技術広報は難しい……
一部の方はご存知ですが、私、技術系の広報もしております(というか、それがメインになっていたりします)。その関係で、いろいろな方とお会いしますが、いつも悩むのが言葉のギャップです。
たとえば、「冗長」。技術者から見れば、システムの安全性や安定性に必要な要素のひとつですが、この言葉を一般で使用すると「ムダなこと」になります。確かに、「冗長な表現」とか「冗長な文章」とか、悪いほうの意味で普通に使いますよね。ですから、「冗長なシステム構成が必要だ」という言葉は、相手によっては使ってはいけないわけです。
業界では良く知られていますが、「デフォルト」も同様です。金融関係者にとっては「債務不履行」となるこの言葉ですが、さすがに最近では少しは通じるようになりました。でも、やはり文脈依存です。
さて、ときどき、「上司にこのシステムの必要性を説明したいんだけど、どうすればいい」という相談を受けますが、そのときには、そのシステムがなぜ必要かということ以上に、“その”上司が技術畑出身か、営業畑出身か、事務畑出身かといったことを気にします。彼らの価値観に合わせた説明をしないといけないというのがその理由ですが、けっこうな落とし穴や地雷がいくつもあります。^^;
さきほどの「冗長」はそのひとつですが、技術屋さんが使う言葉というのは、技術屋さんから見れば日常的に使っているために、つい、使ってしまいがちです。自分ではまっとうなことを言っているつもりでも、相手によって、その受け取り方は様々だということを常に念頭に置いて発言しなければいけません。
このことは、原稿を書くときにも当てはまります。初心者向けを含め、いろいろな対象に向けた記述を重ねていく経験の中で、「これはこの言葉に置き換えると通じる」とか「この表現は禁句」といったことが自然と積み重なってきます。ところが、そうした言葉で原稿を書こうとすると、技術関係者(技術者とはあえて言いません)から「正確でない」とお叱りを受けることがままあります。
技術文書の場合は、正確さがとても重要になります。しかし、他の分野の人や顧客に理解してもらうためのドキュメントでは、彼らが理解できる範囲の言葉に置き換えて説明することが同じくらい重要です。コンピュータもこれだけ一般化してきたのですから、そろそろ、自分達が使っている言葉の正当化のためにわざわざ用語辞典を作るよりも、歩み寄りをするほうに努力を傾けたいものです。