オルタナティブ・ブログ > ITソリューション塾 >

最新ITトレンドとビジネス戦略をわかりやすくお伝えします!

「見せかけのDX」と「本物のDX」

»

DX」には、2種類あるのかもしれない。「見せかけのDX」と「本物のDX」だ。どちらも上から見れば同じことをやっているように見える。しかし、その実態は、かなり異質だ。

db9b33174cba9325d4f239c161abf152.png

世の常として、手段は時間とともに目的を凌駕する。当初、人は課題に直面し、これを何とかしなければと、最適な手段を模索する。最適な手段が見つかり、目的が達せられると、もう目的など意識する必要はない。ひたすら手段を遂行すれば、目的は必然的に達成され、課題は解消されつづける。ところが、時間とともに手段の背後にあったはずの目的は忘れ去られ、手段だけが残されてしまう。例え、その目的が時間とともに意味や価値を失ったとしても、手段だけが残り続けてしまう。

例えば、ある企業では、PCを社外の人間が外部から持ち込む際には、受付でそのシリアル番号を用紙に記入し、出るときには改めて確認を求められる。しかし、時間外の入退出では、受付が閉まっているので、そのチェックは行われない。入るときには受付で確認し、出るときは時間外なので、確認なしとなると、そのPCは社内に残っていることになるが、そのことで、確認を求められることはないという。

これが何を目的としたルールなのかを聞いてみたことがあるが、その会社の社員ですら、よく分からないという。

「見せかけのDX」もこの話に似ている。本来の目的など、どこかに棚上げされてしまい、デジタル技術やデータを使うことが目的となり、どのツールがいいのか、とのように使えばいいのかに腐心する。しかし、ツールの善し悪しは、機能や性能の話しではないはずだ。目的の達成、あるいは、課題の解決にとって、いいのか、悪いのかであろう。ところが、その大切なところが、抜け落ちている。

もちろん、そんなことはないという。効率化だとか、新規事業を立ち上げるためだとか、目的があるという。しかし、効率化も新規事業も、何らかの課題を解決する手段ではないのか。

何のための効率化なのだろうか。それとも、効率化は、絶対の真理として無条件にいいことだからだろうか。

新規事業についても同じだ。何らかの課題に直面し、いままでのやり方では解決が難しいから、新しいやり方で対処しようとする。それが、新規事業であろう。つまり、新規事業は課題解決の手段ではあるが、必ずしも唯一、最善というわけではない。仕事のやり方を工夫してコスト効率を高めることや、そもそも利益が出ないのだからやめてしまえばいいなどという選択肢もあるかも知れない。そういう様々な選択肢のひとつが新規事業であるはずだ。ところが、「新規事業開発室」とか「デジタルビジネス部」といった「新規事業を作ること」を目的に作られた組織では、新規事業という手段を作ることを目的にしているところもあるようだ。

カタチはできても業績に貢献できない新規事業は、往々にしてこのようなと目的と手段の履き違いから、生まれてくるように見える。

デジタルが普及し、人々の行動様式や価値観、人間関係などが大きく変わってしまった。緩やかだった社会の変化も、あっという間に変わってしまう世の中になり、社会の継続性は失われ、不確実性がこれまでに無く高まっている。ビジネスの前提となる社会の特性が変わってしまったのだ。そんなデジタルが前提の社会に適応できなければ、事業の存続も企業の継続もあり得ない。

この現実に対処するためには、ビジネスのあり方、例えば、ビジネス・モデル、制度や暗黙の決まり事、雇用形態や業績評価などを時代に即したカタチに変革しなくてはならない。

そのためのツールとして、デジタルはとても役に立つ。紙や鉛筆、電話やFAXよりも、遥かにコスパがいい。また、デジタルは、かつては無理だった課題の解決や新しい価値を生みだすことができるほどに進化した。デジタルを駆使することは、これまでとは桁違いの効率化と新しい価値の創出に、貢献してくれるというわけだ。

「本物のDX」は、デジタルが前提の社会に適応するためにビジネスを変革する取り組みだ。デジタルは、それを支えるツールである。一方、「見せかけのDX」は、ツールを置き換えて、なんとかして社会の変化に対応しようという取り組みであろう。

両者共に表面上の行動を見れば、よく似たことをやっている。しかし、前者はビジネスを再定義することをめざし、後者は、ツールを置き換えることを目指す。

SI事業者やITベンダーは、どちらのDXに向きあっているのだろう。全てがそうだと言うつもりはないが、多くは「見せかけのDX」であるように見える。なぜなら、その方がリスクはないし、手離れもいいからだ。業務や経営、制度や暗黙の決まり事、ビジネス・モデルなどに関わってしまうと、大変な手間である。そこは、お客様に任せ、ツールだけに関わった方がいいというわけだ。

DXの定義など、あまり重要な話しではない。大切なことは、企業が社会の変化に適応し、生き残ること、成長することだ。その大切な目的を置き去りにして、ツールの導入を推し進めたところで、できることは限られる。

いま自分たちが向きあっているのが、「見せかけのDX」か「本物のDX」なのかをまずは考えてみてはどうだろう。なにも「見せかけのDX」が悪いと言いたいわけではない。そうやって仕事(のふり)をするのも、ひとつの選択であり、生き延びるための処世術だ。しかし、もし「本物のDX」であることを標榜するのであれば、社会、ビジネス、ツールが、ひとつの繫がりであり、この全てにどう関わっていくべきかを考えてゆくべきだろう。

DXとは「デジタルで変革すること」である。では、デジタルで""を変革するのか。ツールの変革か、それとも、ビジネスの変革か。この基本的な問いに答えることが、大切なことなのではないか。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

IMG_2745.jpeg
八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
Comment(0)