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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

S&OPで「金額ベースのサプライチェーン最適化」をはかるデュポン

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S&OPという言葉をご存じだろうか。もともとは「Sales and Operations Planning」の略語だったが、現在ではそれ自体がひとつの単語として通用している。

製造業にお勤めの方であれば、「製販(生販)調整」とか「PSI」(Production/Procurement, Sales and Inventory、製造/調達・販売・在庫)といった言葉ならおなじみであろう。これらは名前のとおり、製造(生産)部門と販売(営業)部門が供給量と需要量の見込みをすり合わせて、納期を守りつつ在庫を適正に抑えることを目指す活動を指す。

いっぽうS&OPは、日本語にすると「販売および操業計画」だが、上記のような製販(生販)調整からさらに発展して、「金額ベースでの販売および操業計画」といったものだ。製造業のみならず、サービス業などでも適用可能な概念である。

S&OPそのものについては、実例やストーリーを交えて分かりやすく解説された記事が多数あるので(末尾に参考リンクを掲載)ぜひそちらを参照いただきたいが、その中でもとくにポイントを押さえた良記事から引用させていただく。 

1980年代に提唱されたS&OP(Sales and Operations Planning:販売および操業計画)は、かつては「製販調整」や「需給調整」と呼ばれ、単一のオペレーショナル需給計画を立てるプロセスとほぼ同義でした。近年はその概念が発展し、財務・予算計画との統合や収益を勘案した「利益ベース」の需給バランス計画が求められています。*1

日本を含めアジアでは、むしろ「欠品ゼロ」つまり「顧客要求に対する素早く高精度なフルフィルメント(fulfillment:ここではOrder fulfillment=注文の履行)」が一番なのではないかと考えられていました。 <中略、(しかし、震災後は、)>単に顧客要求を充足すればいいのではなく、「利益ベース」でサプライチェーン運営を考えなければならない時代になってきたということなのです。この「利益ベースのサプライチェーン運営」が、近年型/発展型の「ビジネスS&OP」の重要なポイントです。*2

―*1―日本のモノづくりのアキレス腱「利益率」を改善する近年型/発展型S&OPとは?(1/2)
―*2―日本のモノづくりのアキレス腱「利益率」を改善する近年型/発展型S&OPとは?(2/2)

従来の広義のサプライチェーン運営が「サプライ」つまりモノの流れ(調達、製造、物流、販売、さらに場合によっては返品まで)に着目し、モノの流れの最適化をはかることを目的としていたのに対し、S&OPはそれをさらに発展させ、モノではなく利益ベースでの最適化をはかることを目的としていることがポイントである。 

・・・最も初歩の段階では、需要側と供給側がそれぞれ計画を立案し、部門間(担当者間)連携で製販の調整を取っていました。会社が小規模で、互いの顔が見える環境下で仕事をしていた時代は、それで事が足りていたのです。

製販調整会議製販在(PSI)計画といった会議体で需要側・供給側のお互いの計画を突き合わせ、いつ、どれくらいの商品が生産・販売されていくかを統合的に計画・予測するようになりました。

 ただし、このレベルで重視されているのは販売「数量」であり生産「数量」です。欠品を起こさないこと、要求納期に間に合わせることが最大の関心事であり、また、過剰在庫を持たない、売りどきを逃さないよう良いタイミングで生産するなど、いずれにせよ数量ベースで需給がうまく合うかどうかがポイントになっています。ツールの活用度の観点では、担当者が主に表計算ソフトや専用ツールを利用しながら週次から月次ベースで計画・調整している段階です。*3

第2段階から一歩進み、数量ベースで需給を統合させた計画をたてるだけではなく、売上など「金額ベースではどうなるのか」という点に着目しているのが、図1のレベル2です。に、製品の単価などを考慮することで、いつ、どの程度の売上が見込めるか、事業としての成功度合いが粗くではあれ、把握できます。*4

