Agile から Lean への旅 -- UK Lean Conference を終えて
9月末に開催された、UK Lean & Kanban Conference に参加してきた。今回は、スピーカーとして呼ばれる、という光栄に預かった。これは、現在、アジャイル界で起きているスピンオフ・ムーブメントである、「Kanban」に関してぼくが発言をしているからだ。
一言でKanbanを言うのは難しいが、2009年10月時点では、「ソフトウェア開発のフローを見える化し、WIP(Work in Progress=仕掛)を制限することで、顧客価値のスループットを上げ、同時に改善を促す活動」、とぼくは定義してみた。もちろん、トヨタ生産方式のかんばんから来ているが、ソフトウェア開発向けにここ3年間でずいぶんとBoKが積み上げられていて、Agile2009 でも Limitting Wip Society というグループが、"Yes, We Kanban" というTシャツを着ていた。(アイコンは、大野耐一をモチーフにしている!)
さて、このカンファレンスに参加してみて、ぼくなりに「アジャイル」と「リーン」について考えてみた。
- アジャイルとは何だったか:
ぼくにとって、アジャイルは現実のソフトウェア開発の中で「ソフトウェア工学」が捉えそこなったものの1つだ。アジャイルが発見したことは、ソフトウェア開発のボトルネックは「ソフトウェア工学」の部分にはもうすでになくなっていて(デマルコの記事は読んだよね?)、ビジネスとソフトウェア工学を繋いでいる「ソーシャル活動」の部分にあることだ(これは決してソフトウェア工学は要らない、といっているのではなくて、一番大きなボトルネックは移動した、ということだ)。例えば、スクラムは、「役割定義とビジネスと開発の間のコミュニケーションパターン」だということができる。そして、もっとも重要なことはソフトウェア自身に価値はなく、ビジネスに価値がある、ということ。アジャイルは、言ってみれば工学の考え方を開発のソーシャルな面に延長したのだ。(Ivar Jacobson は、「ソーシャル工学」という言葉でそれを呼んでいる)
つまりだ、アジャイルは、「ビジネスとソフトウェア工学の間のコネクタ」ということだ。
- リーンとは何か:
しかし、ビジネスの世界はソフトウェアだけではない。ビジネスの見地からみると、IT(あるいはソフトウェア開発)は、1企業の価値流の一部をになう。ソフトウェア開発という活動は、企画、マーケティング、営業、さらには会計や財務なども含めて大きな価値流の中での価値付加活動の1つなのだ。
リーンは、コンセプトを開発を通じてキャッシュにする(顧客に価値を届ける)までの流れを作っていく企業ワイドの活動だ。(自分用の注: このフローは製品開発のモデル、ITのユーザ企業のモデルであり、日本に多いソフトハウスやSIerのモデルは別途考察必要)
この様子を、「Tモデル」として描いてみた。
- Chris Matts のモデル:
Chris Matts とロンドンで多くの会話をしたが、この絵は彼がディナーテーブルの上で描いてくれたものだ。彼のモデルは、「意識」と「コンピテンス」のマトリクスになっている。
アジャイルが、企業の競争力を高めるための「意識的な課題の解決」に焦点を当てているのに対して、リーンは、この課題解決を「無意識化」する活動だ。この「無意識化」には知識の転送が必要だ。そう、リーン企業では、競争力は無意識化されているのだ。
Chris はこの絵にいくつか足したいと思うだろうけど、それは彼に譲ろう。
※この記事の英語版はこちら。
http://jude-users.com/en/modules/weblog/details.php?blog_id=65