オルタナティブ・ブログ > Why Digital Matters? "なぜ"デジタルなのか? >

日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

月次決算を1日前倒し/モバイル活用で営業マン1万人の活動をリアルタイム化したノンフー・スプリング

»

 
前々回(ビッグデータかどうかは重要ではない。速いかどうか、である。)で紹介した「CEEDAIMAサイクル」(シーダイマ・サイクル)の実例として、前回のTモバイルにつづき、もう1社ご紹介しよう。

中国のミネラルウオーター/果汁飲料業界最大手のノンフー・スプリング(農夫山泉、Nongfu Spring)(以下ノンフー)である。昨年度の売上は120億元(約1,500億円)で、なお年率30~40%の割合で急成長している。とくにボトル入りミネラルウオーターでは中国国内シェア50%のトップ企業だ。

2012年4月26日、ノンフーのCIO、パトリック・フー氏が来日し、SAP Innovation Forumにて講演を行った。講演要旨は下記の記事にて簡潔にまとめていただいているので、まずはそちらをお読みいただき、そのうえで講演前に筆者(村田)がフー氏に行ったインタビューの内容を含め、「超リアルタイムビジネス」視点での解説を付け加える形としたい。

「Exadataより速かった」中国大手飲料メーカーがSAP HANAを採用したわけ
(TechTargetジャパンへのサインアップ(無料)が必要)

Techtarget

-----

■Before

講演の中で、フー氏は3つの業務サイクルについて述べている。①月次決算時のバッチ処理(輸送コスト計算など)、②営業からの現場報告や他社の施策状況などを含む市場状況、③現場営業マンへの業務指示および受発注とその照会である。

①月次決算:従来のOracleベースのデータウェアハウス(DWH)は、データ量が3.5TBを超え、業務に耐えられないほど遅くなっていた。「例えば輸送費に関するリポート生成には24時間かかっていた。輸送費はコストの中の一部の項目のため、リポートを待っていると決算が1日遅れてしまう状況だった」(TechTarget記事より)

②営業からの現場報告/他社施策状況などは帰社後の報告→日次バッチによる反映だったが、コカコーラやペプシなど競合他社の動きをいち早く察知して施策を打つには、それをリアルタイム化する必要があった。

③携帯電話は2007年から営業活動に活用していたが、ショートメッセージ(文字)ベースが中心で、使い勝手は限定的だった。
 

Before

 

■After

ノンフーでは、SAP HANAおよびSAPのモバイルソリューション(Afaria および SUP:Sybase Unwired Platform)の導入に伴い、この3つのサイクルがそれぞれ加速している。

①SAP HANAベースの新DWHにより、輸送コストの計算は24時間から36秒になり、さらにHANA上でのロジックを工夫して処理の並行度を上げた結果、最終的に3.6秒にまで短縮された。およそ24,000倍の短縮の結果、月次決算が丸1日早くできるようになった。

②中国全土に配置された営業マン約1万人からの売り場状況報告(陳列、POP、SKU保持数、在庫数など)はAndroidベースのスマートフォンの画面に直接入力され、リアルタイムでSAP HANAに取り込まれるようになったため、マーケティング部門などもすばやく反応できるようになった。売り場の写真などもアップ可能。

③営業マンへの訪問指示ルート(地図)情報つきでスマートフォンに直送されるので、営業活動が効率的になった。また受発注の状況の照会もリアルタイムに可能。
 

After 

 

まさに「日次バッチ企業」から「リアルタイム企業」への段階を上りかけていると言えよう。
 

■営業マンの生産性を劇的に改善したモバイルアプリケーション

またフー氏は講演の中で、ノンフーが開発したモバイルアプリについても紹介している。同社の承諾を得て、画面イメージをいくつか掲載する。
 

03
ノンフーの営業マンが使うモバイルアプリケーションの画面イメージ

04 05
営業に対して今日の訪問先を指示するリスト。位置を地図上に表示することもでき、効率的な巡回を可能に

06
受発注状況をリアルタイムに照会できる

07
売り場での施策の実行状況を正確かつリアルタイムに報告させるアプリ
 

■ノンフーのリアルタイム化を支えるインメモリDB、SAP HANA

ちなみフー氏はCIOであるだけに、SAP HANA導入のIT的な側面についても具体的な数値を挙げて説明している。

このブログで繰り返し主張しているように、IT単体の速さそのものには意味はなく、「CEEDAIMAサイクルを速く回す」という目的に資する場合においてのみ意味があるわけだが、ノンフーの場合はITの加速がサイクルの加速にまさに直結しているだけに、注目に値する。

講演の中では、以下のような数字が挙げられていた。

  • バッチ処理:約24,000倍(Oracleベースのデータウェアハウスで24時間かかっていた処理が3.6秒に)
     
  • 演算速度:約2,000倍以上(Oracle SQLで2,150秒かかった処理が、HANA SQLでは初回1.113秒、2回目は0.804秒に)
     
  • 表示速度:約278倍(Oracle+BO3で358秒かかっていたものが、HANA+BO4では1.285秒)
     
  • 事業所顧客のアクティビティ分析(全支社、6か月分):約57倍(Oracleベースで863秒かかっていた処理が15秒に)

またもう一つ、別の意味の「はやさ」として、稼働開始までの構築期間の短さも特筆される。ノンフーでは(2011年)6月27日に導入準備を開始し、8月20日から本番運用を開始した、というから正味2か月を切っている。あまりの早さに少々信じがたい気もするほどだ(笑)。

さらにノンフーでは従来のOracleシステムをアップグレードするに際し、Oracle社の最新製品Exadata(エクサデータ)とSAP HANAの比較も行っている。

Exadataは従来システムと同じHDDベースの製品だが、ディスクへのアクセス速度を工夫するなどして高速化をはかっており、フー氏によれば「従来のOracleより5倍くらいは速かった」。一方、インメモリ製品であるSAP HANAは「200倍から2,000倍、場合によっては3万倍くらい速いケースもあった」。

フー氏は「ExadataはOLTP(更新を伴う基幹系システム)に向いていると思う。HANAはOLAP(分析を中心に行う情報系システム)向きだ」とコメントしている。

もとよりHDDベースのExadataとインメモリのHANAを同列で比較すること自体にあまり意味がないと筆者は考えるが、それを裏付けるユーザー企業からのコメントである。

なおノンフーのSAP HANAサーバーはHP製、メモリサイズは512GB、バックアップ用のディスク容量は4.2TBである、とのことだった。

-----

※当記事は、公開情報および公開許可を受けたインタビュー情報/プレゼン資料をもとに筆者が構成していますが、当ブログ記事そのものについてはNongfu Spring社のレビューを受けたものではありません。

■ノンフー・スプリング社HP (中国語のみ)
http://www.nfsq.com.cn/

■パトリック・フー氏講演ビデオ
講演の様子を録画したビデオも公開されている。中国語の講演だが日本語の同時通訳がついている。59分。

【特別講演】 『競争激烈な中国市場での勝ち方 ビジネススピードを300倍加速させたSAP HANAの導入効果とは』

概要:
Nongfu Spring社は、中国有数の飲料メーカーで、SAP HANAを実ビジネスで既に利活用されています。SAP HANA導入時のパフォーマンス比較を始め、BusinessObjectsやモバイルソリューションの活用まで、先進的な取り組みを濃密に語っていただきます。
講演者情報:
Patrick Hoo
CIO, NongFu Spring

Comment(0)