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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

期待通りの仕事をしてもらうために「説明しなければならない」こと

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 前号の続きです。
 何かの仕事を指示する人が実務者に説明しているシーンですが、こういう場合にだいたいどんなことを言う必要があるか、おおざっぱに分類してみましょう。

 指示:何をやりなさい、という行動内容を示す言葉。

例:「お湯を沸かしてちょうだい」

 目的:なんのためにその仕事(行動)が必要なのか、という存在意義の説明ですね。

 例:
 「お湯を沸かしてちょうだい」
 「目的は何?」
 「カップラーメン食べたいの」

 背景:「目的」が生まれたそもそもの背景を語る必要がある場合もよくあります。

 例:
 「カップラーメン食べたいの」
 「お腹空いてるんだ?」
 「そうなのよ~もう朝から何にも食べてなくて」

 なお、これらをそれぞれ概要と詳細に分ける場合があります。特に「行動指示」を詳細に書くと、その中に「使える材料」の説明が入っていることがあります。

 使える材料:行動を実現するために使うことができる設備、資源等。

 例:
 「ペットボトルのミネラルウォーター500mlと、
 そこにある電気ポットでお湯湧かしてくれる?」

 赤字部分が「使える材料」で、「お湯を沸かす」という行動指示の概要部分は目的に応じて決まることが多いですが、「使える材料」のところは具体的にその時その場にあるものに応じて決まります。
 というわけで視覚化(図解)するとこんな形になります。

 若干、先の説明とは違う用語を使っていますが、ちょうど「行動指示の概要」の部分を「課題」と呼び、「詳細」の部分を「手順」と書いたと思ってください。

 「課題」は目的に応じて決まります。「カップラーメンを作って食べる(目的)」のなら、「お湯を沸かす(課題)」は不可欠ですね。
 一方、「手順」は、課題と材料の組み合わせによって決まります。同じ「お湯を沸かす」が課題だとしても、使える材料が電気ポットなのかガスコンロとヤカンなのかアルコールランプとビーカーなのかで手順は変わってくるわけです。

 ではここから、よくやりがちな失敗をいくつか挙げましょう。
 新入社員に仕事を教えるような場面、「何かの仕事を指示する人が実務者に説明する」シーンでよくやりがちな間違いです。

■失敗1:目的を説明しない

 「何のために」を説明せずに、課題や手順だけを指示しているケースですね。
 意外に多いものです。私が「分かりにくい文書を改善したい」と相談を持ち込まれる時にはよく見かけます。

■失敗2:目的を説明しただけで、通じたと思い込んでいる

 たとえば子どもに「危ないからストーブの側で遊ばないで!」と言葉で言ってそれが通じるでしょうか? そもそも火傷をしたことがない子どもには、「ストーブの側で遊ぶ」ということがどんな「危ない」ことなのかピンと来ません。
 言葉が実感を持って受け取られるためには、受け手の側にそれを理解するだけの経験が必要です。その経験がない場合は、それが通じるようにするためにはあの手この手でアピールしなければなりませんが、これはなかなか難しいのです。

■失敗3:手順を示しているだけで、課題を理解させていない

 これは何のことかわかりにくいですが、たとえば下記の文を見てください。

 「お湯を沸かして、沸騰したら生卵を殻のまま入れて3分ゆでます」

 これは「手順」を示してますが、「半熟卵を作る」という「課題」を示してません。
 複雑な手順を遂行しなければいけないような種類の仕事を説明するときは、往々にしてこういう失敗をします。

 あとは↓下記の2つについて語りたいところですが、少々毛色が違う話なので明日に回しましょう。

■失敗4:網羅的に説明しすぎている

■失敗5:一方的に説明してばかりいる

 失敗1~3までは「説明が足りない」失敗なんですが、4と5は逆に「説明が多すぎる」という失敗です。
 実は、「目的も課題も手順も明快な説明を与えて仕事をさせる」のは、その時その場での任務遂行という面からは望ましいことですが、人材育成という面からは必ずしもそうとは言えないのです。

 詳しくは・・・(明日へ続く)


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