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"戦略と業績評価を一致させる"ことが企業変革の原動力になる 1/2

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「クラウドの売上を伸ばしたい」「フローからストックへ収益構造を転換したい」といった目標を掲げるSIerは近年めずらしくありません。市場の変化は激しく、従来の人月を根拠としたSIビジネスやオンプレミス中心のビジネスモデルが縮小傾向にある中、クラウドやサブスクリプション型サービスのように、継続課金(ストック型)のビジネスを強化していくのは必然の流れといえます。

しかし、多くの企業で「思ったほど戦略の効果が出てこない」という悩みが見受けられるのも事実です。その原因をさぐってみると、「事業戦略で言っていること」と「業績評価で求められること」がかみ合っていない、いわゆる"ダブル・スタンダード"の状態にあるケースが多いようです。

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たとえば「クラウド・ビジネスを拡大したい」と経営層が声高に唱えても、現場の営業や担当部門が、短期的な売上や利益が評価の中心に据えられている限り、どうしても旧来型のまとまった金額の売上になる案件を優先しがちになります。この評価制度と事業戦略の不一致が積み重なるほど、現場は「言っていることとやっていることが違う」と感じ、やがて改革に対するモチベーションは下がっていくのです。結果として「かけ声倒れ」や「指示待ち症候群」が蔓延し、企業全体の成長力を損ないかねません。

IBMで学んだポイント制度が示す「戦略と現場の結び付け」

大昔の話しですが、私がIBMで営業をしていた頃は、通常の"売上目標"に加え、製品やサービスごとにポイントが割り振られ、最終的なコミッションを算出するうえでの基準となっていました。

単に金額ベースで目標を示すのではなく、企業として重点を置きたい製品やサービスに対して高いポイントを設定していたのです。具体的には、小型機種の販売強化を目的として「SBUSmall Business Unit)ポイント」という制度があり、販売金額とは無関係に台数が評価される仕組みでした。こうした評価体系であれば、自然と営業は戦略上重要なカテゴリーに注力せざるを得なくなり、それを得るための知識やスキルを自律的に獲得する動機が与えられます。その結果、上から叱咤激励や精神論を振りかざさなくても、企業として狙った事業領域を拡大することができます。

ポイント制度が興味深いのは、毎年見直しが行われるという点です。前年に力を入れていた商品分野が既に目標を達成したのなら、翌年には別の領域に重点を移す。その際は、意図的に戦略的に重点を置く領域の製品やサービスのポイントを引き上げたり、追加のボーナスを設けたりして、営業のインセンティブを巧みにコントロールするのです。こうした制度の再設計には多大な労力がかかるため、IBMでは専任の組織が存在していました。そのおかげで「事業戦略と営業のお財布」が合致し、現場は自発的に戦略を実行するよう促されていたのです。

また、この制度は営業の担当業務や顧客層によって配分の仕方が違う点も特徴的でした。中小企業を担当する営業には、小型機種のポイント比率が高く設定され、新規顧客開拓の専任者には「何件の新規案件を獲得したか」という指標を重視するなど、役割に応じた評価が行われていました。こうした細分化された指標によって、自分が何を目指せばよいのかが明確になりますし、それが同時に企業の事業戦略ともリンクしているため、自然と「会社に期待されていること」を達成しようという流れになるわけです。

ダブル・スタンダードが生む現場の疲弊

日本企業の場合、こうした「ポイント制度」や「コミッション文化」が定着していません。そのため、経営トップは「クラウドビジネスに注力せよ」「サブスクリプション型サービスに力を入れよ」と求めていても、業績評価は従来と変わらない「売上と利益」しか問わないという"ダブル・スタンダード"が横行しがちです。結果として、営業やシステム開発部門の社員は、どうしても短期の成果が期待できる従来のやり方を重視してしまいます。それが、自分の評価に直接結びつくからです。

このように事業戦略と現場の評価制度がかみ合わない状況は、社員の行動に混乱をもたらします。結果、モチベーションが下がり、変革のエネルギーを得るどころか「もうどうせ言っているだけだろう」と思考停止に陥る社員が増えてしまうのです。さらには「"新しいことに取り組むことで"下がった評価を挽回しようとすると、結局旧来の売上に頼るしかない」という悪循環も生まれます。

精神論や叱咤激励では、こうした根本的な問題は解決できません。「全社一丸で頑張ろう」「危機感を共有しよう」といったかけ声だけでは、評価基準のミスマッチによる矛盾は取り除けないのです。結局、評価制度と報酬が変わらないままでは、行動も変わるわけがありません。

では、このようなダブルスタンダードを解消するにはどうすればいいのでしょうか。次回はこの点について、具体的な施策を紹介しながら解説します。

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