組織力を活かしきれない中小ソフトウェア業 〜やる気を出すために必要なもう一つの視点〜
平成21年特定サービス産業実態調査(少し古めの数字ですみません)からソフトウェア業を見てみると、事業所ベースでは約9割近くはいわゆる中小企業(サービス業なので、従業員ベースでは100人以下になりますが、政令にてソフトウェア業は300人以下となりますので、その観点からであれば、98%近くが中小企業ですね)となっています。大半は、4人以下の小規模企業(これも、サービス業なので5人以下が該当です)が約1/4、30人以下とすると3/4を占めていると言えると思います。
中小のソフトウェア業の従業員一人あたりの年間売上高をざっくり見てみると、小規模企業については一人あたりの売上高は中小企業の中では高く、やや従業員が増えると一人あたりの売上高が小規模企業と比較してやや落ち込んでいます。しかも、以降、従業員が増しても底打ち状態は続き、大企業に近づく100人規模を超えると徐々に売上高が高くなる傾向が示されています。
中小企業は従業員個人の能力への依存度が高いことは、ある意味周知の事実ではありますが、大企業とされる組織が超銀河系集団や全員が4番バッターということではないと思います。尖った技術で本当にニッチな部分を集中的に掘り下げている小規模企業がエース級のエンジニア達で事業を牽引していることは想像するに容易ですが、そこそこ従業員が増えてくるとエンジニアメンバーの持ち味を引き出しきれていない実態も浮き彫りになっているのかもしれません。(場合によっては、間接部門に相当するようなスタッフを十分に活用できないジレンマもあるのかもしれませんが)
中小企業白書などをみると、中小企業の全てが給与面にていわゆる大企業に劣っているわけではありません。約12%の中小企業は、大企業より給与面にて勝っているとのデータもあります。小規模企業を脱しようとするソフトウェア業にて、エンジニアメンバーらのモチベーションを引き上げるには、給与面など金銭的な待遇がやはり効果的なのでしょうか?
組織行動論(ミクロ組織論)では、モチベーション理論をざっくり、個人を行動に駆り立てるドライバーはなんなのか?という内容理論と、どのようなプロセスで駆り立てられるのか?という過程理論に大別しています。多くの方がご存知かつ有名なマズローの欲求段階説は内容理論のほうになります。
比較的大きめの会社にて行われている目標管理制度の源流は、マグレガーのX理論・Y理論から来ているといってもいいかと思います。組織管理において、人は「生まれつき仕事は嫌いで、命令・指示されないと能力は発揮できず、指示受けを好み、責任を回避しながら安全を望むという暗黙の了解をもつ」とするのがX理論です。しかしながら、人は、「自尊心を持ち、能力や知識をも伸ばしたい」という高次な自己充足をもっているとして、「仕事は生活の一部であり、自ら設定した目標設定には挑み、条件に応じて自ら責任を負い、活動に創意工夫をこらす」という人間観をもったY理論もあるとしています。つまり、X理論に基づく従業員たる組織構成員を、Y理論へ導いていくことが必要だと触れているわけで、マグレガーは、高次欲求を満たすことができる条件が整ったときに、よりよく動機付けされると示唆しています。
さらに、ハーズバーグは、踏み込んで衛生理論にて、互いに独立する二つの要因を示しています。これは、200人近くの会計士やエンジニアなど比較的スキルをもった人材に対する実証研究によるものです。
ひとつが、「満足をもたらす要因」(motivating factor)であり「動機づけ要因」、積極的な職務遂行を引き出す要因としています。また、もうひとつが、「不満をもたらす要因」(hygiene factor)です。「衛生要因」とも呼ばれるこの要因は、不満を防止することはできるが積極的態度を引き出すにはほとんど効果がないという点で、極めて注目すべき要因です。
具体的に、「動機づけ要因」は、達成、承認、仕事、責任、昇進などがあり、責任については長期的に動機付けの要因となるとしています。逆に注目すべき、「衛生要因」は、方針、監督、給与、人間関係、労働条件などがあり、まさに「給与」については、”うだうだいう不満”を防止するには一定の作用はするものの、積極的な職務遂行を促すような動機付けにはならないとされています。
また、ハーズバーグはこの衛生理論では、
1 まず、「衛生要因」を十分に確保すること
2 その上で、「動機付け要因」に配慮すべき
としています。
ようするに、ある程度のスキルをもった人材に対しては、「給与/ボーナス」がより高い動機付けにはならず、より「責任」ある役割をもって職務遂行してその達成を持って自身の動機づけを自分自身でより高めてもらうことは周知と言えますが、一方で、「動機付け要因」をもって動機付けに至っていない組織の段階(フェーズ)においては、まず、「衛生要因」についてきちんとした対応を取るべきかと思います。
特に、給与/賞与など、金銭的なインセンティブなどについては、まさに不満の種になりがちです。組織が不安定期にあるとき、上級管理職の説明が不十分であると従業員は疑念を持つことにもなりかねません。
結局は、「そんな雰囲気にならぬように、しっかり儲けましょう」と促すのも方策の一つかもしれませんが、組織たるもの「ゴーイングコンサーン」であり、いかなる状況に応じても成長(儲ける)は期待されてしかるべきものです。説明すべき点は曖昧にすることなく、十分な説明責任を果たして行かないと、逆に不満をもたらす要因に火をつけることにもなりかねないでしょう。
不安定期において、上級管理職が「衛生要因」に対して、しっかりした対応がとれるかどうかも、上級管理職の技量かと思います。そして、不安定期を乗り越えて、真の「動機付け要因」にてエンジニア(従業員)のモチベーションを高めることで、組織として能力をもったより生産性のたかいソフトウェア業に成長できることと思います。
(というわりには、私は上級管理職ではありませんので、勝手に偉そうなことを言っているに過ぎませんが。)