年続いたとも言えるでしょう。社内だけでなく、社外との関係も白黒はっきりしていました。
一方、私はそんな会長の人の使い方が嫌いで、メンバーからはいまだに「イケイケタイプ」と言われていますが、実は自分では「調整型」だと思っています。当社のような技術系の仕事では「人」こそ全てです。ノウハウは人につきますし、仕事も人につきます。仕事の質もセキュリティも全て人次第です。メンバーがやりがいを感じ、仕事を愛してくれなければ、全てが崩れてしまう業種だと思っています。
入社当時はCADシステムの開発販売を任され、自分で事業部も作りましたが、全く稼げず、途中で受託開発を中心に切り替え、さらに自分たちの得意分野で勝負するようにしてきて、メンバーの入れ替わりも多少はありましたが、優秀なメンバーを10名以上集めてきました。その後IT製品開発販売事業も立ち上げ、まだまだですが、メンバーたちはやりがいを持って自発的に取り組んでくれています。どの事業も私自身が率先してやっていた時期もありますが、軌道に乗ればメンバーに任せて、私自身は会長との調整、お客さんとの調整、次はどうするかの検討などをしてきました。メンバーたちが挑戦したいことを具体化させたり、間違えた方向に行かないように経済・経営に詳しい人に指導をお願いしたり、いろいろなコミュニティに顔を出して、相談できる人を増やしたり、きっかけを得たり・・・今でも自分でプログラマーもやっているとはいえ、「調整役」をきちんとこなしてきたから、メンバーも離れず、社外との関係も維持発展できてきたと思っています。
やりたい仕事は会社を作らないとできないということではないと思います。もちろん大きな会社になればなるほど、自分の主張を通すのは大変なのでしょうけれど、この事業でこういう将来性があり、こんな感じに稼いでいく、ということをきちんと説明できれば、つまり経営的に見てまっとうであると言えれば、会社が駄目と言うことは少ないのではないでしょうか。起業するとしても、余程自分でお金を持っていなければ、銀行から借りたりして資金集めが必要で、その際にはまっとうな将来像を描けていなければ借りられないのは当たり前です。自分の会社を説得するのと、他人、しかも投資のプロを説得するので、どちらが敷居が高いかは、ちょっと考えただけでも明確でしょう。
今の自分の状態に不満を感じるのであれば、それは自分自身でそういう状態に入り込んでいると思うべきでしょう。自分で「こうしたい」という思いがあっても、行動しなければ変わりません。起業するしないの前に、今の環境で自分の思うような状態に持って行けるかどうかをまずやってみるべきではないでしょうか。今の会社がそんな環境ではないことが本当に確実であれば、それは他を探すなり独立するなりを考えても良いかも知れませんが、どの会社も本当に良いことを提案してきた人を切り捨てるような扱いはしないと思います。自分の意見が通らないというのは、実は自分の意見がまだまだ甘いから、ということなのかも知れません。
ということで、起業すればいいってものではなく、まずは自分を磨き、今の環境で行動してみること。これが「雇われ社長」の私からのお勧めです。雇われだろうが何だろうが、やりがいのある仕事ができれば幸せなんじゃないかな、と思っています。