採用・入社プロセスを自動化、800店舗のスタッフを効率よく確保するジョー・アン
ジョー・アン Jo-Ann Fabric & Crafts は、米国最大の布地・手芸用品チェーンである。(右は店舗のイメージ)
オハイオ州ハドソンに本社を置き、ハワイを除く49州に約800店舗を展開している。社員は21,500人。
1943年の創業以来、手作りが大好きなアメリカ女性のニーズを満たし続けて現在にいたる、”趣味の店”である。
このYoutube動画シリーズ(Learn with Jo-Annシリーズ)。
簡単な手芸作品の作り方を数分で紹介する、3分間クッキングならぬ”3分間クラフト”が続々と流れる。その数、すでに64本!登場するのは圧倒的に女性コーチばかり。その「手芸大好き!」オーラがなんとも楽しい(笑)
小売業はどんな業態であれ顧客と接する店舗スタッフが重要だが、とくにジョー・アンのような”趣味の店”では、店舗スタッフの資質は決定的に重要である。手芸に関する知識と経験、そしてなにより手芸が好きな、パッションのあるスタッフを採用することは、経営における最優先事項であるに違いない。
そこでジョー・アンは、サクセスファクターズ SuccessFactors のタレントマネジメント・スイートを導入し、採用管理(Recruiting)→入社研修(On-Boarding)→研修管理(Learning)という一連の流れをシステム化。紙ベース処理を排して手間を劇的に減らす一方で使い勝手を改善し、店舗スタッフの効率的な採用を実現した。
同社のHR部門ITマネージャー、サラ・ウルマン氏のSapphire 2014における講演からご紹介しよう。
■Craft the Perfect Hiring Process and Initiate Seamless Staffing(動画、18分29秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/9657■講演資料(PDF)はこちら
http://sapvod.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2014/pdfs/41509.pdf
本日はジョー・アンの店舗スタッフ採用プロセスについてお話ししますが、最初にこの引用から始めます。
「採用と育成より重要なものはない。要するに、われわれは戦略にではなく、ヒトに賭けているのだ」。
これはハネウェルとアライドシグナルのCEOを務めたラリー・ボシディの言葉です。弊社のCEOトラヴィス・スミスも、「われわれの最大の競争優位は店舗にいるスタッフだ」と公言しています。
われわれが今回、人材分野における過去最大の投資、つまりサクセスファクターズのタレント・マネジメント・スイートの導入に踏み切ったのも、同じ理由からです。
ジョー・アンは1943年に創業し、現在では全米に800店舗を展開しています。各店舗には「チームリーダー」つまり店長と「チームメンバー」つまり店舗スタッフがいて、みなさんの手芸の喜びを満たすため、布地はもちろんのこと、ペーパークラフト、ジュエリー、ゴムバンド、陶芸材料、陶器などさまざまな商品を揃えています。
今年はさらに40店舗を開店する予定で、またJo-Ann.comでのオムニチャネル化にも力を入れています。
ジョー・アンには21,500人の社員がいます。うち19,700人が店舗スタッフ、750人が3か所の物流センター、860人が店舗サポートセンターつまり本社で働いています。
HR部門は75名ほどいますが、われわれの特徴は、HR部門の責任者であるシニア・ヴァイスプレジデントが、店舗オペレーションの責任者でもあるということです。したがってわれわれの人事施策は店舗ニーズと密接に連携しており、店舗オペレーションに大きく貢献しています。
そのうち20人がタレント・マネジメント・チームで、人材管理およびサクセスファクターズに関するすべてを担当しています。
ジョー・アンは明確なコーポレート・バリュー(価値基準)を持っています。インスピレーション、思いやり、責任感、敬意、エンゲージメント。これと合う価値感を持っている方だけを社員として採用します。繰り返しますが「戦略を実行するのはヒト」ですから。
さて、ジョー・アンが直面している、戦略的な課題とはなんでしょう?
