ある有名ハンバーガーチェーン店の反乱
今から10年近く前の話である。
大阪のある駅前に、有名ハンバーガーチェーン店がオープンした。
どこにでも見掛けるこのハンバーガーチェーン店だが、
しかしこの店の様子だけは少し他の店とは異なっていた。
ハンバーガーチェーン店と言えば、
無表情の笑顔に、決まり切った応対という
徹底されたマニュアル接客が普通だが、
この店だけは、まるで市場の商店か小さな居酒屋のように
愛想が良くてフツーの笑顔と言葉で話しかけてくるのだ。
この自然な接客が、ハンバーガーチェーン店に似つかわしくない
賑やかさを作り出していた。
例えば、こんな感じである。
店員「いらっしゃいませ。今日は暑いですねぇ」
私「ほんまに暑いねぇ。ちょっと前まで寒かったのに。。。」
店員「いらっしゃいませ。急に雨が降ってきましたね」
私「ちょうど事務所に帰ってきたところやったから良かったわ。。。」
などなど、
なんとカウンター越しに、店員と客で世間話が成立していたのである。
そして、馴染みになると、明らかにその客を認識して微笑み、
「まいど!」とまで声を掛けて貰えることが出来た。
すっかりこの店の馴染み客になってしまった私は、
ある時、カウンター越しに、この店のリーダーであろう女性店員に、
聞いてみることにした。
私「ここの店は、他の店と違ってめっちゃ愛想いいね。
他に店員さんと世間話出来る店なんてないよ」
女性店員「はい、うちはこの方針でやるんです!」
この方針を考えたのは、
この女性店員なのか、あるいは店としての判断だったのかは定かではないが、
残念ながら、このユニークな店と決別する時は、意外にも早くやってきた。
この店がオープンして3ヶ月ほどした頃である。
私はいつものようにこの店に行くと、
店員がみな浮かない顔をしている。
特に、リーダーであろう女性店員は、一段と暗い表情だ。
そして、接客態度も一変し、どこの店でもあるような
マニュアルに支配された無機質なものに変わっていた。
これは本部から注意を受けたな、と簡単に察しがついた。
こうして月日は流れ、しばらくすると女性店員はいなくなり、
他の店員も徐々に他の人に変わって行き、
いつしか自然な接客を売り物にしていた店は、
その痕跡を一切残さなくなった。
ちょっとした「あるハンバーガーチェーン店の反乱」は、
こうして終わりを告げたのである。
ちなみに、私は今日もこのハンバーガーチェーン店で昼食を取った。
カウンター前に出来た長い行列を見ていたら、
ふと、こんな昔話を思い出していた。季節は早くも師走である。