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経営現場で必要となる経営者のマインドや視点に対する一考察

P/L型経営とB/S型経営

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 システム開発を主体とするソフトウェア業界には、技術者を常駐させる派遣型のビジネスで開発を請け負う請負型のビジネスが存在します。明確に区分けをしている会社はほとんど無く、どちらのモデルにも手を出しています。しかし比重で言えば、中小ソフトハウスの主流は圧倒的に前者の派遣型モデルです。これまでは、このモデルでも十分に収益を上げる事が出来ました。SEと言えば最先端の仕事が出来ると信じた学生が就職希望者に多かったという事実もあります。仕事そのものも、ITバブル崩壊以降、インターネットが普及していく段階に入った事もありオープン系の仕事が活況となりました。現在も金融や海外向けに展開している製造業がIT需要を牽引しています。ソフトハウスにとって、技術者派遣モデルは翌月現金回収モデルなので資金繰りが安定します。学生も多く確保でき、仕事も選ばなければたくさんあるという状況の中では、あえて受託開発をベースとして請負モデルに挑戦する必要もありませんでした。

 その結果、そういった会社の決算書を見ると驚くべき結果となっています。一番の目立つ指標は労働分配率です。技術者の人件費を製造原価に投入していると分かり難いのですが、販管費に計上している場合でみると、その分配率は70%を超えている企業が多いのです。これは、人月単価の下落が大きな要因となっています。一般の企業で労働分配率が70%を超えているというのは倒産危険企業です。それでも、派遣を主体としている会社の場合はその他経費が圧倒的に低く、この状態で1%から2%程度の営業利益を出しています。借入とのバランスによりますが、利息と元本返済でキャッシュフローをトントンといった状態です。

 さて、よく業界で言われる事ですが、やはり元請け化して利幅の高いビジネスモデルへの転換を図る必要があります。しかし、先の例の通り、当年度の利益を生み出す事だけに意識を向けているP/L主体の経営をしている場合、エンドユーザー直販の請負ビジネスは簡単ではありません。請負の場合は先行投資的にお金が動きます。人件費や外注費、その他必要経費が先に発生するのです。入金はプロジェクト検収・納品後30日から60日という期間で現金化されます。つまり、資金余裕を持ったB/S型経営を意識しなければ、請負モデルには転換できないのです。これは、一般的に言われているASPやSaaSと呼ばれるこれからの時流となりそうなモデルにも同じ事が言えます。設備投資と販促経費が先に出て行きます。損益分岐点を越えるまで、徹底的に投資をしていきます。これもB/S型経営の特徴です。

 私はこうしたP/L型経営の経営者と次のモデル転換に向けた現場指導を行っています。船井総研では【長所伸展】と呼ばれる今の事業の良い部分を伸ばすと即時に業績が向上するという経営ノウハウを持っています。すぐに業態変更を考えるのではなく、必ず段階的な変化を意識する必要があります。そこで現在の事業の長所にフォーカスし、そこを徹底して伸ばしながら収益力を高めていく事が最初のステップです。次に資金余裕が出たら借入を起こして、計画的にキャッシュリッチな状態を作ります。これが第2ステップです。最後にB/S型経営へのモデル転換を行います。焦らずにステップを踏みながら、自社の理想を追い求めてみて下さい。まずは自社のモデルが違うんだと認識する事が大切です。

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