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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

優良サプライヤ発掘&管理を効率化、調達コストを抑えつつ地元サプライヤとの共栄共存をはかるシーザーズ

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Caesarsシーザーズ・エンターテインメント Caesars Entertainment(以下シーザーズ)は、ゲーム&エンターテインメントつまりカジノ業界の最大手のひとつである。

世界に52か所、うち米国内で39か所のカジノリゾートを運営しており、従業員は約6万7千人。2013年度の売上は85億ドル約8,500億円)である。

シーザーズは2010年に社名を変更したが、それまでの社名はハラーズ(Harrah's)だった。ハラーズと聞けば、聞き覚えのある読者の方もいらっしゃるのではないか。

ビッグデータブームの先駆けとなったトム・ダベンポート氏の名著「分析力を武器とする企業」でも、データ分析活用の先進企業としてしばしば取り上げられている。

CEOのゲイリー・ラブマン氏は、なんと前職はハーバード・ビジネス・スクールの准教授だったという超変わり種。しかし1998年に招聘されCOOにつくと、今でいうビッグデータ分析を駆使して顧客満足度を高め、業績の大幅向上に貢献した功績をもって2003年にCEOに昇格、今も現職にある。

つまりシーザーズはまさに「分析力を武器とする企業」なのである。しかも10年以上も前から。そのシーザーズは、顧客サービスの改善につづいて、2010年ごろからバックオフィスつまり購買についても取り組みを開始した。Aribaliveでも複数のセッションで積極的に事例を発表しているので、いくつか取り上げて、その実態に迫ってみたい。

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まずは同社のマイケル・マクレラン氏(VP of Strategic Sourcing)へのインタビューから。

■Caesars' Story: Supply chain, technology & the guest experience (3分34秒、英語)
https://www.youtube.com/watch?v=COr-FDTrJLs

Mclellan 
Q. 御社の購買戦略はどのようなものですか?

シーザーズは最高のゲストエクスペリエンスを提供することを最重要視しています。それには、ステーキハウスでの食事やバーでのビールから会員プログラム、プロフェッショナルなスタッフ、IT、カジノの建築、設備など、あらゆる購買が関わってきます。カジノ業界最大手としての購買力を最大限に活用し、さらに主要サプライヤとの戦略的な関係を維持することによって常にベストな購買を行い、これをベストなゲストエクスペリエンスにつなげたいと考えています。

Q. 具体的な、サプライチェーンの役割は?

お客様に、ベストな物とサービスを、しかもベストな価格でご提供したい。そのためには、ITを上手に活用する以外ありません。そこでここ数年、アリバのソリューションを導入し、サプライヤ管理、オンライン入札、オンライン上のコラボレーションなど、購買の革新を進めてきました。

Q. アリバのプロフェッショナルサービスはいかがでしたか?

非常によかったです。ソーシング、請求支払処理、IT、ファイナンスなどそれぞれの分野の専門家をアリバが揃えていることはすぐにわかりました。アリバは購買分野のリーダーであり、そうしたリーダー企業と緊密に組むことは大きなアドバンテージになりました。とくに彼らの分析に関する経験のおかげで、どのくらいのリターンを期待できるかを事前に詳細に予測できたことは、安心感につながりました。またサプライヤとの関係から、各ソリューションをどの順序とペースで取り入れていくのがベストか、のロードマップが示されたこともよかったです。

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ニコリともしない生真面目な表情が逆に印象的だが(笑)、

企業戦略:最高のカスタマーエクスペリエンスを提供する
  ↑
購買戦略:ベストな購買力でこれを支える

という方針が明確である。

そして上記青文字部分は、およそどの企業の戦略に置き換えても、まったく同じに通用するのではないだろうか。 

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続いて、同社スティーブ・シノー氏(Purchasing Operations Manager)の講演から。(スライドと声だけで、顔写真などはない)

■Tactical Spend? Indirect Purchase? Hear Experts' Reasons for Choosing Ariba Discovery (22分10秒付近から。英語)
http://www.youtube.com/watch?v=0i11WHse2eA&t=22m10s

■同講演の資料はこちら(p22-29)
http://www.slideshare.net/Ariba/tactical-spenddiscovery-indirect-session

シーザーズは、米国内にカジノ併設のホテルを39保有していますが、地理的にはラスベガスを始め、全国に分散しています。買収によって傘下に入ったところも多く、購買に関してはあまり統制が取れていませんでした。