- すでに800店舗あるため、これから新規開店するのはたいてい都会から離れた地方の小さな町ということになり、そうした地域では社員の採用そのものが簡単ではありません。そもそもジョー・アンを知らない方がほとんどですし。
- 労働人口の変化があります。ベビーブーム世代が引退しつつあり、それは手芸専門店であるわれわれにとって、豊富な知識とノウハウを持ったベテラン店員がいなくなることを意味します。
- またすべてのプロセスが紙ベースであったため、遅く、非効率で、信頼性が低く、データを分析することもできませんでした。
- ITも機能ごとに分断され、とくにHR部門は、十分なサポートを受けることも難しかった。
では、なぜサクセスファクターズを選んだのか?
それまでわれわれは、他社のLMS(研修管理システム、Learning Management System)を5年ほど使っていましたが、更改の時期に近づいていました。
しかしより人材にフォーカスするため、LMSだけでなく、より包括的な「人材管理」ソリューションを検討することにしたのです。
クラウド(Saas)型のソリューションのみを考慮の対象としました。もちろん、使い方が容易であることや、費用・機能・ロードマップなどが優れていることも重視しました。
われわれは、ガートナーの「マジック・クオドラント」の右上に位置する5社にRFP(提案依頼)を送りました。面白いことに、RFP期間中に、上位2社がそれぞれ他社に買収されましたが(筆者注:SuccessFactorsがSAPに、TaleoがOracleにそれぞれ買収された)、われわれはもともとSAPのERPやPOSデータ管理、倉庫管理など多数のソリューションを使っていたこともあり、サクセスファクターズに決めました。
要するに、適切な人材を雇い、適切に育成し、適切な目標を持たせることが狙いであり、サクセスファクターズならそれが実現できると期待したわけです。
サクセスファクターズの導入プロジェクトがスムーズに行ったのは、3Dリザルツ社というパートナーの力が大きかったです。彼らの提案に従い、この15か月スケジュールで、サクセスファクターズのすべてのモジュールを導入していきました。ええ、適切なリソースと適切なコンサルティング・パートナーがいれば、このような短期間にサクセスファクターズをフル導入することは可能です。
2012年の4月に導入を始めました。フェーズ1は5か月で、LMS(研修管理)、Jam(社内SNS)、社員プロフィールを導入。続いてフェーズ2では4か月で目標管理、業績管理、報酬管理、採用管理、オンボーディング(新規入社研修)を。フェーズ3では後継者管理、キャリア管理、データ分析を導入しました。
では、採用システム、その課題と解決策について具体的に説明していきましょう。
■採用プロセス
思い出していただきたいのですが、われわれの採用実務の大部分は、HR部門の採用専門家ではなく、店舗チームリーダーつまり店長が行っています。したがって、われわれが提供するものは、シンプル&で使いやすくなければなりません。
以前のプロセスの問題は、すべて紙ベースであり、合格者全員が採用通知を受け取るわけではなく(中には諸条件を明記した採用通知を受け取らないまま採用されるケースがあり)、そして採用通知は自由に変更できるため、担当者によって文言や内容がバラバラでした。
望ましい姿は、ペーパーレスで、シンプル、全員が必ず採用通知をEメールで受け取り、入社受諾手続がオンラインで済み、そして店長とHR部門もその知らせをメールで受け取れる、というものです。
当社には社員がすでに21,500人もいて、800店舗ありますので、常に多数の人材を採用しています。たとえば昨年のクリスマスシーズンだけで、3,000人ものパートタイム社員を採用しました。
右の図はサクセスファクターズのスクリーンショットです。店長が採用を決めると、その候補者に対しては採用通知メールが自動的に送られます。内容は自動生成され、店長は編集することができません。勝手に変更できてしまうとリスクがあるからです。
