エンジニアとは…小学校で伝えた話(IBM EWeek 社会貢献プログラムより)
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今週、ボランティア特別休暇を取得し、日本IBMが社会貢献の一環として実施している、EWeek(Engineers Week)に参加してきました。震災後の仙台で開催された際に参加して以来、私にとっては2度目です。今回はたまたま地元の小学校で開催されることもあり、久しぶりの参加となりました。
この活動では、子どもたちに対してROBOLAB(ロボラボ)というMIT(マサチューセッツ工科大学)とLEGOグループで開発されたロボット教材を利用します。子どもたちは、パソコンでプログラミングし、試行錯誤しながらロボットを動かす過程でエンジニアリングについて学んでいきます。いわゆる課題解決型の授業を実施します。
今回は、90名弱の子どもたちに対し、ROBOLABを実施しました。その中で、私は冒頭で「エンジニアとは?」という話を15分させていただきました。その資料のプレゼンテーション・パッケージを作っている間は、楽しくて仕方なかったです。学生のときは科学技術館のユニバース・ライブショーのスタッフとして、第一線の研究者のプレゼンテーションのご支援をしていましたが、その方たちの気持ちがわかった気がしました。
その内容を、当日言いそびれたことも加えながら記載しておきたいと思います。小学生向けなのでストレートなメッセージです。
その内容を、当日言いそびれたことも加えながら記載しておきたいと思います。小学生向けなのでストレートなメッセージです。
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「こんにちは。IBMでエンジニアをしていますはたなかです。今日はこれから皆さんにエンジニアとして、ロボットを操作してもらいたいと思います。コンピューターを使って、ロボットをゴールまで動かしてもらいます。エンジニア。日本語で言うと、技術者ですが、医者や消防士、学者と違って、どんな仕事をしている人たちかよくわからないと思います。これから、そのエンジニアとは?というお話をしますが、それでもピンと来ないかもしれません。ただ、今日の授業の終わりには、エンジニアってこんな感じなのかな?と体感できているかと思います。これから話す内容と合わせて考えてもらえたら、と思います。」
【これは何の写真?】
これは何の写真かわかりますか?
そう、宇宙。宇宙にある銀河の写真です。
実は皆さんにとても縁があります。というのは、皆さんの街に国立天文台があるからです。
ちょうど先週、特別公開(三鷹・星と宇宙の日 2013)をしていて、多くの人が訪れていました。私も学生のとき、この天文台で研究していたこともあります。毎月2回天体観望会を実施しているので、ぜひ出かけてみてください(要 事前申し込み)。
皆さんは天文台のある、素敵な街に住んでいます。
さて、これは宇宙の銀河を、宇宙に浮かんでいるハッブル宇宙望遠鏡で撮影した写真です。
こちらはスペースシャトルのディスカバリー号から撮影したものです。
銀河というのは星の集まりだと習いましたか?
天の川を見た人もいるでしょう。天の川も銀河の一つです。
宇宙には何千億個も銀河があると言われています。
それだけあるのだから、ということでもないのですが、この銀河は、昔、二つの銀河が衝突してこのような形になりました。
衝突によって、星々がアンテナのように伸びたように散らばって見えるので、アンテナ銀河と名付けられています。
【人の目では見える部分は世界の一部に過ぎない】
ところで、皆さんが見ているこの写真、実は人の目で見える銀河の姿だけが写っています。
世の中のあらゆるモノは、いろんな信号を出しています。これは電磁波として伝わってきます。
その中で人の目で見えるところ、これを難しい言葉で可視光の部分と言います。ほんの少しの信号しか受け取れません。
しかしながら、今は携帯電話で使われる電波やレントゲンで使われるX線を受けて、銀河の姿を捉えることが出来ます。
【電波で銀河を観る】
今回は、その中でも特に、電波で捉えた画像を見てもらいたいと思います。
どんなふうに見えると思いますか?
