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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

数式"だけ"で具体的状況を表現するのは無理ですよ

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こんにちは、文書化能力向上コンサルタントの開米瑞浩です。

昨年末以来私が「掛算の順序」問題に首を突っ込んでいるのをご存じの方も10人ぐらいはいると思いますが(もっといるって(^^ゞ)、その関連で書いた文書のひとつをこちらに転載します。掛け算順序問題に興味がない人でも、私が普段やっている「読解力・図解力」やら「説明書」の問題に関心のある方なら、おお! なるほど! と思ってもらえるような気がしますので。

というわけで本文開始。

数式だけで具体的状況を表現し切ることは無理

まずはこういうシーンを考えてみてください。



ここで、太郎君は問題を解くためにいくつかの「知的作業」を行っています。その「知的作業」を、「目的」と「手段(道具)」に分解すると、次のようになります。



上記3つの「目的」欄はそれぞれ別なワークであることに注意してください。単純な文章題であっても、それを解くためにはこの3つのワークを連携して行わなければなりません。

ところで、問題は、多くの算数の練習問題が 「自然言語文」 を示したあとは 「数式」→「答」 というフォーマットで構成されているということです。



もし、子供の 「R:実世界の状況認識」 と 「M:数学的構造の認識」 の力が十分ついていれば、自然言語文から数式へ一足飛びに向かわせても問題は起きません。

しかしそれが不十分だと、困ったことになります。実際、「計算問題はできても、文章題ができない」というのは算数ができない子の典型的な悩みです。
これは、

  計算オペレーションはできていても、「R:実世界の状況認識」 と 
  「M:数学的構造の認識」 ができていない子が大勢いる

ことを示しています。

では、ある子供がたとえば「かけ算」を勉強し始めたとき、先生はその子が R と M のワークでつまずいていることをどうやって察知するのでしょうか?

・・・・という悩みを抱えた先生が、あるときうまい手を思いついたのでしょう。

立式の順序を「1つ分の個数 × いくつ分」に固定させれば、
基本的な「R:実世界の状況認識」が出来ていない子を発見しやすい!

というものです。この方法には、非常に限定的ではあっても一定の効果はありそうです。確かに、ごくごく基本的な「R:実世界の状況認識」も出来ていなければ、このルールには対応できません。

しかし、いいことばかりではありません。というよりこの方法には欠点のほうがはるかに多いと思われます。

■欠点1:すぐに抜け道ができる
テキストパターンマッチングをやるようになると、Rが出来てなくても対応できてしまいます。
(テキストパターンマッチングというのは開米の造語で、文章を本当には理解せずにちょっとした文言の断片を手がかりに解答のパターンを選択する解き方のことを呼んでいます。これをやっていたら真の実力はまったくつきません。詳しくはリンク先を参照)

■欠点2:真の算数の力がつかない
そもそも数式はCのための道具なのであって、数式だけで具体的状況を表現し切ることは無理です。それを使ってRやMの力を測ろう、というのは根本的に不可能な話です。RとMについてはそれ自体のトレーニング方法を考えるべきで、「数式」を使うのは本末転倒以外の何者でもありません。そんな無理でお茶を濁していたのでは、結局、RとMの力がつかないままで終わってしまいます。

■欠点3:社会的かつ数学的に間違い
「かけ算の立式順序のルール」は、実際には社会的にも数学的にも存在しません。存在しないルールを小学校で徹底して教える、というのはおかしな話です。
(参考→まずは確認しておきたい常識的事項

■欠点4:子供のやる気と先生への信頼を破壊する
「かけ算の立式順序のルール」を徹底しようとすると、数学的にも社会的にも正しい解答を、学校内だけのローカルルールで不正解にする、というケースが多発します。これを子供に納得させるのは難しく、本来正しい解答を不正解にされた子供のやる気を損ない、先生への不信感をつのらせる結果を産みます。

■では、どうすれば良いのか?
具体的な方法までは算数教育の従事者でもない私にはわかりません。が、方針としては単純な話で、RとMについては、Cと混ぜずにそれだけを目的としたトレーニングのカリキュラムを作るべき、というのが本筋です。(「かけわり図」は特にMのための有力な一手段と思われます)


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