「こうしたらこうなるのではないか?」というシナリオ、仮説を立て、実データを基に結果をシミュレーションする、しかも、その結果をすぐに取り出せれば、より迅速な決定を行うことができます。<中略 >意思決定はあくまでも人間が行うことですが、「勘」を裏付けるデータとして、シミュレーションができるというのは、ツールを活用する大きなメリットの1つです。

 さらに、意思決定した後、実際に事業がどのように進んでいるか、業績をモニタリングできることも経営層にとっては重要でしょう。*5

―*3―経験と勘、これまでと同じでは何も変わらない (1/3)
―*4―経験と勘、これまでと同じでは何も変わらない (2/3)
―*5―経験と勘、これまでと同じでは何も変わらない (3/3)

1980年代からあるS&OPが、ここ1~2年あらためて世界的に注目を集める背景には東日本大震災とタイの洪水の教訓がある、といわれる。自動車部品等を中心にサプライチェーンの寸断が起き、アメリカの自動車工場までが操業停止に追い込まれたのは記憶に新しい。

S&OPの本来の目的は、サプライチェーンを「数量ベース」だけでなく「金額ベース」で把握し、中期的な(一般には18~24か月先)利益最大化のために計画を立てていくことであり、「突発事象対策」ではない。しかしS&OPの環境が整備されていれば、つまり後述のように、製・販・在の情報が明細ベースで一か所に集まってくる体制ができていれば、それらの一部が突然欠けたとしても、それ以外のものでどこまでカバーできるか(つまり数量ベースでのサプライ)を即座にシミュレートすることができるから、結果的には突発事象対策にもなることは間違いない。 

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製品の値動きが激しい業界(たとえば電子部品)や原材料の値動きが激しい業界(たとえば石油化学)では、S&OPをベースにした統合ビジネス計画(Integrated Business Management:IBM)を経営判断の中核に据えている企業も多い。こうしたグローバル製造業の中から、今回はS&OPをクラウドベースでいち早く導入したデュポンの例を見てみたい。

以下、Sapphire 2013におけるパム・リンゼー氏の講演から抜粋してご紹介する。

なお《二重山カッコ》は、補足のため筆者が挿入したコメントを指す。 

■デュポンにおけるS&OPの取り組み:dibm(デュポン・インテグレーテッド・ビジネス・マネジメント)

http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4837

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今日お話しするテーマは、デュポン・インテグレーテッド・ビジネス・マネジメント、略してdibmです。dibm、統合ビジネス計画、S&OP、といった言葉が出てきますが、基本的には同じものを指していると考えていただいて結構です。 

デュポンは12の事業部門が45か国に207工場を持ち、サプライチェーンの数は70以上あります。

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こうしたたいへん複雑なサプライチェーンをさらに改善していくうえでは、下記の3点をバランスよく改善していく必要があります。

  • お客様へのサービスレベルの改善:信頼できる納期、リードタイムの短縮
  • 在庫の削減:資本コストを削減し、再投資の余地をつくる
  • オペレーションコストの削減:プロセスの自動化・共通化・ルール化、製造コストの削減、緊急対応に要するコストの削減

これがデュポン・インテグレーテッド・ビジネス・マネジメント(dibm)の目標です。

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デュポンにおけるdbimは、《製造部門あるいは販売部門ではなく》経営陣が意思決定を行うための月次公式プロセスです。向こう24か月間における「プロダクト(製品)」「デマンド(需要)」「サプライ(供給)」そしてその結果である「収支」という4つの計画値を、グローバルで統合的に把握し見える化します。

dbimによって、それらの計画値が経営戦略にマッチしているかを確認するとともに、各部門はこのひとつの計画値だけに沿って動くことで《部門都合でなく》全社のリソース割り当てを最適化し、結果としてお客様のニーズに応えつつ収益を最大化していくことができます。

P08

ポイントは以下の4点です。

  • 《製造部門や販売部門ではなく》 経営陣がオーナーシップを持つプロセスであること
  • ひとつの真実だけを語ること
  • 毎月繰り返す月次ローリングプロセスであること
  • 意思決定のシンプル化を実現すること

dbimを成功に導くためのカギは、以下のようなものだと考えています。

  • 各部門がdbimの数字を基準に動き、責任を持つこと
  • 経営陣および経営企画部門が強くコミットすること
  • 《部門ごとの目標ではなく》 部門を横断する共通目標にフォーカスすること

