思わず一目惚れ!ブラジルの一押しネット企業はこれだ!
国内のあらゆる企業のクレームが集約されているデータベースがあったとしたら、
みなさん興味ありませんか?
今回は、僕がすっかり惚れ込んでしまった「ブラジルらしさ」のある、
魅力的なネット企業を1社、紹介させて頂きます。
一言で言うならば「クレームを介した企業と消費者のCRMプラットフォーム」とでも言うべき、
ブラジル市場に限らず、特に新興国系のビジネスに興味ある方にもぜひ知って頂きたい企業です。
■クレームは宝の山!
昔からよく言われている台詞、「クレームは宝の山」。
この台詞には賛否両論あるかと思いますが、少なくとも僕は「宝が眠っている山」であると思います。
マーケティングにおいて重要でかつ貴重な情報の1つかな、と。
というのも、リクルートの大先輩であるくらたまなぶさん(wiki参照)の教えからくるものですが、
僕が商品企画や事業開発でマーケティングをする時は、常に「不の付く言葉」を意識してきました。
ターゲットが抱えている不満、不便、不都合、不自由、不信、不快、不足、不合理...
まさにクレームの山の中にたくさん潜んでいる言葉ですね。
しかし、この「不を集める」という作業は案外難しいもので、
何度「世の中の不が集まるデータベース」があったらいいなと思ったことか...
でもなんと、ここブラジルには、僕の求めていたこの「クレームデータベース」があったのです。
■ブラジル中のクレームが集まるサイトがあった!
初めてこのサイトの存在を知った時は、純粋に驚きましたね。すごい!と。
一目惚れに近い感覚かもしれません。
日本には苦情の受付窓口として「国民生活センター」や「消費者生活センター」といった、
公的機関があるかと思いますが、それらと同じような機能を担う、
民間の一企業が手掛けるwebサイトです。
(もちろん日本同様の公的機関はブラジルにも別途ありますが)
少なくとも僕は日本で、この企業と同様のサービスを見た事はなく、もしかしたら、
これを読んでいる皆さんにも、理解しづらい部分があるかもしれません(社会背景も含めて)。
ですので、少々長くなってしまいますが、順を追って説明・紹介させて頂きますね。
まずは前提となる背景から。
▽前提:一次品質が保たれていないこともある、クレームの多いブラジル社会
おそらく、ブラジルに限らず新興国と呼ばれるような国々では似たような状況かと思いますが、
最低限保たれているべき「一次品質」が欠如していると感じる事が多々あります。
それに加えて、詐欺や事件・事故などのトラブルも多い国です。
そのため、購買活動の意思決定において「信頼性」が、極めて重要なキーワードになっている社会です。
商品の信頼性、サービスの信頼性、企業の信頼性...
消費者は常に「不安」と背中合わせの状態にあるわけです。
僕も日々生活をしていると、まぁ色々なトラブルが発生するんですよね。
「おい、ふざけんなよ!」と怒りたくなる事や、
「それはさすがにないでしょ...」と呆れてしまう事など、様々です。
(もちろん全てがそうというわけではありませんし、改善の方向に向かっているとは思いますが)
そんな環境下において、何か不満を感じる事が起こったときに、
「日本人は文句を言わずに二度と戻ってこない国民性」という話も聞いた事がありますが、
肝心のブラジル人はそのような事はなく、むしろ「不満があれば直接文句を言う」という国民性です。
ですので、必然的にクレームの数は増えるわけですが、
その一方で、企業側の「クレーム対応」は、ややずさんなところがあったようです。
つまり、クレームの放置、対応の遅延などが蔓延し、
修理・交換を頼んだものの、対応してもらうまでに長期間(数ヶ月間)待たなければいけない、
もしくは諦めて泣き寝入りするしかない、そんな「被害者」も少なからずいたようです。
▽サービスモデル:クレーム内容とその対応をオープンに
そんな一次品質の担保もままならなかったブラジルに、
新たなサイトが誕生したのが今から12年前の2000年。(実は結構前なんですよね)
「クレームを介した企業と消費者のCRMプラットフォーム」とでも言うべきサイトが生まれました。
このサイトこそが僕が今回ご紹介したい「ReclameAqui」というサイトです。
http://www.reclameaqui.com.br/
