【AIの現在地】そもそも「モデル」とは何か? 後編
前編では、AIで用いられる「モデル」の概念を整理しました。後編では、モデルと機械学習の関係や、生成AIを支える「基盤モデル」について、解説します。
ルールベースから機械学習モデルへの根本的な転換
このモデルの「作り方」に起きたパラダイムシフトが、近代のAI技術の発展を決定づけました。それが、1980年代に主流だった人間がルールを記述する「ルールベース方式」のAIから、1990年代後半〜2000年代にかけて定着した データから自律学習させる「機械学習(Machine Learning)方式」への転換です。
ルールベース方式のAIでは、「件名に『無料』とあれば迷惑メールにする」といった条件分岐(If-Thenルール)を、エンジニアが手作業で記述していました。しかし業者が「無 料」「free」など、空白を入れたり表記を変えたりすれば、システムは機能しなくなります。このような単純な例ならまだしも、現実世界で生じるすべての例外を人間が事前に想定し、ルールを保守することは事実上不可能です。
そこで機械学習では、人間が直接ルールを書くアプローチを捨て、コンピュータに「大量の正解データ(迷惑メールと通常のメールのサンプル)」を与えます。コンピュータは計算を繰り返し、「どのような特徴があれば迷惑メールである確率が高いか」という判断基準をデータから自律的に抽出します。
パラメータの自動調整がもたらす知能の獲得
このデータから規則性を導き出す学習の際、モデルの内部で重要な役割を果たすのが「パラメータ」です。パラメータとは、モデルが予測を行う際に「データのどの特徴をどれくらい重視すべきか」を調整するための無数の「つまみ」の目盛りに相当する数値です。
機械学習モデルの構築プロセスとは、このパラメータを自動的に最適化する作業に他なりません。コンピュータは手元にある正解データと照らし合わせながら、「このつまみを少し右に回すと予測精度が上がる」「このつまみを少し戻すと誤差が減る」といった計算を繰り返し、最も正解率の高いパラメータの配置を自律的に見つけ出します(最適化)。
このようにして、データという「経験」を通じて自動的にパラメータが調整され、最適化された判断の仕組みが完成することを、私たちは「モデルが学習を完了した」と呼びます。人間がロジックを1行ずつ書くことなく、データの背後に潜む暗黙のパターンを数理的に定着させるこのアプローチこそが、複雑な世界を予測するための最も強力な手段となったのです。
汎用目的技術としての「基盤モデル」がもたらした破壊的影響
さらに2010年代後半から2020年代にかけて、特定の業務(例えば迷惑メール判定や需要予測)のためだけに開発されていた個別の特化型モデルを超えて、新しい潮流が生まれました。それが「基盤モデル(Foundation Model)」の誕生です。
これまでの特化型AIは、解決したい課題ごとに専門のデータサイエンティストがゼロからデータを集めて学習させる必要があり、高い開発コストと開発期間がボトルネックとなっていました。基盤モデルは、特定のタスクに縛られることなく、インターネット上のあらゆるテキストや画像をかつてない規模で「事前学習(プレ・トレーニング)」させた巨大な知的基盤です。
この巨大モデルは、数千億から数兆に及ぶパラメータを持っており、言葉の出現パターンを学習する過程で、論理展開や一般常識、高度な推論能力を必要とするタスクまでもこなす能力を内部に獲得しました。これにより、専門的なプログラミングの知識を持たない人でも自然な言葉(プロンプト)を投げるだけで、翻訳、要約、コード生成などの多様なタスクを汎用的にこなせる「汎用目的技術」としての性格を持つに至ったのです。
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第1回 ビジネスパーソンが生成AIの有償版を使うべきである理由
第2回 「事業変革推進室長」として生成AIで新規事業を企画する
第3回 AIの「魔法」をメール作成と悩みの「壁打ち」で体感
第4回 新規事業の「3段階の自立シナリオ」をAIで描く
第5回 AIにいきなり「斬新なアイデア」を求めるのは避けよ
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