「営業力」とは、営業職の能力ではなく営業の能力であるということ
SIerにとってシステム開発力は、商品そのもの。だから、エンジニアを対象とした研修制度を手厚く整えている企業も少なくない。研修制度とまではいかないが、外部の技術研修にコストをかけ、技術者の育成を図っているところも多い。
しかし、いくら立派な商品がそろっていても、それを売るための能力育成となるとどれほどの手間とコストをかけているだろうか。言うまでもないが、お客様の課題を把握できずして、ビジネス・チャンスを手に入れることはできない。
こういう話をSIerの経営者や営業幹部にすると、必ずといっていいほど、「そうなんですよ、営業力をもっと強化しなければならないと考えているんです。」というコメントが返ってくる。しかし、何か具体的な手を打っているかというと、叱咤激励の域を超えていない。
多くの人は、「営業力」というと、「営業職の能力」と受け取っている。しかし、本来、営業力とは、「営業という仕事」の能力である。この「営業という仕事」は、なにも営業職ばかりがやるものではない。経営者、SE、コンサル、PMも「営業という仕事」をしている。だから、「営業力」ではなく「ビジネス開発力」と言い換えたほうが誤解を招かないかもしれない。
「ビジネス開発力」とは、「システム開発力」を売る仕事だ。これは、営業職だけでやる仕事ではない。
この「ビジネス開発力」は、3つの要素によって構成されている。
ひとつは、「知識」。ITばかりではない。お客様の業務や業界、社会経済のこと、人脈や組織の力関係などへの理解である。
ふたつ目は、「スキル」。プレゼンテーションやコミュニケーション、ドキュメンテーションやファシリテーションといった能力だ。
最後は、「プロセス」。仕事を進める手順である。お客様を開拓し、課題を明らかにし、提案して受注に至る一連の仕事の手順を意味する。
「知識」とは、何を売るかを考える元となる。つまり、戦略立案の基盤となるもの。それに対して、「スキル」は、お客様との合意形成や受注に至る一連の仕事の過程を効率よく、確実に進めるための手段である。つまり、「スキル」が高ければ、お客様への説明や交渉が、スムースに行え、仕事の時間短縮ができるからだ。いくら「知識」があっても、「スキル」がなければ、うまく相手に伝わらない。一方、「スキル」はあっても「知識」がなければ、お客様は、魅力を感じないだろうし、納得もしないだろう。
この「知識」や「スキル」を効果的に使うためには、タイミングが重要。それを知るためには、「プロセス」を理解しておかなくてはならない。顧客開拓から、課題発掘、提案、決済、受注に至る仕事の手順には、定石がある。その定石を理解し、夫々のプロセスで何をすればいいかが分っていれば、仕事に無駄がなく、確実に進捗を進めることができる。詳しくは以下の記事をご覧いだきたい。
システム開発には、エンジニアリングという考え方がある。作業の手順を予め明らかにし、チェックポイントを設けて、進捗や品質、コストを評価しながら、作業進めている。「ビジネス開発」にも同様にエンジニアリングという発想を取り入れることができる。
「営業という仕事は、人を相手にする仕事だから、計画や管理、予測は難しい。生まれ持った個人の才能やセンス」とあきらめている人も多いが、決してそんなことはない。
「ビジネス開発力」とは、「知識」と「スキル」と「プロセス」の総合力だ。営業職だけが身につければ良いというものではない。
どんなにすばらしい「システム開発力」という商品を抱えていても、もはやビジネスが向こうからやってくる時代ではない。新しい時代の潮流に踏み込んで、自らビジネスを開発してゆかなければ、いずれ時代の流れから遠ざけられてしまうだろう。そのためにも、この3つの力を育て、実践で発揮してゆく取り組みが必要となるだろう。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン