地域の挑戦・国際交流で過疎を生き残る③――二本の腕
■SL列車に手を振ることから
ふだん、福用駅にはSL列車が止まらない。
だが、北五和(きたごか)自治会には「SL列車に手を振ろう」という運動がある。提唱者の鈴木嚝雄(ひろお)さんは、「SL列車のお客は遠くから来てくれる人。少しでもこの地域が好きになってほしい。それに、手を振るのはタダだし」と笑う。
大井川鐵道のSL列車に乗っていると、沿線の人たちがよく手を振ってくれることに気づく。理由を聞くと、鈴木さんと同じことを語る人が多い。
東日本大震災による放送中止で逆に脚光を浴び、「励まされた」と大好評だったJR九州新幹線全線開通のCMが示すように、列車の内と外で手を振り合う光景は、不思議と私たちの心に灯をともす。
■小さな集落が世界とつながったとき
今までの交流会は、市の施設や、駅の特設舞台などで行われてきた。このような集落の公民館で、自治会主催の会は初の試みだった。
「あんな小さな集落で交流会なんて大丈夫なのか」
などと、危惧する声もあったという。だが、しめくくりにみんなで福用駅まで歩き、通過する定期SL列車に手を振ったとき、国の違いを超えて、場は一体のものになっていた。
最後の行事である記念写真。ここでちょっとした驚きがあった。
そのときには気づかなかったが、東京に帰って撮影した写真をモニターに写し出したとき、私は北五和のみなさんの「こころ」を見た。
二本の腕が写っていた。
日本とスイス両国の国旗が、きれいに写真に写るように広げられているのだ。
誰か知らない、遠来の人に手を振ることと。相手の国旗と、自国の国旗を拡げること。それは、相手を尊敬し、自らの生き方にも誇りを持つことだ。
言葉の必要のない国際親善の姿がここにあった。北五和の人たちから、私は大きな学びを得た。