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アサーションとエビデンスを読み取れますか?

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技術屋のためのドキュメント相談所・所長の開米です。

文章で長々とダラダラ~と書かれた情報はわかりにくいことが多いので、構造化をする習慣をつけたいものですが、構造化と言っても普段からやって慣れていないとなかなかカンがつかめないものです。

今回はこんな事例を考えてみましょう。下記の文章が主張している要点を3分以内に3つ見つけられますか?

我が国の治安情勢は、刑法犯認知件数についてみると、平成24年中は138万2,121件と、昭和55年以降32年ぶりに140万件を下回り、戦後最多を記録した平成14年の285万3,739件の半数以下に減少するに至り、一定の改善がみられます。しかしながら、世論調査等からは、国民は依然として治安に対する不安を感じていることがうかがえます。
その背景には、児童虐待やストーカー事案、配偶者からの暴力事案が増加傾向にあるほか、特殊詐欺の被害総額が多額に上るなど、子供や女性、高齢者が被害者となる犯罪が多発していることが挙げられます。
また、サイバー空間に目を向けると、サイバー犯罪が多発し、サイバー攻撃が相次ぐなど、治安上の脅威が深刻化しています。
そして、これらの犯罪の多発や脅威の高まりが、刑法犯認知件数の減少にもかかわらず、いまだ国民が治安への不安を感じることにつながっていると考えられます。そこで、本年の警察白書では、こうした情勢を踏まえ、2つの特集を組むこととしました。
【出典:平成25年度 警察白書 「特集に当たって」】
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h25/honbun/html/pf000000.html

この文章の内容はたとえば下記のように構造化できます。

2014-0726-1.PNG

この構造化のポイントは、「アサーションとエビデンスを分離すること」です。
アサーションとエビデンスは日本語では「主張と根拠」のように訳されます。

例を挙げると

「タバコは肺がんの原因です。喫煙者の肺がん罹患率は非喫煙者の4倍以上になります」

といった文の場合、

アサーション:タバコは肺がんの原因
エビデンス:喫煙者の肺がん罹患率は非喫煙者の4倍以上

と分解できますね。

つまり「根拠をあげて主張する」というパターンが「アサーション&エビデンス」です。
(主張の内容によってはこれに加えて「リーズニング」が入る場合もありますが、今回は触れません)

この「アサーション&エビデンス」方式で冒頭に挙げた警察白書の一部を整理し、「アサーション」だけを取り出すと

【1】我が国の治安情勢は過去10年で大きく改善
【2】しかし国民意識の上では治安への不安感が高い
【3】その原因は「 A 」

のように要約できるわけです。

しかし・・・「A」って何だよ と言いたくなりますよね。

「子供や女性、高齢者・・・」とか、「サイバー空間・・・」とかの話を「A」の部分に持ってくる案もなくはないのですが、個人的にはそれらはエビデンスと考えた方がいいと思います。ですが、そうすると「A」が書かれていないので、困ってしまいます。

参考までに、私がもし「A」を代わりに書くなら、

【3】その原因はこれまでにない新たな脅威が強い印象を与えているためと考えられる

といったところでしょう。

(ちなみに、【2】のアサーションに対するエビデンスがないのも本当は気になるところで、少しでもいいので書いておいて欲しい気ものですが)

結局のところ、「わかりやすく書く」というのはこういう作業です。長い文章を分解・分類・構造化し、足りないところを補う地道な作業の連続なんです。

理想的には、今回の課題原文を読んだら3分以内に

「アサーション&エビデンス」で整理できそうだな
「アサーションは3つ、でも、3つめがないな」

ということを読み取れることを目指したいですね。それができるようなら、わかりやすい文書を書くのにはあまり苦労しないはずです。

しかしそれはこの種の「情報の整理・構造化」のトレーニングを普段から何度もやっていないとできません。
この種のトレーニングをしっかりやっておきたい方は、7月31日の「「明解ライティングのための6つの習慣」ワークショップにぜひご参加ください。

「明解ライティングのための6つの習慣」ワークショップ開催 7/31 (千代田区)
http://blogs.bizmakoto.jp/doc-consul/entry/20574.html

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