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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(12) 原発はエネルギー安全保障に有利(後編)

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この原子力論考シリーズも二桁に達しました。

基本的にこのシリーズは原子力を擁護する立場で書いてますから、実は、批判的なコメントがいっぱいつくかと思っていたのですが、意外に何もないので不思議に思っているところです。そこで・・・というわけでもありませんが(^^ゞ、今回は少し気楽に書いてみることにします。

■シーレーン途絶の危機に関する基礎知識

前号で、「もし仮に再び中東で戦争が起きてホルムズ海峡が封鎖されたらどうなりますか?」と書きましたが、実際にそのような恐れはあるのでしょうか?

海上交通路の中には特に重要なルートがいくつかあります。これをシーレーンと言い、中でも日本にとって重要なのが、ペルシャ湾と日本を結ぶルート。言うまでもなく、原油、LNGタンカーの航路だからです。

このルート上にはペルシャ湾、ホルムズ海峡、マラッカ海峡(およびロンボク海峡、スンダ海峡)といった「危険な海域」があります。

これらの海域で起きた代表的な事件をいくつか紹介しましょう。

■商船三井タンカー損傷事故

去年、2010年7月28日に原油を満載してホルムズ海峡を通過しようとしていた商船三井所属大型タンカー、M.STAR号が外部からの何らかの打撃を受けて損傷した事件です。

国土交通省海事局によるホルムズ海峡タンカー事故原因調査報告

原因は特定できませんでしたが、「船外で何らかの爆発物が爆発したことによる損傷」であることは確定しています。「爆発物」の種類や運搬手段は判明していませんが、「本船の進路付近で不自然な動きを示す小型船の航跡が確認された」とあることから、何らかのテロ攻撃であった可能性は残っています。


■プレイング・マンティス作戦

1988年4月にイラン軍が敷設したとされる機雷によりアメリカ軍フリゲート艦が損傷した事件を受けて、米海軍がイラン軍艦艇を攻撃した小戦闘です。といっても第二次世界大戦後にアメリカ海軍が行った最大規模の水上戦闘であり、イラン海軍の8隻の艦船とオイル・プラットフォームに多大な損害を与えています。これを見て「またアメリカが横暴なことをしやがって」と思う方も多いことでしょう。ですがこうした作戦によってペルシャ湾の安全が保たれているのも確かです。

→ プレイング・マンティス作戦 (Wikipedia)



■湾岸戦争後の機雷掃海

湾岸戦争時にはイラク軍によりクウェート沖に機雷が敷設され、タンカーの航行に大きな支障を来しました。このため海上自衛隊の掃海部隊も参加して機雷掃海を行っています。

機雷というのは非常に厄介なもので、1発でもあるとその海域の航行を一気に止めてしまうほどの影響力があります。第二次大戦時には日本各地の港湾も米軍の機雷により機能を停止し、物流が止まった経緯がありました。現代では航空貨物も増えましたが、大量の物資輸送はやはり船に頼らざるを得ませんので、その船舶航路を妨害する機雷は徹底的に排除しなければならず、そのためには強力な海軍の存在が不可欠であり、航路安全保障におけるアメリカ海軍の役割は極めて大きいのが現実です。

■マラッカ海峡海賊事件

マラッカ海峡も海賊が多い海域で、2005年にも日本籍の船が襲撃され、船員が拉致される事件が起きています。このためマラッカ海峡の海賊哨戒には海上保安庁の巡視船も参加しています。


・・・・と、ここまでペルシャ湾~日本へのシーレーンの事件だけを挙げてきましたが、スエズ運河~紅海を経由するルートもソマリア沖海賊のメッカであり、要は海上交通路というのはどこもかしこも安全ではないんですね。日本国内の陸上交通の感覚でシーレーンを考えてはいけないということです。

「火力発電で電力はまかなえる!」という主張をよく見かけますが、仮にそれが正しいとしてもそれも燃料の供給があっての話です。現在また中東地域が不安定化する兆しがある中で、石油・LNG火力への依存度を増やすことになる「原子力発電の停止」は極めて危険な選択なのです。

まあ、「火力発電で電力はまかなえる!」という主張はそもそも正しくありませんが。

ちなみに、石油タンクは原子力発電所よりも物理的な攻撃に対して脆弱であり、ちょっとしたミサイル、爆弾一発で爆発炎上して有毒物質をまき散らします。それに対して原発の格納容器はジェット戦闘機が直撃しても壊れない強度を持っています。エネルギー安全保障というのはそういうことまで考える必要があります。


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