坂本さんの「製品開発のコツなんてあるのだろうか?」に連動して
普段、オルタナティブ・ブログの記事からメンバーの参考になるのを見つけてメールで見るように通知するのは私の役目なのですが、今朝は朝が早いメンバーに先を越されてしまい、坂本さんの「製品開発のコツなんてあるのだろうか?」を読みましょうとメールが流れました。
当社も製品開発販売に力を入れていますので、負けてはならんと(?)書く気になったので、書いてみます!
●お客さん・知り合いから「こんなものない?できない?」
坂本さんも「お客様からヒントをもらう」と書かれています。私の経験上、製品開発には2つのタイプがあり、
・お客さん・知り合いから
「こんなものない?」「こんなもの作れない?」と相談されて、「ああ、それなら作れるよ」と作り始めるタイプ。
・自分で思いついて・必要になって
自分で作りたいものを作る、あるいは、自分が必要で作るタイプ。
こんな感じに分類できると考えています。今当社のIT製品でホームページに掲載してあるものはほとんど「お客さん・知り合いから」タイプですね。実は以前には他にたくさん製品(もどき?)があったのですが、まともな(?)製品が増えてきたので、掲載から外したのでした。それら外した製品は「自分で」タイプが多かったのです。
自分の意志で作り始めた製品は、意外と「自己満足」で終わってしまうことが多い気がしています。その理由は「見てくれる人がいない」からだと思っています。相談を受けて作ったものは、少なくとも相談してくれた人は見てくれますから、自己満足よりは厳しい、第三者の視点で評価してもらえるのです。それがまともな製品への近道なんだろうと思っています。従って自分の意志で作り始めた製品でも、どんどん評価してもらえば良い製品にできるはずで、Ethdelayシリーズは100台以上販売してきましたが、使ってもらいながらどんどん良い製品に育っていったのです。
●すぐ作る・動かしてみる
この先は少し坂本さんと異なります。当社の場合は自分で作れるメンバーがたくさんいますので、コンセプト云々より先に、まずプロトタイプを作ってしまいます。前述の「お客さん・知り合いから」タイプの製品は、相談を受けて数日のうちにプロトタイプを作って、見てもらうか、こんな感じだと報告しています。オルタナブロガーの山口さんのアイディアで誕生したEthcaptureは、確か翌日には動く状態にして「できました!」と報告してます。
私が仕事でとても大切と考えていることの一つが「スピード」です。相談してくれた人の熱が冷めないうちに「できました!」と報告できるかどうかはとても大切だと思っています。せっかく自分たちで作れるのですから、作ってしまえば良いだけのことです。まずは技術的に目処がつけば良いので、そのレベルのプロトタイプなら、大抵はそれほど時間もかからないものです。動かしてみれば盛り上がりますし、課題もすぐに気付きます。「考えているより作ってしまえ」です。
●品質・サポート
実はプロトタイプを作るところまでは、その後の苦労を考えれば大したことないのです。製品としてお金をいただいて提供するものにするためには、品質が重要ですし、販売する際にも、販売した後にもサポートがとても大切です。品質に関してはそれだけで1冊本が書けるほど様々なポイントがあるのですが、私が必ずやるのは、「まず自分で実運用してみる」ことです。特に常時稼働させておくタイプのものは、自社で連続して利用してみます。IntraGuardianシリーズやProDHCP、PerfectHAなどは常に自社で本稼働させています。品質が悪いと自分たちがひどい目にあうので、すぐに気がつきます。IntraGuardianシリーズなどは、不具合で排除機能が動き出したりすると、自分たちのネットワークが完全に使えなくなったりしたものです。試験などを社内本番ネットワークでやっていたら、あまりにも頻繁にネットワークが使えなくなり、他の部署からクレームが入って、自分たちのセグメントだけでテストするようにしたこともありました。
サポートも同様にとても大切で、製品が良くてもサポートが悪ければ評判は非常に悪くなります。こちらもたくさんのポイントがありますが、基本は「お客さんの立場になって」対応することですね。また、自社開発製品ですから、「わかりません」は許されないので、必ず解決することが重要です。
●販促
ただ作っても売れません。製品を知ってもらわなければならないわけです。これがまた実に難しいのです。無名の小さな会社が「セキュリティ対策製品を作りました!」と言っても、「あやしい」「本気なのか?」「実績は?」と見向きもされません。ProDHCPのように、技術的に難易度が高く、他ではなかなか作れないものは、最初の1つの実績さえ作れれば後は何とかなっていくのですが、IntraGuardianシリーズのように競合製品がすでにあり、作ろうと思えば比較的簡単に作れるものは、余程の特徴がないと相手にされません。IntraGuardianシリーズは2年くらいで1500台くらい売れましたが、その裏には実に多くの失敗とチャレンジがあるのです。それは長くなるので、また別の機会に・・・というより、「普通、そこは暴露しないでしょう」と突っ込まれそうですが。。
●メンバーがやる・メンバーを巻き込む
ここは私の個人的な考えかも知れませんが、会社のトップが自力で苦労して製品を作って販売して・・・というのはあまり良くないのではないか、と考えています。なぜなら、
・トップが倒れたらどうするのか?