企業全体ではざっと年間20億ドル約2,000億円)の支出があります。そのうち約8億ドル(約800億円)は既存の購買システムで管理していましたが、残り約12億ドル(約1200億円)はまったく購買システムを通っていませんでした

この1200億円分の支出をあらたに購買システムとして引き受けようというからには、それがスムーズにできるよう、戦略的に準備しておかなければなりません。

Ta22 
われわれの購買戦略の基本は、サプライヤ間の競争を促すことによって購買コストを引き下げ、経営に貢献することです。

また Economic Inclusion(購買を通じた支援)も重要なテーマです。全米をカバーする大手ベンダーだけでなく、中小の地元ベンダーや、経営者がマイノリティ・退役軍人・女性であるベンダーから買うことで、バランスよく利益を還元していくことを心掛けています。

さらにベンダーとは、お互いに利益のある相互友好的な関係を築いていくことが、当社にとっても長期的な利益になると考えています。

Ta23 
われわれはアリバのサプライヤ管理(SIM)機能を使っています。これは取引するサプライヤの情報を管理するマスター・データベース(台帳)です。サプライヤ情報自体はアリバ・ネットワークのベンダー情報から引いてきており、これに取引履歴やわれわれのベンダー評価が付け加わっていきます。

Ta24 
われわれ調達担当者は、優良ベンダーの発掘作業に常に追われています。ベンダーを探すためにグーグル検索し、電話をかけ、外出して打ち合わせし、、、と。

アリバ・ディスカバリー(条件に合うベンダーを探すツール)はこれを省力化してくれます。求める条件をポストしておくと、数日のうちに多くのベンダーが応募してきてくれますので、それらの中から比較して、入札に参加してもらう。この一連の作業がシステム化できるので、大幅な時間の節約になります。

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Economic Inclusion(購買を通じた支援)を推進するには、まずそうしたベンダーにリーチしなくてはなりませんが、これも、アリバ・ディスカバリーの「サプライヤーに対する希望」欄に明記しておくことによって、そうしたベンダーに入札に参加してもらうことができます。

そうしたベンダーは「優先 Preferred ベンダー」に指定して、条件が合う限りなるべくそちらから買うようにします。また最近はグリーン調達も重要です。

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まずはアメリカ国内での「登録サプライヤ」プログラムを作ろうと考えました。まあ「基本契約」のようなもので、シーザーズの基本取引条件にサインしており、法令に定められた保険に加入しており、そしてもちろん供給に関して信頼性があるサプライヤの台帳です。実はこれまでシーザーズ全体としてそうした考え方はなく、本当にそのつど発注先を決めていたのです。

この登録サプライヤに対して、調達のつど入札してもらうのですが、これを記録していくことで、品目および価格のデータを蓄積していきます。そうすることで品目レベルでのマスターができていき、また競争調達を通じて常に最安値を獲得していきます。

またP2P(購買から支払いまで)の自動化についても徐々に進め、タッチレス化を推進してきました。

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システムの準備ができたら、まずは既存サプライヤをアリバに誘導し、登録してもらいました。一方で、アリバ・ディスカバリーを用いて、新しいベンダー、とくに地元の多様なベンダーの発掘に努めました。

たとえば最近行ったあるカテゴリでの購買では、全国ベンダー8社に加えて、地元ベンダーも8社を登録しました。そうした地元ベンダーは当然ながらその地区でしか供給できませんので、シーザーズの施設がある地域ごとにそうした地元ベンダーを発掘し登録するように努めています。

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みなさんに申し上げたいのは、アリバのディスカバリーとサプライヤ管理の組み合わせを使えば、幅広いサプライヤ・マスターを維持し、常に最適な価格で購買しつつ、多様性のある購買を実現し、かつ時間を空けることができるということです。ツールに手伝ってもらいましょう。

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続いて、コリー・マンリー氏(Strategic Sourcing Process & Compliance Manager)の講演から。既出の情報とかぶるところも多いが、それだけ重視されているからでもあるとご理解いただきたい。

■Maximizing Sales and Marketing Reach in Your 2013 Business Initiatives  (22分20秒付近から、英語)
http://www.youtube.com/watch?v=n9wk1FG1HUI&t=22m20s

■同講演の資料はこちら(p15-18)
http://www.slideshare.net/Ariba/maximizing-sales-and-marketing-reach-in-your-2013-business-initiatives