一方で、本社のHR担当者つまり専門家が本社勤務スタッフなどを採用する場合には、一定の編集が可能となっています。つまり1つのシステムが2種類の採用プロセスに使えるようになっているのです。
候補者はメールを受け取ると、その中のURLをクリックしてWebサイトに誘導され、「Accept」をクリックするだけで、入社受諾手続が完了します。簡単です。
すると自動的に、店長に対しても「入社受諾完了」の通知が送られ、採用が一人成立したことがわかります。そのまま入社手続が開始されますので、店長はとくに何かする必要はありません。
■社員への定着
次の課題は、ユーザー(社員)にこのシステムを受け入れてもらうことです。シンプルで分かりやすく、800店舗の店長が簡単に使えるものでなくてはなりません。
そこで、プロセスごとに、「ここでは何をしなくてはいけないのか」の説明・指示をその画面に表示することにしました。
■一貫性のある募集要項を作成する
次の課題は、募集要項です。多くの店長は募集している職種の説明として、社内で使われている職務規定(Job Description)をそのままコピペして使っていました。しかしこれは非常に長く、堅く、社内用語がたくさん使われていて、応募者にとって魅力的とは到底言えないものでした。また間違いが紛れ込むリスクもありました。
そこでわれわれは、職種ごとに説明文をあらかじめ作成しておき、サクセスファクターズのジョブ・ファミリーという機能を使って、適切なものが選べるようにしました。採用通知と同じく、店長は内容を編集することはできませんが、本社のHR担当者にはできます。
■WOTC対応をプロセスに組み込む
次はWOTC(Work Opportunity Tax Credit、採用による減税措置)の対応です。これはアメリカの制度ですが、一定の条件を満たす人を雇用すると減税が受けられるというものです。この減税効果は非常に大きいので、該当者を採用する際にはこの措置が確実に受けられるよう、採用プロセスの中にWOTC対応を組み込みました。
具体的には、採用候補者が絞り込まれると、その情報がWOTC受託業者であるADPに送られ、WOTCに該当するか否かが判定され、その情報がサクセスファクターズに戻されて、採用担当者にも通知される、というものです。
このWOTCチェックが稼働してから、WOTC適合数は以前より3割ほど増えました。これは非常に大きなインパクトがあり、適合率は今後さらに増えるものと期待しています。
■すべてをつなげる
サクセスファクターズ導入前、われわれは、バックグラウンドチェックを全員には行っていませんでした。処理がすべて紙ベースで、時間と手間がかかり、到底不可能だったためです。
またオンボーディング(新規入社研修)についても、以前はI-9という面倒な紙ベースの手続きがありました。
さらに、コア人事(給与など)を管理しているSAPのオンプレミスのHCM(人事管理)システムに対して、新規社員の情報を入力してアカウントを作成する、という処理も必要でした。
左の図は、Boomiを使ったインテグレーションのイメージ図です。これはパートナーの3Dリザルツがやってくれました。われわれにはこうした技術力はありません。
Boomiがやっているのは、データの受け渡しです。サクセスファクターズからBoomiへデータが渡ると、その内容に応じてバックグラウンドチェックやWOTCチェックに渡り、それが済むとまたBoomi経由で戻ってきます。
■入社研修
以前はすべて紙ベースでした。時間がかかり、面倒で、しかも入社初日には、HCMシステムにアカウトがなく、要は社員としてまだ存在していない。書類を記入して本社に送らないと、アカウントが作られなかったのです。
そこで、採用→入社研修→コア人事システム→LMS、と一連のデータが自動的に流れるようにしました。こうすれば、初日にはもうアカウントができていて、研修管理まで含めてすべての社内システムが使えます。
■導入の成果
サクセスファクターズの導入が終わったのが2013年6月、ちょうど1年前。それから1年間の成果は?
