原子力論考(36)世界的には原発建設は加速します
まずはこれをご覧ください。
UN supports Japan reactor restarts
アメリカABCニュースの記事で、「国際原子力機関(IAEA)の専門家が日本の原発再稼働を支持」というもの。
次はこれ
↓
米エネルギー長官 原発推進姿勢強調(NHK)
アメリカではスリーマイル島(TMI)原発事故以来、原子力発電所の新規建設はされていませんでしたが、最近それが34年ぶりに認可されました。アメリカが原発増設の方向に政策転換をしたのはもともと前政権ブッシュ大統領時代のことで、民主党オバマ政権もそれを継承しています。
「日本でこんな大事故が起きたのにどうして? 信じられない」と思う方も多いでしょうが、ここまでは単なる、既に報道されている事実。
ではどうしてそういうことになるのか? を簡単に(と言いつつ長々と)書きます。
まずはこのチャートを見ていただきましょう。左側に世界の原子力発電所の増加をうながす要因、右側にそれを抑制する要因を書いてあります。タテ方向は時間の流れに沿っています。
以下、長々と解説しますが・・・・
今を去ること約40年前、1973年に第4次中東戦争が起こり、それに引き続いて(実際はもう少し前から)起きた第一次オイルショックから原油価格の高騰時代が始まり、これが1970年代を通じて続きます。
となると、世界は原油高対策を推進するわけで、省エネ技術・代替エネルギー(といっても北海油田など)等の開発が一気に加速し、その結果80年代以降は逆に原油価格低迷時代となりました。
そうなると「原発建設推進」の1つの材料が消えます。
さらに、80年代には東西冷戦も終結し、世界の安全保障環境が好転しました。これによって、エネルギーの安定確保という面からの原発建設の要求も弱まりました。
加えて、79年と86年にそれぞれ起きたTMI事故、チェルノブイリ事故などを背景に原子力安全規制が強化され、原発建設費の高騰をもたらしただけでなく、80年代の長期金利は10%を超えるという、現代からは想像を絶するほどの高金利時代であり、建設費が高額で投資回収に長期間を要する原発建設には不向きな時代でした。
以上、図中ピンク色で示した4つの条件が重なって、1979年以降アメリカでの原発建設は凍結され、34年が過ぎたわけです。
この34年の間にアメリカの商用原子炉メーカーは衰退し(作れないんですから当然です)、原子力発電所を作れるのは日仏の3企業グループに集約されます。
これが現在はどうなっているのか? というと、原発建設を抑制していた4つの条件がいずれもひっくり返っています。
原発建設費の高騰は新たな技術開発を生み、安全性と経済性を向上させた新型炉が開発されました。アメリカで建設認可されたのも当然その新型炉です。
一方、現在は80年代とは比べものにならない低金利時代です。この10年ほどの間にその低金利と新興国の成長、および世界の金融市場の発達が、原油だけでなく石炭、天然ガスを含む一次エネルギー価格の爆発的高騰をもたらしました。そうなると当然、新興国での原発需要も生まれてきます。試しに「原発」で未来年表を検索してみると、中国をはじめとする新興国での原発建設ラッシュの様子がわかります。
未来年表で「原発」を検索する
一方、新興国の成長は今度は世界のパワーバランスの変動を招きます。
1970年代の中東におけるパワーバランスの変化が第4次中東戦争を引き起こしたように、これからまた地域紛争が起きる可能性は否定しがたいものがあります。エネルギー関係ではロシアとウクライナのガス紛争も記憶に新しいところ(と言っても2005~6年の話ですが)。
これらの事情を考えると、「ホルムズ海峡その他の海峡を大型タンカー数珠つなぎで運ばれてくる原油や天然ガスに国のエネルギー資源を依存したくない」・・・とはどこの国でも考えることであり、その結果
世界的には原発建設は加速する
のは間違いないのです。
■原子力論考 一覧ページ
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