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dbimは4つのパートから構成されています。

①    プロダクト(製品)計画では、向こう24か月に出てくる新製品および製造中止となる製品を考慮に入れて、プロダクト構成を計画します。

②    デマンド(需要)計画では、そうした製品群に対してどのような需要が見込めるかのシナリオを計画します。

③    サプライ(供給)計画では需要シナリオに対して、24か月間の製造リソースを用いてどのような製造・出荷のシナリオが可能かを計画します。

④    収支計画では、上記②③のシナリオごとに、いくらの売上と利益が見込めるのかを計画します。

我々はdibmを通称「見える化マシン」と呼んでいます。4つの計画値を一か所に集め、互いに連動させていくことで、複雑なサプライチェーン計画をひとつの統合的なビューにまとめることができるからです。

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デュポンは以前からこうした統合的なビジネス管理に取り組んできましたが、このdibmが導入されたことで、以下のような効果が実現されました。

  • dbim導入以前は向こう3~12か月つまり目先の需要・納期を満たすために、週次や月次で行っていたが、dbim導入後は24か月先までの中期計画を月次ローリングで行うようになった
  • その際のフォーカス(視点)は以前はSKUやユニットといった明細レベルであったのに対し、導入後はマーケットセグメント、製品群、国・地域といったよりハイレベルな視点になった
  • 以前は「製造計画」がアウトプットだったのに対し、導入後は「戦略とのギャップを埋めるためのシナリオとアクションプラン」がアウトプットになった
  • 以前はミドルマネージャーが短期的な意思決定をするためのツールだったのに対し、導入後は経営陣とミドルマネージャーの両方が参加して戦略的および戦術的な《中長期の》意思決定を行うツールとなった

P11

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ここでひとつ触れておきたいのは「シナリオ・プランニング」についてです。みなさん、シナリオという新しい概念にはいろいろ苦労されてますよね(笑)。

シナリオとは、「悲観ケース、中間ケース、楽観ケース」といった、ひとつのケースの中で数値だけを変えたバリエーションを指すのではありません。質的に異なるケースをそれぞれ想定して、それぞれに対応する方法を考えておくものです。

もちろん、できるだけ多くのシナリオを想定し、その対応策も準備しておけば、それだけ環境変化への感度が上がり、素早く対応することができます。日本で起きた地震と津波による被害への対応、などもそれに含まれます。

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みなさんすでにお気づきかと思いますが、S&OPは「中期的」なビジネス計画のためのものです。SAPの製品群でいえば、短期的な計画と実行についてはAPOやSCM7があり、長期的・戦略的な計画とトラッキングにはBPCがありますが、S&OP(dibm)はその中間を埋めるもの、と考えていただいてよいでしょう。

P13

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■S&OP on HANA

デュポンのように、S&OPを軸として全社サプライチェーンの見える化をはかる企業は多い。SAPではそのニーズに応えるために「SAP Sales and Operations Planning powered by SAP HANA(通称 S&OP on HANA)」を出荷しているが、その特徴は①クラウドベースであること、②疎結合であること、③Excelをインターフェースとしていること、④コラボレーション機能も持たせていること、にある。 

①    クラウドベースであること。

アプリケーションのクラウド化はもはや止めることのできない、IT業界全体の流れだが、S&OPではとくに大きなメリットが享受できる。なぜならS&OPは膨大な計算が走るシミュレーションなのでHANAのような強力なコンピューティングパワーを必要とする一方で、基本的に月次で回すプロセスであって24時間x週7日使うものではない。したがってクラウド上のコンピューティングパワーを必要なときだけ使えばよく、結果として大きなハードウェア資産を自社で抱えるのに比べてコストを大幅に引き下げることができた。

