YouTubeの再生回数について考えてみる ~BLUE BIRD BEACHでミュージックビデオ拡散法を実践中~
●重要な指標になっているYouTubeの再生回数
米国の代表的な音楽チャート、ビルボードで2位となった韓国アーティストPSYのYouTube再生回数の操作疑惑が話題になりました。実際に人が観たのではなく、機械的な操作で再生が増える操作を行っていたのではないかというのです。YouTubeが、検索上位などの基準を再生回数から再生時間に比重を移すと発表し、いきなり順位が下がったことが、その証拠とされました。
批判される方もいるようですが、音楽プロデューサーの立場では、韓国エンタメ企業の懸命な努力は、むしろ見習うべき点もあるなと思っています。
また、実際真偽のほどはわかりませんが、機械的な操作までして再生回数を上げようとすると言うことは、その回数にパブリシティ的な価値やユーザーが流行ってる感を感じる価値があるからでしょう。実際、日本においても、複数買いを誘発して順位を上げるオリコンシングルチャートより、YouTubeでのミュージックビデオの再生回数の方が、その楽曲のユーザーからの人気という点は、より正しい指標になっているかもしれません。
特にデジタル配信のプロモーションにおいては、YouTubeとの親和性が高く、無料でミュージックビデオを観て、気に入ったら有料でダウンロードするという、CDショップで視聴してからCDを購入することを彷彿させる消費行動が若年層を中心に広がりました。データ通信の月額制(いわゆるパケホーダイ)が定着してから、YouTubeを観るのは、若者にとって移動時間や暇つぶしの最大の手段になっていると言われています。
音楽のプロモーションという観点だと、悩ましい問題がありました。いたちごっこで無くならない、YouTubeからの違法ダウンロードです。業を煮やした大手レコード会社は、ミュージックビデオのフルサイズをYouTubeにアップしないという方針を出しはじめました。1分半程度のショートバージョンに限るという訳です。
ところが、ここで困った事態が生じます。ショートバージョンのミュージックビデオは、再生回数が伸びないのです。関連動画つながりやキーワード検索で、知らないアーティストの楽曲を聴くのであれば、ショートバージョンでも問題ないような気がするのですが、YouTube好きのユーザーはお気に召さないようです。フルバージョンと比べて、明らかに再生回数の伸びが悪いという経験則が、積み上がってきていました。
●再生されやすいミュージックビデオにするために
そんな状況で、最近行った実験の報告をしたいと思います。
新プロジェクト「j-Pad Girls」は、ヒットプロデューサー浅田祐介氏と組んだ、ソーシャルメディア活用を前提にしたメディアアートプロジェクトです。ビジュアルと歌唱力とソーシャルスキルを兼ね備えた才色兼備の美女に、一番歌いたい曲を選んでカバーしてもらうという企画です。全てのトラックを一人のシンガーの声でつくります。「ヒューマンビートボックス」というか「ひとりハモネプ」がわかりやすいでしょうか?
まずは、こちらの動画をご覧下さい。
相沢まきさんが歌う「君をのせて」は、Amazonのmp3ダウンロードチャート1位、iTunes Storeのミュージックビデオチャート17位、オリコンサウンド着うたフル(R)チャート10位と、ランクインしました。ありがとうございます。
ミュージックビデオの中に、ご本人のインタビュー動画を挿入しているのが、我々の苦心の策です。当初は、YouTubeではショートバージョンをアップして、配信(販売用)は、フルバージョンというつもりでいたのですが、ソーシャルメディア最適化を標榜する「j-Pad Girls」で、ユーザーから不人気の施策をとるのは命取りです。スタッフ、ブレーンを交えて話し合った結果、このやり方を思いつきました。検索したときに、3分23秒と表示されて、フルサイズだなと思われますし、楽曲はフルに聴けて、本人の肉声にも触れられる。「売らんかな」という姿勢に過剰に思われずに、楽曲とビデオを訴求することができるのでは無いかと、考えたわけです。相沢まきさんのマネージャーのお名前をいただいて「竹見式」と僕らは呼んでいます。
「j-Pad Girls」は、僕らがやっている、いわばインディーズなので、話し合って決めれば良いのですが、メジャーレーベルと契約している場合は、そうもいきません。
●メジャーレーベルの新人BLUE BIRD BEACHの場合
ビクターエンターテインメントと今年契約をした新人アーテイスト「BLUE BIRD BEACH」では、ビクターの方針でショートバージョンしかアップできず、再生回数が伸び悩んでいました。昨年、インディーズで発表したビデオは着実に観られて3曲足すと100万回を超えています。ノンプロモーションでYouTubeの中で自然発生的に拡がっていった結果の数字で、今だに伸び続けています。今年はテレビを含めて、プロモーションをしているのに、昨年の再生回数と同程度以下の状況でした。そこでビクターのデジタルチームとも話し合い、「竹見式」でやってみることにしました。
新曲「きみがいるから」が、10月17日にレコチョクで着うた(R)を先行配信されるのに合わせて、YouTubeにアップしました。本作は、雑誌「egg」の人気No.1モデルで、カリスマ的なブロガーでもあるねもやよこと根本弥生さんとの歌詞コラボです。女の子の本音を織り込んだ歌詞になっています。ビデオクリップには、メンバーとねもやよさんのインタビュー映像。ビデオのドラマ部分に出演していただいたJELLY専属モデルの高橋茉莉さんのコメント。クリップの後には、メイキング映像として本人達のアカペラも入れました。YouTubeユーザーに対してサービス満点と自負しているのですが、どう評価されるでしょうか?更新から5日間で2万回再生と、上々の滑り出しです。肝心の配信では、レコチョクデイリーチャート29位のスタートでしたが、10/24の着うたフル(R)先行、10/31のミュージックビデオやiTunes含めた全サイトでのデジタルリリースでどんな結果がでるか楽しみです。
●インフルエンサー活用のプロモーション
「j-Pad Girls」、BLUE BIRD BEACH『きみがいるから』は共に、松本拓也さんとご一緒している企画です。EA代表取締役の松本さんは「世田谷のプロデューサー」として、ご自身もアメブロの人気ブロガーです。『小さなニュースに火をつけて売る! ~パワーブロガーはお客をこうつかむ』(技術評論社)という本を2008年に出版。読者モデルブロガー等のインフルエンサーをミュージックビデオにキャスティングして、配信ヒットを出すという「勝利の方程式」を産み出した陰の仕掛け人です。
これまで合計72本のミュージックビデオに関わり、YouTube再生回数の合計が7,800万再生以上。1,000万以上のPVが1本、500万以上が3本、100万以上が14本、50万以上が26本、10万以上は43本とのことですから、約25%の確率で100万再生、約77%の確率で10万再生という驚異的な実績を上げています。
興味のある方は、こちらのブログをご覧下さい。
そんな松本さんと私、そして国内外で活躍するプロモーション会社の社長と、気鋭のソーシャルメディアマーケッターの4人の共著で書籍が出ます。『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略~"音楽人"が切り拓く新世紀音楽ビジネス~』(リットーミュージック)は、10/25刊行。公式サイトで「立ち読み」できます。発売前にAmazonチャートで345位、音楽書チャート1位と注目をいただいています。
コンテンツビジネスに関心のある方、音楽業界の近未来に興味のある方は、是非、読んでみて下さい!
FacebookページとFacebookグループを使って、読者と双方向のコミュニケーションをとりたいと思っています。11/8(木)には、発刊記念トークイベントも予定しています。
●『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略』公式サイト
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山口哲一(音楽プロデューサー・株式会社バグコーポレション代表取締役)