シーザーズの購買部門にとってのチャレンジのひとつは、地元のサプライヤから買うことです。

ギャンブル業界は、非常に厳格な規制のもとに運営されています。アルコール・銃・タバコに準ずるレベルで、州および市からさまざまな要求を課されていますが、その中のひとつが地元企業から買うことなのです。

そもそも、ソーシング(サプライヤ発掘)活動はとにかく時間を食います。ネット検索、電話、メール、打ち合わせ... とくに、ローカルなベンダーを探すのは面倒です。しかし購買スタッフには、できるだけ戦略的な仕事に時間を使わせたい。

Ma15 
そこで、18か月前にアリバ・ディスカバリーを使い始めました。今では全面的に使っています。このおかげで、ニーズに合うサプライヤをクイックに見つけることができるようになりました。

アリバ・ネットワークに登録しているベンダーは、必要なサプライヤ情報がすでに揃っているので、評価、比較、見積依頼がワンストップでできます。アリバ・ネットワークに登録していない新規ベンダーの場合でも、簡単なステップで登録してもらい、あとはオンライン上で入札に参加してもらうことができます。

入札が終われば、サプライヤとはアリバ・ネットワークを通じてすぐに取引に進むことができます。われわれはアリバのP2Pも使っているので、購買全体を自動化できる可能性が高い。サプヤイヤ発掘から契約管理まで、調達プロセス全体をアリバ上で完結することができるのです。

Ma16 
成功事例をいくつか。オハイオ州に3つ、新しいカジノをオープンすることになったのですが、

・Economic Inclusionに関して。ビールなどに使う炭酸ガスやプロパンガスなどを、地元の、しかも女性経営者が経営する会社から買うことができました。しかも大手ベンダーのほぼ半分の値段で。

・クッキーなどの焼き菓子を、40種類以上買っているのですが、実はこれが年間数百万ドルの支出になっていまして。これもアリバを通じて発掘したベンダーと既存ベンダーの競争を通じて、10%以上のコストセーブになりました。

・宴会場のイスについては、まだ最終決定してはいないのですが、ざっと50%くらいのコストセーブになりそうです。従来われわれは直接発注はしておらず、間に代理店が2社、3社と入っていたのですが、今回はアリバを使うことで中国、インド、メキシコといった低コストな国の工場から直接、または一次代理店だけを通して買うことができそうです。

・ペンもたくさん買っています。最近、Nobuホテル(世界的に有名な日本料理人であるNobuこと松久信幸氏が監修する高級ブティックホテル。ラスベガスのシーザーズパレス内にオープンした)向けのペンを調達したのですが、中国からウクライナまで、世界中からハイクオリティな応札がありました。

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最後に、同社ジョン・ウイリアムズ氏(Procurement Systems Manager)の講演から。

■How to Improve Your Use of Ariba Solutions(最初から15:50くらいまで、英語)
http://www.youtube.com/watch?v=CEab_sU7nAE

■同講演の資料はこちら(p3-6)
http://www.slideshare.net/Ariba/how-to-improve-your-use-of-ariba-solutions?qid=f200ed74-72e9-43cb-92dc-7c625888011d

当社ではざっと20億ドル(約2,000億円)の購買をしていますが、うち5億ドル(約500億円)分は既存購買システムを通じて発注されています。ただしこれは食品および飲料専用システムなので、それ以外のものは扱えないのです。その点アリバのソリューションはモノからサービス購買まで、幅広く扱える点がメリットでした。

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この15億ドルを、どうシステム化して把握していくか?そこで検討対象となったのが、アリバのサプライヤ管理(SIM)機能です。

この背景には、ホテル業界の特有の事情があります。みなさん、ホテル・カジノが「買わないもの」を挙げられますか?ホテルはそれこそ小さな都市みたいなものでして、銃から、オイルから、ありとあらゆるものを買います。その結果、われわれと取引のあるサプライヤは、30万社もあります。多少絞り込みを行った後でも、7万5千社

アリバを使っている大企業は多いと思います。石油会社とかであれば、きっと購買額はとても大きいでしょう。でもサプライヤの数はさほど多くないですよね。われわれは、少量多品種なのです。だから、サプライヤ管理機能がとても有効なのです。

どのサプライヤからアリバに載せるか?まず、購買金額の大きいところ、から始めました。ステープルズ(オフィス用品大手)、グレインジャー(建築資材・工具大手)などですね。

こうした主要サプライヤを載せるだけで、数十人の購買担当者が、アリバを使い始めました。するとそのうち彼らは、「他のものもここで買えないか」と言い始め、そこからは雪だるま式に拡大していきました。

