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記者としての取材や編集者としての仕事の中から浮かんだふとした疑問やトピックをご紹介。裁判や企業法務、雑誌・書籍を中心としたこれからのメディアを主なテーマに、一歩引いた視点から考えてみたいのですが、まあ、精密でない頭の中をそのままお見せします。

ワーク・ライフ・バランスと「ご当地ドラマ」の方向性を指し示すNHKドラマ『ちょっとは、ダラズに。』

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*脇を固める出演者も豪華。主人公の黒川智花を支え、固い心をときほぐす病児保育担当看護師に森昌子、小林星蘭演ずる娘の精神的変調に最初に気づく医師に古谷一行、米子の「ダラズ」を体現する商店主に竜雷太。

 

12922:00からBSプレミアムで放映される

『鳥取発地域ドラマ ちょっとは、ダラズに。』(安田真奈脚本)。

仕事と育児の両立に苦しむ黒川智花演じるシングルマザーの看護師が、ひとり娘とともに子育て支援の充実した米子の大学病院に移り、「ダラズな」(自由闊達で、何事にも前向きな)米子の人たちのかかわりの中で心を解放され、自らの生き方を見つめていく。

 NHKの各地の放送局による「○○発 地域ドラマ」がたくさん作られている。その多くは、外部(多くは東京)の人間が、その地域のよさを発見し、人びととの交流の中で成長するという筋書きである。その対象の多くはモノづくりである。

 私も、主に取材を通して、地方の中小企業やユニークなモノづくり、それに賭け、生き甲斐を感じ、豊かに人生を生きていく人たちと関係してきた。その素晴らしさを全国に発信することは意義のある仕事だと思う。

 しかし、地方のよさとは、都会の人間の視線を借りて「発見」しないと語れないのだろうか。そこに、超えがたい「壁」と、もどかしさを感じるのである。

 『ちょっとは、ダラズに』も、基本的には同じ構造をもつ。

 しかし、他の「地域発ドラマ」と違うのは、伝統のモノづくりではなく、ワーク・ライフ・バランスという「制度」、当事者やそれを支える人たちの思いという「無形のモノ」を直接扱っているところにある。

 その前提として、圧倒的な説得力で「子育ての困難」が描かれる。安田脚本はものすごいスピード感で追い詰められる母親の姿を描く。働きながら子育てする母親の直面する問題点をこれでもかと詰め込み、知らず知らずのうちに子どもに与える影響を重層的に描いた。安田は2011年に児童虐待を真っ向から扱ったドラマ「やさしい花」(大阪放送局)〈関連〉も担当しており、今回は「ご当地ドラマ」の文法にのっとりながら、追い詰められる母親の心理をシリアスに、鮮やかに描いた。全ての登場人物が何かを欠落させた人物として描かれているので、展開は息をもつかせない。だからこそ、米子の人たちの「ダラズ」な境地がより輝きを放つ。黒川智花も好演。子役の小林星蘭も素晴らしい。私は初めて見たが、注目の子役なのだと友人に教えてもらった。

G0004347.jpg*黒川智花は、精神的に追い詰められるシングルマザーを熱演。

 待機児童問題や病児保育など、まさに都市住民が問題に直面しているテーマを、地方が先取りしている(看護師の託児施設は、モデルになった鳥取大学病院で実際に運用されている)先進性を示し、そして、地域に根ざす精神がそれを支えていることを描ききった、「ご当地ドラマ」の方向性を示す骨太な作品だ。

私は試写室で2回泣いたことを告白しておく。

*星蘭ちゃんが話すと、おやじ共はデレデレ。

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