秒5,000件(!)のイベントを処理、超リアルタイム・オファーで収益を最大化するBigpoint
2.5億人以上の登録ユーザーを抱え、60タイトルを運営するオンラインゲーム会社、BigpointがHANAを採用した。
まず何はともあれ、このYouTube動画をご覧いただきたい。
YouTube: 課金型オンラインゲームの収益を支えるSAP HANA - Bigpoint社 (4分28秒、日本語字幕つき)
Bigpoint社は2002年、ドイツ・ハンブルグで創業。非上場なので売上などは非公表だが、ここ数年は倍々ゲーム成長が続いており、2010年度の売上が2億ユーロ(200億円)超、時価総額6億ユーロ(約600億円)超、登録ユーザー数は2.5億人超とのこと。
日本のGREEやDeNAに比べると、ユーザー数ははるかに多いが、収益面ではさらなる成長の余地がある(それだけ、日本の携帯ゲーム市場を制覇した両社の収益力が驚異的だともいえる)。
このHANA事例のポイントは2つある。
(1) ド本業であること。
(2) 超リアルタイムであること。
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■(1)ド本業であること
Bigpoint社のゲームはDeNAやGREEと同様、基本的に無料なので、収益源はおもに宇宙船、燃料、弾薬などの「有料アイテム」の売上による。したがって有料アイテムの売上をいかに増やすか?がビジネス面では最大のポイントになるわけだが、同社ではまさに正統派の道を行くことにした。
プレイヤーひとりひとりのプレイぶりを分析し、行動パターンを予測して、その特性ごとに最適なアイテムを最適なタイミングでオファーすることで、売上を増やそうとしているのだ。
たとえば、より強大な戦艦に乗って撃ちまくるのが好きなプレイヤーには大型の戦艦と大量の弾薬を、敏捷な戦闘機を使って相手を攪乱し撃破するタイプのプレイヤーならスピードの速い戦闘機をオファーすることで、プレイヤーが思わず「購入」ボタンをクリックしてしまうよう仕向ける、というわけだ。
この部分を担っているのが、SAPのRTOM(リアルタイム・オファー・マネジメント)というエンジンである。
■SAP RTOM(リアルタイム・オファー・マネジメント)
RTOMはもともとはコールセンターのエージェント支援システムとして開発された。あらかじめ設定された多数の「オファー」と、電話をかけてきた顧客の属性や要件を瞬時に対照して、適切な(もっともビジネス価値が大きくなる)オファーの候補をエージェントに提示する、という機能を担っている。
RTOMは下記の図のように、①②③の3つのインプットからなっている。
①オファー設定: には下記の4要素をあらかじめ定義しておく。たとえば「1年間、ゴールドカード会費を無料にする」というオファーだとすると、
- What: 各オファーの内容とそのビジネス価値(「年100ドルの会費を失うが、引き留めに成功すれば3年間で840ドルの収益が見込める」)
- Who: ターゲットとなる顧客の属性(「過去3年間ゴールドだった」「3年間で毎年1万ドル以上カードで買い物をしている」「延滞のない」顧客)
- When: トリガーとなるイベント(「解約の申し出」)
- Where: チャネル(「コールセンターに電話」「Webサイトから解約申し込み」「郵送で解約申込書を請求」の3つ)
ほかにも、たとえば「200ドルのクーポンを進呈」「責任者がクレーム対応に出向く」などさまざまなオファーが考えられる。
この①オファー設定は、基本的にデザインフェーズで事前設定しておく。 それに対し、②以降は接触フェーズの中で、リアルタイムに発生するアクションである。
②当該顧客に関するリアルタイム情報: には、たとえば以下のようなものが考えられる。
- 最新の顧客属性:(「最近利用額がガクンと減っている」フラグ→他社クレジットカードに乗り換えの可能性がある?など)
- 以前の顧客の反応: (以前「年会費30%オフ」をオファーしたら冷淡な反応であった→同じオファーを2度出すと感情を損ねる可能性が高い?など)
③その他リアルタイム情報: として、RTOMでは以下のような情報も考慮する。いずれもごくリアルタイムなインプットである。
- 顧客の反応: (たとえばエージェントが解約の理由を尋ねたところ「不満はとくにないがカードをあまり使わないので」と回答した)
- イベント: (たとえば紛失カードが会社に届いたが本人からは連絡がない→使っていない?)
