WFA(要員シミュレーション)で採用活動のROIを計測、年25,000人をリクルーティングするコムキャスト
コムキャスト Comcast は、世界最大級のメディア・通信企業である。グループ全体での売上は646億ドル(約6.5兆円)、営業利益135億ドル(約1.4兆円)、従業員は13万6千人におよぶ。
もともとケーブルTV会社として発足し、成長と買収で業界トップ(配給先2,169万世帯)に上り詰めた。また、2011年にはNBCユニバーサルを傘下に収め、全米4大TV局のひとつNBCや映画製作会社ユニバーサル・ピクチャーズ、またテーマパークのユニバーサル・スタジオなども保有している。
さらに2014年2月には業界2位のタイム・ワーナー・ケーブル(配給先1,120万世帯)を株式交換によって買収すると発表(約4.6兆円)、これが実現するとさらにダントツの1位となる(FCCによる審査中)。
これだけの巨大企業、しかもケーブルTVという現業系のサービスだけに、スタッフ採用の規模も非常に大きく、なんと年間25,000ものポジションを採用しているという。
もともと、「採用」は非常に手間とコストのかかる企業活動なので、そのROI(費用対効果)、つまり”当社は他社に比べて効率的な採用活動ができているのか?””改善の余地はどこにあるのか?”は本来HR部門にとって非常に重要なテーマである。
だが、一方で、自社の”採用力”が見える化されてしまうだけに、HR部門については非常に厳しいベンチマークでもあり、これを積極的に計測していたり、ましてや外部に公表する企業は珍しい。
同社HR部門で財務分析を担当するヴァイスプレジデント、ロバート・デルマルコ氏の、2014年6月のSapphireにおける事例講演からご紹介する。
■動画はこちら:Build a Recruiting ROI Business Case (18分50秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/9615■同講演の画面資料(PDF)はこちら
http://sapvod.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2014/pdfs/41497.pdf
-----------------------------------
本日お話するのは、サクセスファクターズの採用(Recruiting)ソリューションのROIつまり費用対効果についてです。
初めにお断りしておきます。ここにいらっしゃるのはIT畑の方が大半だと思いますが、私はITではなく、ファイナンス畑の人間で、HR施策の効果を分析し評価するのが仕事です。ご存じのとおり、HRはいまやIT活用と切り離しては語れない関係にありますが、投資するからには評価が欠かせません。
なおIT導入では、ソリューションそのものに加えて、トレーニング、サービス・デリバリー、チェンジ・マネジメントなど、新しいITを活用した業務プロセスの定着に向けた活動を行うチームメンバーの力も、トータルのリターンに大きな影響があります。
今日お話するのは、
1. ROIとはなにか
2. コムキャストが使っている、「採用ROI」の指標および分析手法
3. サクセスファクターズのリクルーティングソリューションのROI、
の3つです。
■1. ROIとはなにか
ROIとは何か?ざっくり言うと、今投資したら、いくら返ってくるか、ですね。
コムキャストのコールセンターでは毎年、3億件もの電話を受けます。また視聴者の自宅への技術者派遣(セットトップボックスの設置等)は年2,500万回にもなります。これだけの規模ですので、適切なスキルを持ったスタッフを採用・トレーニングして配置することは、当社にとって決定的に重要です。それなしでは、カスタマーサービスのレベルを保つことはできません。
当社の人事担当役員は以下のように述べています。「HRが業績にもたらすインパクトはもっと前面に出るべきであり、それを計測するためにも、データ分析により重点を置くというわれわれの方針をさらに推進する必要がある」。
ROI算出は、以下の4ステップに従って進めます。
1. 評価準備 では、そもそも何をもって「効果」と見なすのか?を決め、その「計測方法」を決め、その「現在の値」も得ておきます。
2. データ収集 では、導入中および導入後のデータを集めます。
3. データ分析 では、そのデータに影響を及ぼしたと思われるさまざまな事象の切り分けを行い、この施策だけのインパクトがどのくらいなのかを判別します。またデータをもとに、それを金銭的な値に換算します。また金銭的には表せない価値についても考慮します。