②    疎結合であること。

S&OPのデータソースは非常に多岐にわたるため、取り込むデータの形式については柔軟に対応できる。もちろんSAP製品(APO、ECCなど)を使っていれば連携はより容易ではあるが、SAP以外の製品を使っていても問題なく取り込むことができる

③    Excelインターフェース。

S&OP導入前は、同じプロセスをExcelを駆使して手作業で行っていた企業が圧倒的に多い。したがってバックエンド(サーバー側)はS&OPに移行しても、フロントエンド(ユーザー側)はExcelとしておくことで、担当者は比較的容易に新しいプロセスに移行することができる

④    コラボレーション機能。

上記③のようにExcelベースで行っていた場合、そのExcelファイルをやりとりするのは基本的にメールだった。しかしメールはやり取りの経緯が当事者どうしにしか残らず、どれが最新かは誰にも分からない(もし宛先に漏れていても本人は気づきようがない)、コラボレーションには不向きなツールである。

SAP S&OPはメールのかわりにWeb上でセキュアなコラボレーションを行う機能を合わせて提供しており、関係者全員に「やりとりがどのような経緯で、どこまで進んでいるのか」が見える化される。

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S&OP on HANAは、デュポンも参加しているCISUG(化学業界SAPユーザーグループ)のワーキング部会での検討・インプットに基づいて作られた製品であり、したがってユーザー企業のリアルなニーズが色濃く反映されている。「疎結合」や「Excelインターフェース」などはまさにその代表例と言ってよいだろう。 

デュポンは以前からサプライチェーンの改善に全社を挙げて取り組んできているが、今回S&OPという武器を導入したことで、そのさらなる発展が期待される。シェールガス革命で活況に沸く北米化学業界において、デュポンの業績に注目したい。

 

※当稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、デュポン社のレビューを受けたものではありません。

 

【参考リンク1:S&OPについて】

@IT Monoist:「ビジネスS&OP」とは何か

最近のS&OPの主流である「金額ベースのサプライチェーン最適化」を簡潔かつ分かりやすく解説している良記事。

 ■“定食屋”で理解するS&OPのプロセス

国内におけるS&OPの第一人者が解説するS&OP。「定食屋」の喩えは分かりやすいが、「金額ベース」の概念がやや弱い気がする。

http://it.impressbm.co.jp/e/2013/09/04/5095

@IT Monoist:S&OPプロセス導入 現場の本音とヒント

ストーリー仕立てで読んで楽しい。とくに製造業の方にとっては「あるある」と実感できそう。

リサーチペーパーでひも解くS&OP

連載だがそれぞれ筆者が違うため、さまざまな視点からの解説があり、その幅の広さが逆に参考になった。

■セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論:経営と現場の情報は「超」シンプルにつなぐべし

■雑談S&OP 松原先生との対話:部門も言語も超える共通語が、日本にも必要な時代になったんです

■S&OP とは:大塚商会 IT用語辞典
http://www.otsuka-shokai.co.jp/words/s-and-op.html

【参考リンク2:SAP製品 S&OP on HANAについて】

SAP製品「S&OP on HANA」に関する参考情報。

■S&OP on HANA ブローシャ(PDFダウンロード(日本語、6ページ)

■SAP、クラウド型「S&OP」新製品を発表――社内ソーシャル機能で円滑連携を実現
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1308/07/news027.html

■SAPジャパン、需給業務計画の策定・調整を支援する「S&OP on HANA」
http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/20130806_610519.html

化学業界が直面するグローバル・サプライチェーンの課題と克服の手段とは?(SAP中谷)
http://www.sapjp.com/blog/archives/4408

ハイテク業界のビジネストレンド【その③】――垂直統合と水平分業を組み合わせた、変化に柔軟なハイブリッド型の生産体制(SAP柳浦)
http://www.sapjp.com/blog/archives/4276

次世代プランニングソリューション - SAP Sales and Operations Planning powered by SAP HANA
http://www.youtube.com/watch?v=zNkm-D_d56A

■SAPジャパン S&OP
http://global.sap.com/japan/solutions/analytics/applications/sales-and-operations-planning/index.epx

 

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