- データ: (たとえばWebサイトの「解約理由」欄で「カードをあまり使わないので」を選んでいる)
- 混み具合: (たとえば電話が非常に多く立て込んでいるときは、ローバリューな顧客の引き留めは優先度を下げる)
- エージェントのスキル/資格: (たとえば保険を営業できる専門資格を持っていないエージェントが対応しているときは、保険商品のオファーは表示しない)
④最適なオファーを提示: 上記①②③をRTOMはリアルタイムに突合せ、最も優先度の高いオファーをいくつか選んでエージェント画面(またはWebサイト画面)に表示する。
これに対して顧客が示した反応は、もちろん即座に③に反映され、オファーの内容もリアルタイムに見なおされる。
⑤自動学習: さらにRTOMには自動学習機能があり、オファーに対する(多数の)顧客の反応をみて、オファーの出し方を見直していく。たとえば断られる割合の高いオファーは提示しなくなっていく、などである。
上記をオンラインゲーム文脈に置き換えてみると、リアルタイム・オファーが機能することは十分想像がつく。たとえば、
「過去数か月、有料アイテムを毎月300ドル以上購入してきたのに、最近1ヶ月はほとんど購入していないプレイヤー」は、もしかすると他社ゲームに乗り換えつつあるVIP顧客かもしれない。ではどうやって引き止めるかというと... というわけである。
■(2) 超リアルタイムであること
今回HANAを採用した、Bigpointの看板ゲーム、バトルスター・ギャラクティカ・オンラインは、2004~2009年にかけてアメリカで放映された人気TVシリーズ Battlestar Galactica (※)をフィーチャーしたゲームだ。
※もともとは1978年に制作された同名の名作TVシリーズのリメイク版。オリジナル版はスター・ウオーズ(1977年)とともに当時最新のSFXを駆使して作られ(特撮担当はスターウォーズと同じジョン・ダイクストラ)人気を博した。
オリジナル版、リメイク版ともに、日本でも「宇宙空母ギャラクティカ」としてTV放映され、DVD化もされている。
□宇宙空母ギャラクティカ(オリジナル版)について(日本語Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E7%A9%BA%E6%AF%8D%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AB□ギャラクティカ(リメイク版)について(日本語Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/GALACTICA/%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AB□バトルスターギャラクティカ・オンラインについて(日本語Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Battlestar_Galactica_Online
バトルスター・ギャラクティカ・オンラインは2011年4月にサービスを開始。登録ユーザー数はYoutubeでは900万人以上と語られているが、本日時点ではすでに1,120万人に達しているようだ。同時ユーザー数が、たとえその1%だったとしても11万人だから、そのシステム負荷は想像を絶する。
「秒間5,000件以上のイベントが発生する超リアルタイム環境ゆえ、旧来のデータベース技術では、プレイヤーの行動にあわせたリアルタイムなコンテンツ提供は不可能でした」とのことが、それはそうだろう。この規模とスピードで進んでいくゲームに伍していけるシステムがあるとすれば、それはHANAしかない。
もっとも、バトルスター・ギャラクティカ・オンラインは、RTOMにとっても、まったく新たな水準のチャレンジであった。コールセンターのエージェントが顧客と会話をしながら進めていくという環境であれば、「リアルタイム」とは秒単位のレスポンスを意味していた。これがWebチャネルになると、1/10秒単位で反応する必要があった。
しかしこの規模のゲームでは、リアルタイムとは1/100秒あるいはそれ以下の単位の話になる。数万人以上の同時接続ユーザーに対してそれぞれに最適なアイテムを勧めていくことができるのか?RTOMの製品チームも内心冷や汗をかいていたに違いない(苦笑)。しかしPoC(実証実験)を経ての本採用となって、十分に対応できる性能が証明されたわけである。
すでにHANA採用企業は500社に迫っているが、この規模のリアルタイム性能を実証しているユーザー企業はまだ多くない。この成功例をみて、今後HANA+RTOMによる「超リアルタイム・オファー・マネジメント」に注目が集まるのは確実な情勢である。
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実は筆者はゲームが苦手で(超ヘタクソなので)ゲームにはほとんど土地勘がないのだが、ゲーム好きの読者のみなさんはぜひ会員登録していただき、バトルスター・ギャラクティカ・オンラインをプレイして、どのようなアイテムがオファーされるか、試してみていただきたい。
もちろん、オファーされた有料アイテムを片っ端から購入して、同社の収益に貢献していただくのもおおいに歓迎である(笑)。
当記事は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、Bigpoint社のレビューを受けたものではありません。