こうして、我々は少しずつ購買管理を拡大してきました。2009年にeソーシングを導入、その成功を見て契約管理、そしてP2P(購買から支払いまでの自動処理)。正直にいうとP2Pの導入には思ったより時間がかかりました。昨年は15億ドルのうち3億ドル分くらいを自動処理できました。今年は、順調にいけば、6億ドルくらい行けると見ています。そしてサプライヤ管理です。

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こうした取り組みの成果が最近になってやっと実りつつあると感じています。購買では、data is king です。データさえあれば、改善の余地を見つけられます。

たとえば、ミシシッピ州トゥニカというところに当社のカジノ・ホテルがあります。かなりの田舎ですが、業績は好調です。

ここで、たとえば改装のためにクギが必要となった場合、クギ程度であればわざわざサプライヤ探しをしなくても、近くのホームデポ(筆者注:ホームセンター最大手)で安く買えることもあります。

しかしそうした場合でも、あえて「クギ1ポンドいくら」と情報を取り込み蓄積していくことで、全国の拠点でその情報を活用して(ベンダーと交渉し)、全国的に安く買うことにつながるのです。

Ho05 
ただし、サプライヤの巻き込みには、かなり苦労しました。システムを「作れば、彼らは来る」(筆者注:映画「フィールド・オブ・ドリームス」の有名なセリフ)というわけにはいきません。より戦略的にアプローチせねばなりません。

まずステープルズとグレインジャーですが、彼らはすでにアリバ対応していました。次に、購買額の大きい主要サプライヤにアリバ対応するよう依頼しました。

しかし大手サプライヤだからといって、テクノロジーに強いとは限りません。たとえば大量のノベルティグッズを買っているあるベンダーがそうです。彼らはパンチアウトカタログを作れるような技術力はなく、しかし彼らのためにシーザーズ側に独自カタログを作るというのもばかげた話です。こうした課題をひとつひとつ解決してきました。

進め方としては、カテゴリ単位で絞るというのもあります。たとえば「紙DMの印刷は全拠点でアリバ経由の発注とする」などです。こうすれば発注量がまとまるので、ベンダー側もアリバ対応するインセンティブが高まります。まずこうした部分をとっかかりにして、広げていきました。

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冒頭に書いたように、シーザーズは、顧客サービス改善のためのビッグデータ活用をもう15年以上も実践している先進企業である。にも拘わらず、バックオフィスの購買については2010年ごろからやっと取り組み始めた、というあたりが興味深い。実際には購買改革は、カジノに負けないくらい確実にキャッシュを生むのだが。

逆に言えば、みなさんの企業でも、まだまだ遅くないということでもある。シーザーズCEOのゲイリー・ラブマン氏が、「分析力を武器とする企業」の序文で以下のように書いている。

マサチューセッツ工科大学で経済学の博士号をとるべく勉強に励んでいた頃、一つ知ったことがある。・・・誰もが予想するようなことや誰にでも予想できるようなことから利益を上げることは難しい、ということだ。なぜなら、合理的な人間はそういうチャンスを見逃さず、既にうまいこと手を打っているはずだからである。・・・市場に潜んでいる利益拡大の機会は既に誰かが開拓しているはずだから、あとから参入しても儲けは出ないだろう。

・・・幸いなことに、この予想はまったく当たらなかった。ごく簡単な分析手法を使うだけで、利益を増やすチャンスはあちこちに転がっていたのである

(トーマス・H・ダベンポート「分析力を武器とする企業」p6)

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、シーザーズ・エンターテインメント社のレビューを受けたものではありません。 

【参考リンク】

■Overcoming Obstacles to Finding Vendors: Advanced Ariba Discovery Methods Across all Spend Segments
http://www.slideshare.net/Ariba/overcoming-obstacles-to-finding-vendors-advanced-ariba-discovery-methods-across-all-spend-segments?qid=f200ed74-72e9-43cb-92dc-7c625888011d&v=qf1&b=&from_search=6
スライドのみで音声(Youtube)は無いが、スライドだけでもかなり参考になる。

■顧客データこそサービス向上のカギ ~ハラーズ・カジノが実践~
ゲイリー・ラブマン著 ダイヤモンド社 ハーバードビジネスレビュー2003年11月号
http://www.booknest.jp/detail/00000765
2003年の記事だが、内容は今でも通用する。

※上記ブックネストはリプリントを(紙で)発注しなければならないが、発注するとオンライン上で同じ内容をすぐに見ることができる 

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