『20 under 20 答えがない難問に挑むシリコンバレーの人々』でシリコンバレーの今を垣間見る
トンネル企業Boring(「掘る」と「退屈」のダブルミーニング) CompanyやNeuralinkなど、相変わらずイーロン・マスク氏から目が離せません。
この人は南アフリカ出身ではありますが、シリアルアントレプレナーになったのはシリコンバレーのスタンフォード大学に入ってからです。入学してすぐにドロップアウトして最初の企業Zip2 Corporationを立ち上げました。
そんなマスクが今も拠点(の1つ)を置くシリコンバレーの今を活写した本『20 under 20 答えがない難問に挑むシリコンバレーの人々』を読みました。
「20 under 20」というのは、マスクもその1人である「ペイパルマフィア」の立役者、ピーター・ティールが立ち上げた起業家育成プログラム。金とメンターを提供するから脳が若くて気力が充実している20歳以下(今は22歳以下、になった)のうちにさっさと起業しなさい、という教育関係者が眉をひそめそうなプログラムです。ティールが出資したFacebookのマーク・ザッカーバーグやマスクが若かったら応募していそうですね。
話の中心は2011年の最初のプログラムに応募してきた若者たちの成長です。チャーミングな天才ローラ・デミングやナイーブなジョン・バーナムなどの登場人物がどうなるんだろうとはらはらしながら読んでしまいました。(下は2013年のTEDMEDTalksで語るデミングさんです。)
このプログラムで良くも悪くも人生が変わった若者たち。今も成功に向かっている人も、方向転換した人も、まだ進行形です。
原書のタイトルは「Valley of the Gods(神々の谷)」で、プログラム参加者だけでなく、「世界を変えよう」とシリコンバレーでがんばる人々の日常や意識を紹介しています。本気で不老長寿の研究をする人とかが出てくるので、マスクの脳チップ構想なんて全然クレイジーじゃないんだなぁと思う。筆者は東海岸の人なのでとても客観的。
実は私は17年前、「シリコンバレー・スピリッツ」という当時のシリコンバレー文化を切り取った翻訳本を担当したんですが、当時と今を比較するのは面白かったです。
当時のIT成金たちが果樹園をつぶしてばんばん建てた豪邸の多くが、今では夢を追う若者たちのシェアハウスになっていたり(マスクもそういうシェアハウスでZip2を立ち上げました)、今も昔も金持ちぶるのはかっこ悪いと思うところは変わっていなかったり。
17年前、まだ44歳だったスティーブ・ジョブズはシリコンバレーについて「昔、この土地には魔法のようなものがありました。科学の面でも、文化の面でも......。(中略)あのころが懐かしいですね。いま、人々は物質的なもののほうに強い関心を持っています」と嘆いていました。
そのころからさらに変わったシリコンバレー。これからどうなっていくんでしょう。
ゴールデンウィークにサクッとご一読、お勧めです。