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Foxconn版女工哀史、発端のラジオ番組が創作劇だった件

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先週末、米国のネット界隈ではその話で持ちきりでした。経緯はCNetジャパンに記事がありますので、そちらをどうぞ。私もこの話を取り上げるべきかどうかちょっと迷ったのですが、番組を放送したThis American Life(TAL)の米国での位置付けが日本ではほぼ分からない(私もよく分からないですが、昔からあるし、多分すごく良心的な番組なんだと思う)こともあり、やめちゃいました。

かいつまむと、昨年1月にTALが放送して大反響を呼び、一連の「iPadを作ってるFoxconnの工場はひどいところだ」トレンドの水源の1つになった番組が、TAL側はドキュメンタリーのつもりだったのが、番組を作った(というか、そもそもオリジナルが1人芝居だったというところがどうも)マイケル・デイジーさんはかなり脚色(というよりもう、でっちあげ)していたという話です。TALは後から捏造だと知って、「チェックが甘かったうちのミスです、申し訳ない」と番組を撤回しています。

Mike

デイジーさんは「だってぼくはリポーターでもジャーナリストでもなくて俳優+劇作家だし、悲惨な現実を伝えるために脚色するのは演劇では当然のこと」と言ってます。デイジーさん、いろんなところでこの1人芝居を公演していて、話題にもなっているんですが、Appleはよく提訴しませんでしたよね。結果的にAppleが受託工場監査に乗り出したりすることにつながったので、デイジーさんの言うことにも一理あるかもしれません(もちろん創作をドキュメンタリーだとして放送しちゃいけないですが)。

行ったこともないところの話をさも自分で取材したように話すのが創作劇と言えるかどうか疑問ですが、でもじゃあドキュメンタリーは真実そのものなのかというのも難しい話で。マイケル・ムーア監督の一連の映画を見るといつも「うまいよなぁ。編集って創作一歩手前だよなぁ」と思います。伝えたいことを伝えるための術(すべ)を持っている人というのは怖いです。

ちょっと話がずれるんですが、今静かに話題になっている「KONY 2012」の動画を見たときもそう思いました。LRAの指導者、ジョゼフ・コニーを2012年中に逮捕しよう、というものです。ものすごい説得力です。映像の使い方、話の運び方がすごくうまくて、一緒になって憤慨したり、涙したりしてしまいます。

この動画自体は正しいのかもしれません。でも、こういうものが作れるということは、悪い目的にも同じことができるということで。恐らく嘘はないと思いますが、こういう、人の意識を変えてしまえるようなプロパガンダが作れるのは恐ろしいことだなと思いました。

【追記】KONY 2012は公開直後に見て、その後世間の評価をチェックしないまま本稿を書いてしまったのですが、3月15日付のWiredジャパンにこのキャンペーンへの疑問記事が掲載されていました。また、TIMEのオンライン版によると、この動画に対する世界中からの中傷で、作者のジェイソン・ラッセルさんがノイローゼのようになってしまい、TIMEのインタビューに「みんなが僕を悪魔だと思っている。もう9日も眠れない」と答えた数日後、全裸で地面をたたいているところを逮捕されるという痛ましい悲劇が起こっています。TIMEは「このキャンペーンはニューメディアの力を示す好例となったが、その力を使うことで払わなければならない代償の例ともなった。同じことをする勇気のある人はいますか?」と読者に問うています。

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