こちらは先ほどのアンテナ銀河を電波望遠鏡という望遠鏡で捉えた画像です(提供:ALMA-ESO/NAOJ/NRAO, Visible Light-NASA/ESA Hubble Space Telescope)。
左側が電波で捉えた画像です。これは電波で見たら、こんな色で見えるというわけではありません。
電波の強いところ、弱いところを赤や青の色で表したわけです。
少し、拍子抜けだったでしょうか。
それほど、おお!?という銀河の姿ではありませんよね。
ただ、目で見えるところとは違うところ、一見、何もなさそうなところに電波を出している場所があることがわかります。
実は、ここにはガスが溜まっていて、星が生まれる材料が含まれていると考えられています。こちらのNGC1433という銀河の画像(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA/F. Combes)も(皆さんの銀河のイメージに近いでしょうか...)、目では黒い帯にしか見えず、光を通さないものがあるとしかわからなかったところが、電波の強いところ、低いところに分かれていることがわかります。
(星が生まれるところ、その研究を進めることは、なぜ自分たちがいるのかという疑問への答えにもなるように思います。)
【巨大な電波望遠鏡が必要?】
ところで、電波望遠鏡がどのような姿をしているか、知っていますか?
皆さんの望遠鏡のイメージとはだいぶ違うかと思います。
こちらは、長野県の野辺山にある、45mの電波望遠鏡です(提供:国立天文台)。
アンテナの形をしていますね。
私も何度か行ったことがありますが、本当に大きな望遠鏡です。
望遠鏡というのは、通常は大きな望遠鏡であればあるほど、多くの情報を得ることができます。
しかしながら、先ほどのハッブル宇宙望遠鏡と同じくらいよく見える望遠鏡を作ろうとすると、その直径が2400mもの電波望遠鏡を作らなければなりません。
では、先ほどの電波で捉えた銀河の姿は、2400mもの電波望遠鏡を使って得られたのでしょうか。
そうではありません。
実は、多くの電波望遠鏡(電波干渉計)を並べることで、1つの巨大な望遠鏡と代わりにすることができます(開口合成法)。
【多くの電波望遠鏡を組み合わせるALMA望遠鏡】
先ほどの電波で捉えた銀河の姿は、実は、南米のチリという国の標高5000mの砂漠に設置されている電波望遠鏡で捉えたものです。ALMA望遠鏡と言います。
ちょうど地球の反対側ですね。
このALMA望遠鏡は、66台のアンテナを組み合わせて、山手線1周分の大きさ、直径18.5kmの巨大望遠鏡と同じ性能として動かしています。
先ほどの電波で見た画像は、このALMA望遠鏡で捉えたものです(写真:Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO)。
人間の視力は、良い人で2.0ですが、このALMAは視力6000に相当する性能です。
それぞれのアンテナで受信した電波の情報は、コンピュータによって処理され、合成されて1枚の画像になります(余談ですが、アルマのスパコンは富士通さんが提供されています。素直に頼もしいと思います)。
ちょうど9月に、66台目のアンテナが運ばれ性能試験が繰り返されています(写真:Credit: ESO/C. Pontoni)。
このALMA望遠鏡は、天文学者とエンジニアたちが協力して研究と開発に当たっています。
(参考)2013年10月03日 アルマ望遠鏡の最後のアンテナの引渡し完了(アルマ望遠鏡 国立天文台)
【巨大な望遠鏡ではなくても、ゴールにたどり着ける】
今回、星の成り立ちや自分たちがどのように誕生したかを知るために、電波望遠鏡を使った観測が行われているという話をいたしました。
とてもいい性能の電波望遠鏡をつくるためには、大きな望遠鏡だけではなくて、小さな望遠鏡を作って並べるという方法があることを紹介しました。
たとえば、足し算で7+3は10ですが、この10という答えを得るためには、4+6や5+5などのいろんなやり方があるわけです。
【エンジニアとは】
その答え、Goalにたどりつくために、調べる、学ぶ、聞くということが必要ですし、いろんなやり方を考えてそのときの状況に合った選択をしていく。そして、うまくいったかどうか、結果を確認して、より良いものにしていく。エンジニアにはそのようなことが求められています。
【日本のエンジニアは、試行錯誤の上、受信機を開発】
このALMAの望遠鏡の開発には日本のエンジニアがたくさん参加しています。7つの受信機のうち、日本は3つの受信機を開発しています。その受信機で電波を通す穴の位置は、その柔らかさ、力の弱さを活用して、竹の繊維を使い、何度も繰り返しながら調整したと、実際に開発された方から伺いました。
【今日は皆さんがエンジニアです】
今日のロボットを使った演習では、Goalにたどり着くためのやり方が一つではないことに気づくことと思います。どれがよりいいやり方か、うまく行かなかった場合は、闇雲に手直しするのではなく、何がいけなかったのかを振り返りつつ、Goalに近づいていくという、エンジニアの体験を是非してみてください。
授業が終わった頃には、エンジニアってこんなものなのかな、と今よりも感じられるところがあると思います。
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