4. レポート作成 は、結果をまとめ、経営陣に説明します。
ROI計測は、2つの段階で行います。まずソリューション導入前には、このくらいの効果が出るからこのくらいのリターンになるはず、というビジネスケース(予測シナリオ)を立てます。この段階では、多くの”推定値”を置かなくてはなりませんが、それは構いません。単に「なぜこの数値になると推定したのか」の説明さえきちんとされていればよいのです。
次に導入中および導入から6~12か月後をめどに、実測値に基づいて「このようなROIが得られた」と実証します。これは非常に大切です。ビジネスケースの段階で適切な(つまり控えめな)推定値を置いていれば、実際のリターンはそれを上回ることが普通ですし、仮にそれを下回った場合であれば、何が想定と違ったのかを検証しておくことは、その次のプロジェクトのための組織ラーニングとして重要です。
■2. コムキャストが使っている「採用ROI」の指標および分析手法
さて、では例を挙げて、ROI算出を進めてみましょう。
サクセスファクターズ導入にも、一定のコストがかかります。ソフトウェアの使用料以外に、システム・インテグレーターによる社内システムへの組み込みのコストもありますし、多くの社員に新しいシステムとプロセスを教育し慣れてもらうという人的コストもかかります。
ではここで質問です。コムキャストのケーブルTV部門では、年間、何ポジションを採用しなければならないと思われますか?
正解は、約25,000人です。これだけのポジションを、毎年、社内異動と外部採用で埋めなければならないのです。優れたツールが必要な理由がおわかりでしょう?(笑)
コムキャストではサクセスファクターズのWorkforce Analytics(WFA、要員分析/シミュレーション)を使っています。WFAでは過去の採用状況をデータベース化しており、たとえば下記の「外部採用」画面では、2008年以降に社外から採用した人数と、報酬体系の割合(固定給か時間給か)がグラフ表示されています。さらに職種ごと、地域ごと、などさまざまな切り口でドリルダウンも可能です。
では次の質問。採用から1年未満の社員のうち、1年未満で自己都合退職する社員の割合は何%でしょう?
正解は、30%です。
WFAでは下記のように、「採用から1年未満の社員のうち、1年未満で自己都合退職する社員の割合」という分析画面もあり、さらにWFAを使っている他社の平均とのベンチマークも出てきます。画面右のメーターのように、弊社におけるこの率は29.4%であり、北米の他社と比べると残念ながらレッドゾーン、ボトムから3割くらいのところに位置していることがわかります。しかしこうした数値も、(改善の余地がどのくらいあるかが分かるので、)ビジネスケースを立てるうえでは役に立ちます。
また下の表は、WFAからエクスポートしたデータをもとに作成したものですが、2013年の各月に自己都合退職した人のうち1年未満だった人数を表したものです。こうしたデータも、現状を理解する上で役に立ちます。
では次の質問。採用した25,000人のうち、1年以内に自己都合退職してしまう人数は?正解は5,000人、割合にして20%です。
さて、ではビジネスケースの立て方に行きましょう。サクセスファクターズの採用ソリューションを導入することによって、どこで、いくらの改善できる可能性があるか、をデータを基にして示していきます。
改善可能性は、大きく2つの分野に分けて考えています。
(1) より高品質な採用プロセスによって、自己都合退職する人の割合を減らすことができれば、
- 社員の生産性が高まります。採用したての新入社員が一人前の戦力になるには、少なくとも3か月はかかります。3か月はかなり控え目だと思いますが、ビジネスケースに対する信用を得やすくするには、推定値は控え目にしておいたほうがよいのです。
- 採用コストが減ります。退職者が減れば、採用件数そのものが減りますので。
- また、トレーニングのコストが下がります。コムキャストでは年間および400万時間をトレーニングに充てており、うちほぼ半分の200万時間が新規採用スタッフ向けです。新規採用からの1年間にトレーニングに費やす時間は1日あたりおよそ150時間。しかし前述のように、うち30%が退職してしまうとすると、要するにおよそ60万時間がムダになっているわけです。
(2) 空ポジションをより早く埋めることができれば、
- その部門の戦力に穴がなくなり、部門全体として生産性が上がることに加え、
- 採用期間が短くなるので、その分採用コストが下がります。
またそれ以外の要素も、勘定しました。