※カタカナ読みでは「ヘクラミアキー」と読みます
誤解を恐れずシンプルに言うならば「クレーム専用掲示板」のような場所でして、
「クレーム内容」と「それに対する企業の対応」を、包み隠さずオープンにするという場です。
このサイトの登場によって、これまでに起こってきた事は、下記のような流れのようです。
・消費者がクレームをこのサイト上に書き込む
↓
・電話と違いクレームが世間の目に触れてしまうので、企業側は評判を落とさないためにもすぐ対応する
↓
・結果的にそれは電話よりも早く、かつ良い対応となる(電話の場合うやむやにされてしまう事も)
↓
・電話するよりも良いと思った消費者が、ますますこのサイトに書き込むようになり、ユーザーが増える
↓
・ユーザーが増えれば増える程、より多くの消費者の目に触れる事になり、企業はよりきちんと対応する
↓
・よりきちんと対応してくれればしてくれる程、消費者はこのサイトを利用し、ユーザーが増える
↓
・・・・・
このようなサイクルが、グルグルと勢いよく回り出したようで、
今となっては、ブラジル人で知らない人はいないんじゃないかと思えるくらい、
圧倒的No.1のポジションを確立するところまで成長しました。
そして実際に、
「消費者センターに連絡しても4ヶ月間待たされるものが、このサイトなら3日で解決してくれる」
という話が、地元の最大手の新聞でも語られるようなところにまで到達しました。
▽提供価値:消費者保護に加えて、信頼性の格付け機関の役割を果たす
とはいえご察しの通り、企業側にしてみたら「厄介者」の存在なわけで、
創業メンバーは最初の頃、かなり苦労したようです。
企業側の人間から「何て事をしてくれるんだ!」と、半ば脅しに近い電話が頻繁に鳴り、
本気で殺されるんじゃないかと思った事が何度もある、と社長が言っていました。
実は創業の経緯は、社長自身がとある航空会社の対応に対して不満を抱き、クレームをつけたものの、
それでは腹の虫が収まらず、何か良い方法はないかと思いついたアイデアだそうです。
そんな経緯もあって、「企業に屈してはならない」、「消費者のために社会をより良くするんだ」という
強い信念を持ってこれまで耐え忍んできたそうです。
さすが、「不」の実体験に基づく意思は強いですね。さぞかし相当嫌な思いをしたのでしょう...笑
そんなプロセスも経つつ、この未成熟なブラジル市場において「消費者保護」を牽引している企業です。
実際に、その社会的なポジションは、もはや消費者生活センター等の公的機関を上回るほどで、
「このサイト上でクレーム数が多く、かつ対応の悪かった企業に対して、行政から営業停止命令が出る」
といったことも現実に起きています。
更に、このサイト上での「クレーム数」や「対応状況」をもとに、
各企業の信頼性を評価する「格付け」をしています。
「この会社は信頼できる」という称号から「この会社はオススメできない」という称号まで、
イラストで分かりやすく評価がされ、各企業毎のページに貼り付けられています。
※企業の信頼性を評価するシンボル
▽個別企業のページ(一例)
実際に、サイトの中身はどのようになっているのか、
一例として、個別企業のページを見てみると、このようなページになっています。
(試しにブラジルで急成長中の韓国企業の代表としてsamsungを取り上げてみました)
ポルトガル語なので細かい所は分からないかもしれませんが、いくつか抜粋しますと、
・消費者評価は4.01点で、Ruim(=悪い)という赤顔の評価を受けている
・クレーム投稿数は直近2〜3ヶ月で増えている(12月は約1,000件)
・対応はマメにきちんとしていて対応率100%
・対応までに要している平均時間は2日と9時間4分2秒
といった事などが書かれています。
もちろんこのページから1件1件のクレーム、
および、それに対する企業の返答コメントを見ることも出来ます。
▽サイトパワー:Alexaで100位以内に入る大手サイトの1つ
では、そのサイトパワーはどれくらい?というところですが、
Alexaのランキングでは、ブラジル国内で常時2桁台に入っています。(1/19時点では85位)
また、現状公開されている具体的な数字は下記のような値です。
--------------------------------------