まず、紙ベース処理が激減しました。ほとんどの手続き書類が6ページもあり、あちこちに紙が積みあがっていましたが、それらがすっかりなくりました。
次に、ユーザーエクスペリエンスの改善です。
今では、採用システムには常時30万人もの応募者プールが管理されており、われわれはこの中からニーズに合う候補者を選ぶことができます。紙ベースでは考えられなかったことです。
そして800人を超える店長たちは、ほとんどトレーニングなしに、システムを使いこなしています。
そしてHR部門の採用担当者は、ポジションひとつひとつごとの採用プロセスを管理する業務から解放され、代わりに、より多くの人材プールを確保する業務へシフトすることができました。
応募者の立場で見るとどうでしょう。やはりシンプル化されました。私の娘は21歳と19歳ですが、彼女たちは仮にジョー・アンの店で働きたいと思っても、店舗に行って用紙に記入したりはしません。すべてオンライン上で行えます。
また、社内からの採用(社内異動)もシンプルになりました。たとえば別の店舗で店長に空きが出た場合、スタッフはそこに応募することが簡単にできます。以前の紙ベースでは到底できなかったことですが、おかげで、より意欲を持った候補者を見つけられるようになりました。
■まとめ
われわれの成功の要因は、下記のようなものだったと考えています。
- サクセスファクターズのタレントマネジメントスイート。人材管理のすべてをひとつのシステムで行うことができます。
- 優れた導入パートナー。われわれの場合は3Dリザルツがそれでした。
- 他システムとのインテグレーション。サクセスファクターズはワンシステムでも、WOTCやバックグラウンドチェックなどとの接続が必要になります。経験のある優秀なインテグレーターを選ぶこと。
- 優秀なプロジェクトマネージャーを雇うこと。
- そして経営陣の理解とサポートを取り付けておくこと。
- システムはIT部門に頼るのでなく、自分たちで運用すること。Saasならそれが可能です。
一方、われわれの経験から得た教訓は。
- 自分たちの古いプロセスにこだわらないこと。丸い穴に四角いクイを打ち込んでもうまくいかない。プロセスを新しいテクノロジーに合わせることを恐れないこと。
- Saasといえど、インテグレーションは複雑なので、軽く見ないこと。
- コミュニケーションを早く、多く。チェンジ・マネジメントを軽く見ないことです。
ありがとうございました。
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ジョー・アンが置かれている状況は、決して特殊なものではない。
店舗の近くに住んでいる女性(主婦など)を主な戦力としている、という点では、日本国内でもたとえば外食、スーパー、店舗展開しているアパレルメーカー、エンタメ産業(パチンコやカラオケ)、コールセンター受託業者などは本質的に同じ構造を抱えている。一言でいえば、「パート主婦の戦力化」だ。
そうした企業では、たとえば最初はアルバイトやパートで働いてもらってその人たちを育て、スキルが上がり本人のやる気もあれば社員に登用したり、パートのままでも店長など管理職にしたり、家族の事情で引っ越した場合でも引越先に近い店舗があればそこで働いてもらう、などさまざまな人事施策を行っている。
一般に店舗スタッフの入れ替わりの激しい業界だからこそ、一旦育てた人にできるだけ長く自社で働いてもらうことは双方にとってメリットが大きいのだ。働く側も、必ずしも「正社員」を希望していないケースも多く、だからこそ「パート管理職」など一見語義矛盾があるとしか思えないような人事施策が生まれている。
こうした状況下においては、サクセスファクターズのような、クラウドで使える人材管理ソリューションには大きなメリットがある。本社のイントラネットに全員のアカウントが登録されているわけではない店舗だからこそ、クラウドのメリットがより生きてくるのだ。
人手不足、労働人口の減少、女性の活用促進、といった世相の中、正社員と非正社員の分け隔てなく「自社人材」を採用・トレーニング・育成・登用していく、ジョー・アンの事例は日本企業にとっても参考になるところが多い。
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※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ジョー・アン社のレビューを受けたものではありません。
【参考リンク】
■Craft the Perfect Hiring Process and Initiate Seamless Staffing(動画、18分29秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/9657■講演資料(PDF)はこちら
http://sapvod.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2014/pdfs/41509.pdf