・メンバーは本気になっているのか?
・サポートもトップがしてくれればいいけど、それは無理だろうし・・・
・その製品が駄目だったら、会社自体が駄目になるのでは?
と、いろいろな想像をしてしまうからです。要するに、個人事業みたいな印象になってしまう恐れがあるのです。
当社も、IT製品を作り始めたのは、私が自分で勝手に作っていたのが始まりです。が、やっぱり、今考えれば私の趣味でやっているようなものだったのです。使ってくれるのはほとんど知り合いだけという感じで、とても「製品事業」とは言えない状態でした。それでも技術アピールにもなっていたので、意味はあったのですが。
今は、私が作った部分が入っている製品もありますが、主体はメンバーです。「製品事業をやりたい」という強い意志を持ったメンバーたちが、開発・販促・サポートなどを自主的に考えて活動しています。もちろん私もアドバイスしたり、場合によっては直接動くこともありますが、それはできるだけマニアックな製品だけにし、売れ筋製品はメンバー主体と考えています。
製品を作って売るというのは、言われたとおりに仕事をするのとは異なり、本気度が高くなければできない仕事です。良くある話で、凄腕の営業を連れてきたが、全然成果が出ない、というのは、その営業が製品に思い入れを持てないからで、思い入れを持つためには、やっぱりその製品の立ち上げに深く関わった人でないとなかなか難しいのです。ある程度製品が認知され、ルートセールス的なことや、販売店の展開など、いわゆる営業テクニックで広められる状態まで行けば、思い入れ云々がない人でも売れるようになると思いますが、立ち上げの苦しい時期には、製品に愛着があり、思い入れがあるメンバーでなければ駄目なのです。トップ一人が本気でも、お客さんはすぐに見抜いてしまいます。メンバーたちが本気になってはじめて組織として製品が世に出せるようになると、私は考えています。
実際に、当社のメンバーたちが製品のアピールに行くと、お客さんは口を揃えて、「楽しそうだね」「目が輝いているね」という感想を口にしてくれます。やらされ感のある人から製品は買いたくないですからね。
トップがやるべきことは、製品が立ち上がるまでの間、メンバーのバックアップをしてあげることでしょう。金銭的な面、トップならではの人脈、経営視点からのアドバイス、叱咤激励、社内外での調整などです。「言ったとおりにやれ!」と言っても良い製品は生まれませんし、立ち上げの苦しい時期を乗り越える気にはなりません。
●なぜ製品開発販売に取り組むのか?
最後に、なんでそんなに苦しい製品開発販売をやるのか?ということですが、やっぱり「自分たちのやっていることがちゃんと見てもらえるから」ではないかと思います。受託開発だと、裏方になり、どれだけすごいシステムを開発しても、自分たちの名前が世に出ることはまずありません。技術者としてはとても歯がゆいのです。
また、受託は直接エンドユーザから受けるより、下請になることが多いので、不景気だと仕事の絶対量が減ります。元請けが社内のメンバーを使うようになるからです。
どの仕事も楽ではないのですが、どうせなら、自分たちを表舞台でアピールしたい、という思いが、製品開発販売への原動力なのだろうと思っています。