・登録会員数:500万人
・登録企業数:3万社
・新規会員登録数:4,000人/日
・PV数:1,850万PV/月
・サイト訪問者数:600万訪問/月
・UU数:380万UU/月
・平均クレーム投稿数:7,000投稿/日
・平均コメント投稿数:1万3,000投稿/日
・平均クレーム検索数:50万回/日
--------------------------------------
これらを多いと見るか、少ないと見るか、人によって分かれるのかもしれませんが、
少なくとも僕は「クレームが集約されているサイト」に500万人が登録している、というのは、
とてつもなく「多い」のではないかと思います。
(扱うものがクレームなので、それ相応の個人情報の登録も必須なのにも関わらず、です)
そしてアクティブユーザーも約400万人いますしね。
また、興味深いのは、
「クレーム投稿数」もさることながら「クレーム検索数」も多いのが分かるかと思います。
(なんと毎日50万回検索されています)
要は、ブラジル人が何か購買行動をする際に「この企業は信頼できるか?」を調べているわけですね。
過去のクレーム状況を見て、その企業・商品が信頼出来そうかどうか判断をする、と。
この辺りの「購買に至るまでの行動プロセス」は、日本とブラジルでは異なります。
なお、推移を見るには下記Alexaのグラフを見て頂くのが分かりやすいかと思いますが、
今でも相変わらず右肩上がりに伸びている状況です。
2年間で約4倍、すごいですね...
※出典:Alexa
▽ビジネスモデル:現状は企業側からの収益のみ
肝心なマネタイズについてですが、現状の収益源は、
サイト経由で集められたクレームをデータベース化し、
・コンサル
・セミナー
・研修
といった形で、企業側からお金をもらっています。ユーザー課金はしていません。
(そういえば社長が「日本でもセミナーやりたいなー」と、この前ボソッと言ってました)
蛇足にはなりますが、このマネタイズの手法論は、まだまだ課題があると僕も感じており、
この会社の役員の方達とは個人的に仲良くさせてもらっていることもあって、
つい先日も、社長とご飯を食べながら、新しいマネタイズの手法論についてブレストをしました。
いくつか良さげな案も出ましたが、まだまだポテンシャルがある気はしてしまいます。
※もし「一緒にこんな事やろうよ!」というアイデアをお持ちの方がいらっしゃいましたら、
ぜひ砂塚までご連絡ください。接続します。
▽今後の展開:いよいよ第2フェーズへ
現時点までで、第1フェーズとしての「クレームが集まるための仕組みづくり」が完成しつつあり、
既に巨大なクレームデータベース(およびクレーム対応データベース)を所有しています。
ですのでここからが第2フェーズ。
この「クレームDB(およびクレーム対応DB)」や「企業の信頼性評価」を活かして、
ビジネスを拡張させていこうとしているところのようです。
社会全体としても「信頼性」や「品質」や「サービス」などへの意識が高まってきていますし、
今後の展開はとても興味深いものになるような気がしています。
(すいません、あまり詳細については、残念ながら僕からここでは言えませんが...)
■終わりに
いかがでしたでしょうか?
もしかすると、他の新興国にも似たサービスはあるのかもしれませんが、
僕個人としては、ブラジルらしく、かつ社会的意義も高く、そしてポテンシャルも大きそうで、
とても興味深く感じているサービスなのですが、日本の皆様からはどう見えますでしょうか?
僕も「惚れ込んでしまった」とまで言っている手前、
日本の皆様にも「いいね!」と思ってもらえると嬉しいです。
(そしてその流れで「いいね!」や「シェア」も頂けるとなお嬉しいです...笑)
ちなみにこの会社、現在事業拡大中で新規事業もいくつか仕掛け始めているため、
資金ニーズもあったりなかったり...というような事も、最後にちょこっとほのめかしておきます。
その他、質問・疑問・相談や、この会社とコンタクトを取りたい方などいらっしゃれば、
砂塚までご連絡頂けたらと思います。可能な範囲で対応させて頂きます。
では、また。
Até mais!
※ReclameAqui社長のMauricioとサンパウロのピザ屋にて
▼砂塚裕之