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エンタープライズコラボレーションの今と今後を鋭く分析

日本の生産性は本当に低いのか

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 ちょっと前になるが、タイム・コンサルタントのTomoichi_Satoさんが「職人の国の生産性を上げる、最良の方法」という記事で日本企業の生産性が低いと言われることについて興味深い分析を述べられている。詳細は記事を読んでいただきたいが、結論としては「日本の労働生産性が低いのは、生産に従事する人達の働き方がわるいのではない。儲けるのが下手なのだ。」とおっしゃっており、値決めや差別化などのマーケティング分野での力不足(生産性の低さ)が日本企業の生産性が低いといわれる原因だとされている。

 これはこれでかなり納得感のあるお話だが、他には無いのか。以前から私自身も日本企業の生産性が外国の企業に比べて低いと言われることにかなり違和感を感じていた。良い機会だと思うのでこの原因について考えてみたい。残念ながら付加価値労働生産性の統計については、私も専門外でそんなに詳しいわけではないし、日本企業以外に勤務した経験も無いので、もしかすると外すかもしれないが、現場における業務の効率化を通じて生産性向上を図るという取り組みについては、複数企業で何度かの経験があるのでそれをベースに考えてみたい。

 まず私個人としては、日本企業の製造分野における生産性は低くないと思っている。既に多くの製造工程は機械化とオートメーション化され、なにより日本には、QC活動やトヨタ方式をはじめとする製造現場の改善手法がもう何十年もの前から導入され定着している。最近はやりの日本企業の工場などでの製造工程を放映するテレビ番組などで、機械を配置する位置から人の歩き方、はては工具一つ一つの置き場所まで細かく見直して最適化した日本の製造が他国に効率の面で劣っているとは考えにくい。
 したがって、もし企業全体で他国に効率(生産性)の面で後れを取っているとしたら、製造以外の分野で著しく劣ると考えるのが妥当ではないか。
そうなると日本企業では管理分野や営業分野で無駄が多いということになる。では、具体的にはどこでそうなるのか。

 まずぱっと思いつくのは、意思決定の遅さや複雑性か。日本企業では合議制の為に意思決定者が多く意思決定に時間がかかり、ここに無駄が多いという説がある。経験上この説には頷ける部分もある。業務分析で顧客企業の稟議書を見させてもらうと判子が10個以上並んでいるものを未だによく見かけるからだ。企業内の意思決定の遅さは、売り手側の企業から見ても営業活動時間が長くかかり説明先の部署も多くなり営業コスト増につながるので、社会全体の非効率につながっている可能性もある。
 しかしながら、書籍「日産 驚異の会議(東洋経済新報社)」には経営学者ピーター・ドラッカーが述べたという日本の組織の特徴に関する以下の一説がある。

 欧米ではひとたび意思決定をすると、その中身の「売り込み」を行ない、それに沿った行動を取るように関係者に働きかける。決定内容が実行されない場合も多々ある。さらに困るのは、決定内容を実行に移すまでにあまりに時間がかかり、いざ実行する頃には、まったく的外れではないにせよ、状況に合わなくなっている場合が少なくないことである。
 これとは対照的に日本では、決定内容を売り込む必要はまったくない。すでに誰もがその内容を知っているのだ。しかも、意思決定のプロセスをとおして、どの答が組織のどこで歓迎され、どこで反発を受けそうかも、明確になっている。このため、反対者を説得したり、決定内容の本質を変えない程度に反対者に譲歩したりするための、十分な時間がある。
 日本とのあいだでビジネスをしたことのある欧米人はみな、交渉段階では、同じテーマについて果てしなく話し合いがつづき、少しも先に進まないように思えるが、結論が出たあとは一気に行動に移るため、呆気に取られた経験を持っている。

 合議制には意思決定後のプロセスの効率化の側面もあるというのだ。そうなるとこれだけが日本企業の生産性が低い原因では無いようにも思える。

 うーん流石に労働生産性の話は奥が深い。長くなったのでいったんここで切るが、松本 健太郎さんなどは「一人あたりの労働生産性」として纏めて議論することに警告も発していらっしゃるのでそれも含めてまた後で考えてみたい。

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