"The Little Big Things" 小さくても大きなことを大切に
コンサルティング・ビジネスをやりながらいつも思うことは、自分は先端を走る研究者でありかつ請求書を切る営業マンとして、バランス感覚を失わないようにしたいということだ。
世の中の変化ばかり追いかけていると、変化しない普遍的なものを見失ってしまうリスクが大きくなる。新しい情報をインプットすることとは別に、それを利用する自分自身がちゃんと感度を保っているかは、情報が多くなるほど見失いがちなこと。目の前の当たり前の仕事をいつも新鮮な気持ちで取り組めるようにしたいものだ。
これはコンサルティング・ビジネスだけではない。どんなビジネスにおいても同じように当てはまるのではないだろうか。
エクセレントな仕事人になれ!~「抜群力」を発揮する自分づくりのためのヒント163~
トム・ピーターズ(著)、杉浦茂樹(翻訳)
本書には、著名な経営コンサルタント、トム・ピーターズ氏が44年間書きためた経営哲学のアイデアが163個書かれている。
ちなみに原題は"The little big things"。
The little big things つまり「小さいけど大きなこと」とは、些細であっても普遍的に正しいことを意味する。一般に些細なことのほうが、より単純な要因に支配されている。だから私たちはその要因をピュアに知りたいのだと思う。
163個もあるThe little big thingsのどれに感じるか感じないかは、人によって違うものだ。小さな会社で働いている(私のような)人と、大きな会社で働いている人とでは、感じるツボも違っていて良いと思う。
ということで、ここでは全体の16分の1にあたる、私がとくに共感したアイデアを10個あげる。
1.トイレがきれいなこと トイレがきれいだというのは決してそれ自体で大きなプラスにはならないが、人を長く引き留めておく大事な材料になる。ふだん大急ぎで用を足しても、トイレがきれいだとここで過ごす時間が長くなるというのは真実だ。 私が4年前に今のビルに移転先を決めたのも、ふり返ってみればトイレがきれいだと感じたことは大きかったと思う。 2.金融危機以降の厳しい時代だからこそ思いやり 厳しい時代を生き抜くためにライバルを出し抜くのではなく、ライバルに最大限の敬意を払うことが大切。危機は人間の本質を示す最高のチャンスだということだ。 だからポジティブ思考ではなく「思いやり思考」を心がける。危機の状況を楽観論で切り抜けることはできない。ポジティブでもネガティブでもなく「正しい振るまい」を心がけるべき。 3.Resilience(レジリエンス、回復力) ブラックスワン(=予測できない極端な出来事)に遭遇しても何とか切り抜ける技術を身に付けているか、ということ。ブラックスワンにどのように遭遇するかを計画することはできない。ブラックスワンへの対処の仕方で人生が決まってしまうとも言える。 「回復力のある人」の特徴の箇条書きをコピーしておく。
この箇条書きをコピーしながら感じたのは、起業家とは少し違うタイプだということ。最初から目立つようなことはせず奥手で目立たないが、最終的には首尾よくチームを成功に導けるタイプではないか。 4.一番大事な仕事は「自分を喜ばせること」 トム・ピーターズ氏は、顧客の前でインパクトがあり高く評価される講演をするために、「自分を満足させること」に全精力を注ぎ込んでいるとのこと。 顧客のフィードバックは大事だが、そこから顧客の満足につながる答を導くことはできない。顧客を真の意味で最優先に考えるには、その顧客に奉仕する人間(ここでは自分自身)の気持ちをそれ以上に優先しなければならない。 5.思いやりはタダ タダといってもムダなことをしているわけではない。せっかく相手の貴重な時間をいただくわけだから、感動を与えよということ。これには特別コストをかける必要はない。お金より時間を大事にしているような相手(たぶん高いポストについている人)には、きっとこの心配りは届くはずだ。 トム・ピーターズ氏は「思いやりはまた無用な摩擦を減らすことができ、スピードアップのカギになるのだ」とも言っている。何か問題が起きたとき、問題の透明性を上げるために支払うコストを抑制するのも、結局、思いやりなのだろう。思いやりは事実を隠蔽するのではなく開示を促す力になる。──対照的に、近頃は政府や行政の「思いやりのなさ」が本当に無用な摩擦を増やしているように思う。 6.書記はとてつもなく大きな力を持っている トム・ピーターズ氏は、面倒くさくて誰もやりたがらない書記を「立候補してでもやれ」という。彼はスタンフォード大学で学んでいたときクラスで一番の新参者だったにも関わらず、書記役を片っ端から引き受けることで、事実上「グループの記憶」をコントロールできるようになったという。 私自身も企業研修を続けていると、最近は書記を進んでやる参加者が増えてきたことを実感する。利他の精神を説いた私の意図が通じ始めたと思うのは思い過ごしで、実はチームの成果物が評価されることが確実になるや、それまで書記をやらなかったような人も進んでやるようになっているという印象だ。書記は、研修の時間外においてもチームの中心的存在であり続けるからだ。 7.早めの準備 本書の記述そのままだが、
私自身も、自分の主催する勉強会には誰よりも準備をしたという気持ちで臨んでいるが、それでも中には私以上に準備をした人にたまにお目にかかる。こういう人には敬意を忘れないし、内心、負けたなあと感じる。 8.ベストを尽くすだけでは足りない トム・ピーターズ氏は、かつて海兵隊に所属していたとき上官との対話で「ベストを尽くしております」と応えたら厳しく叱責されたという。上司いわく「君がベストを尽くしているか否かには関心がない。われわれは単に、君が職務を全うすることを期待している」と。 確かに「ベストを尽くす」にはどこか責任を逃れるような響きを感じる。「職務を全うすること」が本来の許容水準なのだ。 9.敵はわれわれ自身 念を入れてマーケティング戦略を企画することも大切だが、実際は企業の足下をすくいかねない組織の問題に目を向けるほうがよほど大切だ。成果が出ない問題の多くは、業務遂行を妨げる組織の硬直化に原因がある。
発見した敵が実は自分自身だったというのは悲しいことだ。これはGMのように大きな会社だけではなく、小さな企業にも当てはまる。 これを発展させて考えれば、「自分の組織に適した新事業しか成功しない」というよく聞く常識も、実は同じ原因が潜んでいるように思う。自分本位で考えすぎれば、環境変化に適応する機会を逃すことになるからだ。 10.ライバルを愛する IBMの元社長トーマス・ワトソンが定めた行動規範「絶対に競争相手の悪口を言うな」。このルールに背いた社員は首にすると言われたほどの厳しさがあったと言われる。 ライバルに対して寛容になれる気持ちは結果論にも聞こえるが、実は次の成長に向かう準備なのだとも思う。トム・ピーターズ氏も「業界が栄えるとき、業界の評判があがるとき、あなたも成功できる」と言う。──こんな言葉は私の身の丈を超えてしまっているが、心の底で同意している。 トム・ピーターズ氏はまた「同業者に尊敬され、同業者のためになる仲間でいたい。はっきり言えば、そうすることで、実は自分の競争力をずっと守っていけるのだ」と言う。──競合企業を批判するのではなく、助けの手をさしのべる気持ちが大切だ。競争が熾烈なほど、ビジネスには品位が大切になる。 |
以上、私なりに163分の10個、気になって自分なりに咀嚼したものをあげてみた。これらは自分のThe little big thingsとして大切にしておきたい。
本書は目次だけで圧倒されるが、163個の筋立てを期待してはいけない。著者も筋立ての無い仕上がりにしたと言っている。この中から自分の気に入ったアイデアを見つけて記憶に留めておけばいずれ役に立つのではないか。