(3) まず、HR部門の採用担当者の業務効率化です。採用担当者は下記のように、多数の手間のかかる業務を行っています。
- ポジションを公開する
- 候補者を検索する
- 応募者をレビューする
- 複数の応募者を採用プロセスに載せ、管理する
- 採用前のドラッグチェックとバックグラウンドチェックを行う、結果を管理する
- 試験や面接をキックし、実施し、結果を管理する
- 採用を決定する
- 採用通知レターを作成する
- 入社に関する事務手続きを行う
これらが、サクセスファクターズのような強力なツールを使うことで、採用1件あたりどのくらいの削減になったか?を採用担当者、数百人にアンケートを取りました。ステップごとに、「1~5分の短縮」「6~10分の短縮」などの回答を集計して積算しました。
(4) またITコスト、これまで使っていた自社開発の採用システムにかかっていたコストが不要になる分もカウントしました。
- サーバー、ストレージ、ソフトウェア、電力・床面積、
- 開発・運用の人的コスト
などです。
■3. サクセスファクターズのリクルーティングソリューションのROI
さて、これらを勘案した、コムキャストにおけるサクセスファクターズの採用ソリューションの5年間の予測ROIは、スバリ?
・・・ 163%、または 2.6倍 となりました。損益分岐点は23か月目、つまり2年弱でモトが取れるという計算です。
上述のとおり、
- 自己都合退職者の減少
- 採用までにかかる時間の短縮
- 採用担当者の業務効率化
- ITコストの節減
の4要素を加味していますが、その推定値はかなり控え目にしています。たとえば自己都合退職率の減少は、たったの2%で計算しています。また採用までにかかる時間の短縮も、2%で計算しています。
このように非常に保守的な見積でも、この予測ROIが出たため、われわれは採用を決めました。
実際には導入が完了したのは、昨年の11月ですので、導入してから...ちょうど6か月くらいです。この後、「導入後」のROIを検証するのが、非常に楽しみです。
-----------------------------------
コムキャスト・ケーブルTV部門の場合、企業規模が巨大であるうえ、コールセンターでのカスタマーサービスにしても機器設置の技術職にしても、それなりの知識・スキルが必要である(つまり採用から立ち上がりまでの期間が比較的長くかかり、教育コストも高い)うえに、必要とされる人数がとにかく多い。
したがって、「人材」を定常的かつ大量に”供給”し続ける必要があるのだろう。だからこそ、こうした「ROI分析」のような、ある意味”サイエンス”なアプローチが可能になっているのだとも言える。
コムキャストほど巨大ではない一般の企業の場合、こと正社員の採用はそこまでオートメーションではなく、”一点モノ”であることが多いだろう。ひとつひとつユニークなポジションに、それぞれ、できる限り適合する人材を1人だけ選べばよく、このマッチングはサイエンスよりむしろアートとして扱われそうだ。
しかし昨今、とくにアルバイトやそれに準ずる非正規社員において「人手不足」が著しい日本社会。各社は待遇(時間給)の改善に追われているが、ヒトは必ずしも金額だけで応募してくるわけではない。採用(応募者側から言えば選考)が効率よく短期間で行われ、かつ採用活動(求められるスキルセットと応募者とのマッチング)が高品質に行われて退職者を減らすことができれば、それは企業と社員の両方のWinにつながる。
(もちろん、採用した後、その社員をどのように育成し、またつなぎとめていくか、といった本来の「人材管理」(タレントマネジメント)がそもそも重要であることは言うまでもないが。)
このコムキャスト事例ではサクセスファクターズのWFA(要員分析・要員シミュレーション)機能について説明があったが、採用モジュールそのものについては、こちら(Jo-Ann Fabric事例※後日公開)も参照いただきたい。
コムキャストのWebサイト
※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、コムキャスト社のレビューを受けたものではありません。
【参考リンク】
■動画はこちら:Build a Recruiting ROI Business Case (18分50秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/9615■同講演の画面資料(PDF)はこちら
http://sapvod.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2014/pdfs/41497.pdf