『ソフトウェア開発に役立つマインドマップ』本が出ます!
『ソフトウェア開発に役立つマインドマップ』という本を書きました。構想から1年以上もたってしまいましたが、ようやく形にすることができました。
http://www.amazon.co.jp/ASIN/dp/4822283143/xpjp-22
ぼくはマインドマップに始めて出会ったときに、そのインパクトと人間らしさ、自由さ、発想を広げる柔軟さに惹かれました。そして使ってみるうちに、こういう「楽しい」、「やわらかい」ものがもっとソフトウェア開発の中に使えないか、という思いにとりつかれるようになりました。
いろいろ試してみてうまく行くものを取捨選択し、この本の中に詰め込むことにしました。中にはちょっと実験的なものも含まれていますし、議事録テンプレートのように、すでに僕の中では定番になっているものもあります。これらを、使える形でみなさんに提供し、ソフトウェア開発現場をより明るく生産的な活動の場、とすることが僕の目的です。
僕はソフトウェア開発の現場、というものを自分の今の中心フィールドとしています。これを変えたい、もっとプロジェクトの成功率を上げ、エンジニアの笑顔が増えるような環境を作りたい、という思いが先行しています。
その1つが、ソフトウェアのモデル技法への取り組みです。たとえば、UMLのような「グラフィカルな図解」をもっとソフトウェア開発に持ち込みたいという思いは1997年のJUDEの開発を始めたときから思っていることです。でも、UMLだけでは、うまくいかない。特に、UMLから実装コードを吐き出そうというMDA的な発想にははっきりと限界を感じました。
実は、「モデル⇒実装の自動化」をがんばればがんばるほど、「コンピュータで動くためのモデル」を作ることになり、「人間が理解しやすいモデル」から遠のくのです。
そもそもそのモデルは、人間がやりたい、ということを本質的に捕らえているのだろうか?人間の考え、思い、やりたいこと、そんなものを発想し、モデルに写し取ること、が本質なのであって、コードを作ることは別に手でやったってたいしたことではない。そんな風に考えるようになりました。
そういった意味で、現在のソフトウェア開発で使われている、UML、ERD、DFD、フローチャートのような、「ソフトウェア側に近い発想」では、顧客と会話できない、ことがずっと僕の中で問題となっていましした。これらの記法は、シンタクスとセマンティクスが強すぎて、誰にでも描けないのです。もっと、カジュアルに、「こ~んな感じ」という表現ができる記法、それを探していたところで、ぼくはマインドマップに出会いました。
マインドマップのもつ「あいまいを許す力」、「発想を誘発するカジュアルさ」、「ポップさ」、こういったものが、現在のソフトウェア開発の中にもっと有効に活用できる場面があるはずです。この本には、開発に役立つマインドマップの特徴として、8個=5+2+1個を上げました。
- 1 プレイバック効果=書いた場面を思い出せること
- 2 一覧性=全体を見渡せること
- 3 速記性=すばやく記述できること
- 4 容易性=技術者だけでなく誰でも掛けること
- 5 半構造=構造を柔軟に変更できること
さらに、マインドマップソフトウェアを用いると、以下の利点があります。
- 6 編集性=途中で枝を自由に編集できること
- 7 検索性=キーワードから、過去に書いたマインドマップを検索できること
ユーザや顧客と、ソフトウェア開発の中にあるギャップ、この空間を、もっと埋めて行きたい。という考えています。この本がひとつのきっかけになれば、うれしい。こう思っていたところで、ここに、この本を出すことができたことを感謝しながら、謝辞を書かせてください。
mindmap.jp の伊藤賢さんには、本書全体をレビューして頂いただけでなく、本書中にご自信のマインドマップも提供していいただきました。赤坂英彦さん、水越明哉さん、懸田剛さん、天野良さんには、それぞれ個性のある素敵な手書きのマインドマップを提供して頂きました。筆者が最初にマインドマップに出会ったのは、2003年、中野禎二さんのプレゼンを見たときです。考えを表現する手法としてビジュアルの印象に魅せられました。また、最初にマインドマップとITの連動の可能性に気づいたのは、山本明夫さんのお陰です。彼には、JUDEの開発にも多くの影響を与えて頂きました。宮脇裕治さんには、本書を丁寧にレビューし、本書を魅力的にするアイディアを頂きました。浅海智晴さんには、マインドマップと半構造についての深い洞察を頂き、さらに本書の第4章を特別に寄稿いただきました。マインドマップ・モデリングという手法が、要求とソフトウエアをつなぐ新しい道になるよう、今後もアイディアを交換していきたいと思います。米国のKent Beck、James Robertson(『要件プロセス完全修得法』の著者)には、自作のマインドマップおよび利用法を寄稿いただきました。さらに、Mary Poppendieck(『リーンソフトウェア開発』の著者)には、本書の元になる英語論文をレビューしていただきました。KentとMaryは筆者のソフトウェア開発方法論の大先輩であると同時に、私生活でも親しくして頂いている人生の先輩でもあります。安井力さんには、この本に先立って執筆されたマインドマップとUMLの連携について書かれた初めてのWeb記事で、事例を書いていいただきました。山崎知恵さんには、マインドマップテンプレートの多くを書いていただき、伊登左和さんには、一部マインドマップのイラストを手伝っていただきました。この本から、楽しさが表現できたとしたら、それはお二人のおかげです。さらに、たくさんのフィードバックを頂いた、JUDEを実際にお使いのみなさん、ご意見と励ましをありがとうございました。懸田さんはじめ、チェンジビジョン東京のTRICHORDチームは、ソフトウェア開発の中でのマインドマップ利用方法を試行実践し、本書にいくつも写真を提供してくれました。福井と中国のJUDEチームは、実際に使いやすいマインドマップ・ソフトウェアにJUDEを育ててくれました。本書を書くにあたって、日経BP社の高畠知子さんには、編集という「開発活動」(!)を通じて、ぼくのつたない文章が読者に届く言葉になるまで、辛抱強くキャッチボールを繰り返してくれました。とても感謝しています。ここに感謝のお名前をあげられるのはごく一部の方であり、ここに書ききれない方々にも多数、ご協力を頂いています。ソフトウェアの開発も本の執筆も、一人の力では形にすることができません。僕はこの世界に何か新しいことを生み出したい、とずっと思い続けていますが、それが一人の力では決してできないことを、そして、「一人の力でできないこと自体がこの世界の本質」なのだということを、また今回も感じています。みなさんの「参加」に感謝します。本当にありがとうございました。
この取り組みは、ぼくがソフトウェア開発の現場をもっと生産的で喜びのあるものにしたい、という思いを表現した、2つのものの1つです。もう1つは「プロジェクトファシリテーション」と名づけた、現場の見える可手法であり、こちらも、あと1年かけて本にしていきたいと思います。