ネットからの意見収集システムは政治分野でも成功するのか
1月のソフトウェアフォーラム2009に栗原さんと小林さんと一緒にWeb2.0フォーラムで講演とパネルディスカッションを行ったことは以前に書いたが、そのなかでソーシャルCRMの話題が出ていた。ソーシャルCRMの定義は、従来のCRMに加えてソーシャルネットワークコンセプトとWeb2.0技術を使ったアプローチのCRMということで今のところまだ抽象的だが、当日はお二人からいくつか事例を使った具体的なイメージが紹介された。
栗原さんからはSalesforce.comの“Successforce IdeaExchange”小林さんからはデルの“IdeaStorm”がソーシャルCRMの一形態として紹介された。これはWeb等を使って自社のファンやユーザからの意見や要望を広く収集して、製品やサービスの改善や新商品の開発に役立てようという手法で、以前紹介したソーシャルメディアの活用法の分類だとType3の顧客知活用型に分類される。例えば小林さんのスライドによると“IdeaStorm”ではユーザから7,000以上のアイデアを集め、実際に30以上のアイデアが実施に移されたとある。
顧客知活用型の商品開発は実は日本企業でも結構以前から取り組まれてきた。パソコン通信時代からパナソニック(旧:松下電器産業)が参加者の意見を取り入れながらパソコンを開発した例などがある。ただし最初の頃はいくつもの成功事例がでたものの、直ぐに失敗事例や難しい面も明らかになってその後若干下火になった。
実際雑誌日経情報ストラテジーの2001年3月号には覆面記者座談会として「仮想コミュニティ型の商品開発は両刃の剣」という記事が掲載されている。座談会では「仮想コミュニティ型の商品開発は両刃の剣」の欠点として
- 「ユニークな意見も多いが明らかに実現不可能な意見もある」
- 「願いが叶わない場合かえって不満が溜まる」
という欠点をあげている。それ以外にも
- 「マニア向け意見が多く必ずしもユーザ全体を代表しない」
- 「あまりにも沢山の意見が集まりすぎて対応できなかったり埋もれてしまったりする」
- 「声の大きい人の意見に振り回される」
といった欠点もナレッジマネジメント業界では良く知られている。
そう思ってSalesforce.comのパートナー部隊にいる知り合いに“Successforce IdeaExchange”の評判について聞いてみたが、期待は裏切られ相当に良い反応だった。寄せられたアイデアには真摯に対応していること、改善や対応の時期を明確に回答することで発言者に意見を出して良かったと思わせる仕組み、日本と違ってアイデアを出す人の意識が違う、という事などを良い点として説明された。
でなんとなく話を聞いていて思ったのは、今のSuccessforce IdeaExchangeへの参加者であるSalesforce.comユーザはかなりレベルが高いのではないかと推察した。今SaaSを使っているのはきっと新しい技術やサービスなどん欲なGeek層が多いだろうし、あとIdeaExchangeにはSalesforceを売っている代理店の人が多く参加しているとも聞く。意識レベルが高いと、既にある機能の再提案や思いつきの提案ではなくきちんと調べた提案が増えるだろうし、知識レベルが高いと意見の説明も平易で、今の技術的に不可能なことを提案することも少ないのではないか。
さてこの“Successforce IdeaExchange”を元にした“Salesforce CRM Ideas”というサービスは、米オバマ次期大統領のWebサイトChange.govで採用されたというニュースがある。Webサイトを通じて米国民のアイデアを収集して政策に生かそうということらしい。私はまだこちらのサイトを見ていないのだがさてどうか。
パソコンやサービスへの改善や不満の意見に比べて政治の分野での意見は多種多様だ。しかもそれぞれが複雑に絡まっていてひとつの意見を取り上げると他の意見を却下することに繋がったりしそうだ。意見を発する人の分母も大きくてその中には当然酷い内容も含まれるだろう。そしてせっかく意見を上げたのに無視されたり却下された人が逆上してアンチに転じることは良くある話だ。
こうした問題は当然予め分かっていることで、Change.govがこうした欠点を補うためにどんな工夫や仕掛を入れたのは興味が湧くところである。そしてそれが上手に機能するのなら日本の政党も直ぐに真似をしそうだ。選挙が近いこともあるし。