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スマート革命とワークスタイル、他社に波及する米国ヤフーCEOの在宅勤務禁止令の荒療治は効果的か?

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<序文>

 米国ヤフーの注目の女性CEOであるマリッサ・メイヤー氏が在宅勤務禁止令を打ち出し、米国中で大変な物議を醸しています。メイヤー氏は、グーグルの立ち上げ初期の社員の一人であり、2008年には経営紙フォーチュンが「50 Most Powerful Women」(最もパワフルな女性50人)に選ぶなど、美貌と一児の母で知られる米国注目のCEOです。

 

そのメイヤー氏がヤフー社員の在宅勤務禁止令を出した為、「あまりに保守的だ!!」とか「プロシューマー時代への逆行」とか「男女共同参画社会への逆行」、「社員は甘やかされ過ぎだった」などワークスタイルに注目する各界の賛否を浴びています。

 

 

しかしグーグルで新しいワークスタイルを身につけているメイヤー氏が、そんなに単純な理由で在宅勤務禁止令を出すとは考えられません。

 

彼女の意図は一体、どこにあるのでしょうか?ワイアード紙などを参考に考えてみましょう。果たして効果を上げるのでしょうか?

 

またメイヤー氏の決定はショールーミングの影響でアマゾンなどとの競争に押され気味の家電量販店のベストバイにも影響を与え、ベストバイも本社で実施されているテレコミューティング=柔軟なワークプログラムを中止すると発表しました。

 

果たしてヤフーもベストバイも「テレコミューティングが会社が傾いた原因」なのか?大学の先生が疑問を投げかけるなど、米国ではますます騒ぎが広がっています。

★★ヤフーの「在宅勤務禁止令」、本当の狙いは何か

 

★★Marissa Mayer’s No-Working-From-Home Rule Is Stupid — Or It Could Save Yahoo

 

★★マクレガーのX理論Y理論 Mcgregor's motivational theory X theory Y

 

★★Best Buy also moves to end telecommuting

在宅勤務禁止令を打ち出したヤフーのメイヤーCEO

Marissa_mayer_at_techcrunch_2012_ii

<出所:wiki>

ヤフーの決定を受けてベストバイも在宅勤務を禁止!!

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  <出所:マザーネーチャーネットワーク>

 

 

<社員は怠け者か、否自主的に働くのか、ワークスタイル理論の基本>

 まず経営学の基礎理論であるX理論とY理論(マグレガーが提唱)を復習しましょう。

 

 社員は怠け者だから「決まった時間には一定の場所」に縛り付けないと働かないと言うのが有名なX理論です。これは工業社会の工場において働く規律型人材の育成に非常に貢献しました。メデイア論によればアナログ時代のテレビのような決まった時間に決まった番組を決まった場所で見る習慣もX理論=規律型人材の育成に貢献したと言われています。アブラハム・マズローの欲求階層説では、生存の欲求や安全の欲求など低次元欲求を持つ段階の人々には効果的とされています。

 

一方社員の自主性や自律性を重視し、社員の創造性を最大限に活用すべきだと言うのがY理論です。これは仲間に受け入れられたい(親和欲求)やプライドを持って仕事をしたい(自尊の欲求)更に自己実現や自己表現などを重視する段階の人々に効果的と言われています。

 

資本主義が高度に発達した成熟経済においては、Y理論が効果的と言うのがマクレガーやフィリップ・コトラーなどの主張です。これによれば、人は動機づけがしっかりしていれば、時間や場所に関わりなく成果を上げると言う見方が成り立ち、21世紀には在宅勤務や裁量労働制度の普及へと繋がっています。

 

日本の女子柔道選手15名の監督体罰の直訴事件においては監督と柔道連盟は「X理論」を支持し、女子柔道選手は「Y理論」を訴えました。一方高度成長期にあったかつての日本メーカーの多くは規律型人材育成に有効な「X理論」と改善運動に有効な「Y理論」を上手く組み併せて世界一の高品質製品を開発しました。

 

しかし今回のメイヤー氏の在宅勤務禁止令は、Y理論の否定に映ります。

 

<メイヤー氏の狙いは何か?>

 ワイアード紙はメイヤー氏の在宅勤務禁止令の狙いを以下の二点で説明しています。

 

1、 社員の選別とリストラの断行

X理論、Y理論共に人の行動を上手く説明しています。X理論は「人は怠け者だから鞭(ムチ=体罰)が必要」、一方Y理論は「人は動機つけが重要、自主性を持っている」とされています。判り易く申し上げれば人には二面性がある訳ですね。そこでメイヤー氏は在宅勤務禁止令により社員のエンゲージメント(忠誠心)を判断し、怠け者をリストラする意図を持っているのではないかと言う見方が浮上します。これは説得力がありますね。

 

2繭(まゆ)の閉じこもり文化の導入

 元来メイヤー氏が働いてきたグーグルの文化は「まゆに閉じこもる文化」と言う見方が有ります。社員への「無料の食事」や「無料の洗濯、靴の修理」など食事やサービスが無料で提供されます。そこにおいては様々な社員の偶然の出会いによって創造性が発揮されて来ました。この文化は組織の壁さえ取っ払う事が出来れば、対面での偶然の出会いにより創造性に火が付きます。知識創造企業を提唱する野中郁次郎博士はナレッジマネジメントにおいて対面での偶然の出会いを「クリエイテイブカオス」と称しました。

 

メイヤー氏は「まゆに閉じこもる文化」のもたらす創造性に期待していると言う見方も成り立ちます。

 

「まゆに閉じこもる文化」は高度成長期の日本企業においても上手く働いた時期が有ります。例えば東芝の工場の塀の中には社員のコミュニティが存在しました。オフィスや寮があり、ショッピングセンターや果ては床屋までありました。

 

 他方その悪い面は昨今指摘されている有名大手アパレルメーカーの離職率の高さなどがあります。朝から晩まで店舗で働き詰めの為、5割の社員が3年内にやめると言う指摘です。

 

★★「離職率3年で5割、5年で8割超」の人材排出企業

 <テレコミューティングは会社が傾いた原因か?>

 ヤフーとベストバイの動きを見てミネソタ大のエリン・ケリー先生は疑問を投げかけています。もしテレコミューティングは会社が傾いた原因ならば、テレコミューティングを社員に推奨しているシスコなどは何故傾かないんだ?

 

こうして米国では面白いワークスタイル議論が始まっています。

 

<社員の動機つけを壊すのか高めるのか?>

 メイヤー氏の荒療治は、少なくとも社員に対する大きな警告になった点は間違いありません。その結果、米国ヤフーやベストバイが復活するか、このまま沈むのか暫く見守るしかないと思われます。

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