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ソーシャルメディアをWeb解析の視点から捉え直す

ソーシャルメディアを意識したWebサイト:新はてなブックマーク

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以前のエントリで、ソーシャルメディアは「コンテクスト」を作るのに役に立つのだろうか、という話をしました。

ユーザーは背景を持っており、Webサイトは目的を持っている。これらを繋ぐのがサービスやコンテンツだったりするわけですが、これは自動的にマッチングされるわけではありません。ユーザーは自ら行動し、Webサイトの運営者はユーザーの背景を想定してサイトを設計する。互いに歩み寄っていくわけです。背景とユーザーとコンテンツと目的が全てピッタリ当てはまった時、ユーザーとWebサイトの運営者は双方ハッピーになれます。そしてこの4つの要素を一気通貫する言葉として、「コンテクスト」「ストーリー」といった言葉があります。
ソーシャルメディアは「コンテクスト」を作れるか

今回はこのシリーズの第2回目として、新はてなブックマークを取り上げてみます。

はてなブックマークの特徴

はてなブックマークは日本最大規模のソーシャルブックマークです。ソーシャルブックマークの特質は、ユーザーが情報をクリップするにとどまらず、クリップされた数やフォークソノミーなタグなど、ユーザーの行動によって元の情報に付与されたメタデータを最大限活用する点です。メタデータの活用方法で最もポピュラーかつ分かりやすいのが、たくさんブックマークされた記事にフォーカスをあてて、情報にニュースバリューを与えることです。これだけの人がブックマークしている、だからこの記事は注目するに値するのだろう。そういった期待をユーザーに抱かせ、サービスのページに人を呼ぶことが出来ます。

はてなブックマークの特徴は、この人気記事の集合体(ホットエントリー)に加え、ユーザーが別のユーザーのブックマークを時系列で追えるようにした(お気に入り機能)ことでした。単に全体で人気のある記事だけでなく、自分と趣味の近い人をフォローすることで、ユーザー自身の手でブックマークのストリームをパーソナライズすることができたのです。

最近流行している「キュレーション」という言葉も、はてなブックマークはお気に入り機能を実装した時点で1つの形を見ていたわけです。またいわゆる「ソーシャル」的な要素も、この時点で取り入れていました。

拡大するソーシャルグラフ

Webサイトのコンテクストという観点でみると、はてなブックマークはしかし、ソーシャル性の高いお気に入り機能よりも、より全体性の強いホットエントリーへの注目が高かったように思われます。Webサイトのビジネスモデルにもよりますが、広告収益の割合が高ければ、やはりより多くのユーザーに来てもらうことが目的になりますし、そうするとユーザーをWebサイトへ連れてくるための「コンテクスト」は、ソーシャルではなく「みんなが見ている」というスペクタクル性の高いものになります。

やがてTwitterやFacebookが普及し、ソーシャル性は、つまりWebにおけるユーザー同士の繋がりははてなの枠の外に広がっていきます。当然、この急拡大したソーシャルグラフを情報のフィルタリングに利用しようという発想が出てきます。

smashmediaの河野氏はソーシャルグラフについてこのように書いています。

興味関心でつながる人間関係を「インタレストグラフ」なんて呼んだりしますが、これは昔からネットでは可視化されてたんですよね。だからぜんぜん新しくない。ただ、このインタレストグラフがソーシャルグラフと重なるところが現代的で、これは高精度なノイズフィルタリングになるから意味があるわけです。

ソーシャルなんちゃら | smashmedia

ソーシャルグラフを現実における関係性の模写だと捉えた場合、はてなブックマークのお気に入り機能は、インタレストグラフと呼ぶことになります。河野氏はこのインタレストグラフとソーシャルグラフ、その一致するところに価値があると言っています。

n:1のコンテクスト、1:1のコンテクスト

さて本題です。新しいはてなブックマークは、TwitterやFacebookのソーシャルグラフを利用したストリームが特徴です。TwitterやFacebookでコネクトしておくと、そこで評判だった情報、つまり自分の周りで話題だった情報を手にすることができます。これは一見すると河野氏のいうインタレストグラフとソーシャルグラフの掛け合わせに近いものかも、と感じました。

しかしこの新はてなブックマークリリース後、元はてなのCTO、現GREEの伊藤直也氏が書いたエントリーでは、以下のようなことが指摘されています。

……同じお気に入りユーザの1ブックマークでも「ぼくという人間と jkondo, miyagawa, あるいは hoge さんがどういう知り合い(関係)かなのかというコンテキスト」がその価値に大きく影響を与えるということ
・そのコンテキストという今まで見えなかった価値をデータに変えるのが「誰かがソーシャルブックマークにブックマークを投稿するという行為
・これがソーシャルブックマークの本質的価値 だと思っている
・自分と他の人の関係性、つまりソーシャルグラフのコンテキストが URL に価値を与える ・・・ ここにフォーカスしないといけない
・みんながブックマークした、という視点に立ってしまうと、このコンテキストが失われる
・たとえそれが自分のソーシャルグラフをベースにした「みんなのブックマーク」だとしても、大事なのは 1:n の context ではなく 1:1 の context

http://naoya.hatenablog.com/entry/2011/11/22/234059

確かに新しいはてなブックマークのマイページは、ある情報に興味を持っているTwitter/Facebookのフォロワーは把握できますが、逆にその彼らが誰であるかによって、その情報への興味がぐっと引き出されるかというと、そうではないように思います。インタレストグラフの可視化まではいくのですが、ソーシャルグラフの活用にまでは至っていないということなのかもしれません。

フィルタリングという誤謬

TwitterやFacebookが現れる以前から、Webを情報収集に使おうと思う人にとって、もはやそれは海というよりも洪水と言うべき事態になっていました。この情報の洪水をどうにかして切り抜けようという意識は、やがて「ノイズのフィルタリング」、つまり自分にとって興味のない情報を取り除こうという発想に繋がります。これははてなに限った事ではありません。

ただ今回の新はてなブックマークマイページと伊藤氏のエントリーを見て、この発想がどうも間違いなのではないか、単なるフィルタリングの発想では、情報とユーザーを結びつける、引力のようなものは発生しないのではないかと感じました。フィルタリングのような消去法の発想ではなく、何が情報にアクセスするための引き金になるのか、何が人を情報へと引き寄せるのか、その間にあるものを見つけて、作り出す必要があるのではないか。

そう考えた時、伊藤氏のエントリの最後にある

計算機的なアプローチで今改善しなきゃいけないのは、お気に入りユーザの推薦機能

という指摘は、示唆的です。確かに私自身、Twitterを経由してはてなブックマークのお気に入りユーザーが増えたことは何度もあります。はてなではTwitterが流行り出した時、「どうするどうする?」という話になったようですが、インタレストグラフとソーシャルグラフをマッチさせる場所としてTwitter・Facebookを機能させれば、両者が食い合うことはほぼないように思われます。

ソーシャルメディアとWebサービスの関係性を考える上で、新はてなブックマークは非常に参考になる例だったように思います。

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