【マーケ上手な企業になる その4】 正しいマーケティング戦略のつくり方
営業計画や経営計画はしっかり立てるのに「マーケティング計画」をつくらない企業が意外なほど多い。営業=モノ・サービスを売ること。経営=組織を運営すること。それらを陰になり日向になりコントロールするのがマーケティングの役割なのだから、その計画をおざなりにしていいはずがない。
例えば、雑貨を扱うこんなチェーン企業があった。
センスのいいWeb広告を打ち、SNSに知恵を絞って大いに集客に成功した。ところが店へ行くと店員の接客はおぼつかなく、レジ待ちは長いわ愛想が悪いわで、結局売上げは思ったほど伸びなかった。
さらには、消費者が家へ帰って袋のなかを確認したところオーダーと異なる商品が入っていた。企業に電話を入れたのだがちっともつながらず、ようやくつながったと思ったら謝罪はなく、セール品のため交換は受け付けないという身勝手なことを言いだす始末。あまりの対応の悪さに消費者は不満をネットにぶちまけた。
不運なことに、成功を収めたはずの広告やSNSが命取りとなり企業の悪評を広める結果に――。
「広告」もマーケティングなら「接客」もマーケティング。レジ待ちを減らす「店舗デザイン」もマーケティングであれば、消費者のクレームに対応する「相談窓口」もまたマーケティング。あらゆる部分にマーケティングは隠れており、そしてマーケ上手な企業ほど「接客」だったり「相談窓口」だったり、見えない部分のマーケティングや細部のマーケティングまで行き届いている。
その理由こそ、マーケティング計画をつくっているからにほかならない。
「マーケティング戦略って何ですか?」
という質問をよく耳にするが、簡単にいえばマーケティングの計画だ。そして〝計画〟と呼ぶからには営業計画や経営計画と同じように、少なくとも1年間で遂行すべきことが綿密に計算されており、もちろんそれにかかる予算、手法、人材なども整える必要がある。
最初は小さくつくり、それを大きく広げていくのがマーケティング戦略をつくるポイントだ。
秘訣7 正しく問題を発見する
マーケティングとは〝薬〟みたいもの――。企業の症状に合わせて最適な戦術を〝処方〟するのが基本的な役割である。頭が痛いと訴える患者に胃薬を飲ませても効果が出ないように、まずは正しく問題を見抜くことから始まる。
「会長からの命令で売上を1.2倍に伸ばさなくてはならず、とりあえず広告を打とうと思うのですが、何かいいアイデアはないでしょうか......」
マーケティング=広告と思い込んでいるらしく、ありがちな相談だが、肝心なのは売上が伸び悩んでいる原因だ。それがどこにあるかによって当然ながら手法は異なる。
ものすごくシンプルに説明すると、一般的に売上は次のような図式で成り立つ。
「売上=客数×客単価」
つまり100万円=100人×1万円。
便宜上、客数も客単価も変わらないと仮定すると、売上を1.2倍にする手法は2つある。
1)「客数を増やす」 120万円=120人×1万円
2)「客単価アップ」 120万円=100人×1.2万円
1)を達成するマーケティング戦術としては、手っ取り早く集客を上げるなら「広告」、そもそも知名度がないなら「PR」、大々的なセールを打つという「販促」、ターゲット層を広げる「店頭イベント」などが考えられる。
一方2)の客単価アップとするなら、セット商品をつくり高価格帯に誘導する「商品政策」、売り筋商品をWebサイトで徹底する「キャンペーン」などがあるだろう。また、こうした〝攻めの戦術〟だけでなく、そもそも販売機会のロスが伸び悩みの根幹にあるなら「接客強化」という〝守りの戦術〟も必要になってくるだろう。
集客が目的なのに「商品政策」に取り組んでも効果は生まれないし、低い客単価が問題なのに「セール」を打てばかえって逆効果、ますます症状が悪化するのは言うまでもないだろう。
問題はどこにあり、何をすれば効果的なのか――。
マーケティング戦略の基本は、正しく問題を見つけ、正しい対策を立てることにある。
秘訣8 戦術を効果的に組み合わせる
とはいいつつ、企業が抱える問題は複数にまたがり、また一気に取り組めないのが普通だろう。そこで予算、人材、期限といった諸条件、さらには優先順位やビジネス環境を勘案しながらマーケティング戦術を組み合わせていくことになる。
これが、いわゆるマーケティング戦略である。
上記の〝売上1.2倍のミッション〟を例に挙げるなら、「広告」で世間的な関心を集めつつ、その一方「店頭イベント」を重ねて地道に客数を伸ばし、長期的には「接客強化」によって販売力を底上げし、同時に目新しい商品の発売という「商品政策」も進めていく――。
スケジュールで見れば1カ月後に「店頭イベント」、3カ月先に「広告」、半年先に「PR」、1年後に「商品政策」みたいな感じで、それとは別に「接客強化」を通年で取り組むことになるだろう。
ただし、上記はあくまで理想。現実には予算や人材の制約があるため全ての戦術を実践するのは不可能だろう。何を捨て、どこで節約し、何を諦め、何を先延ばしにすべきか――。これらの戦術を多方面から検討し、上手に組み合わせることこそマーケティング戦略のポイントになる。
さらにいえば、自社で不可能なマーケティングは外注する必要があるわけだが、リサーチ会社にせよ広告会社にせよ無数にある中から良心的な企業を見抜く「洞察力」も欠かせない。というのもマーケティングに関わる企業は〝当たりはずれ〟が大きく、外注したのに症状が悪化するケースも珍しくないからだ。
マーケティング戦略はパズルに似ている
売上をアップさせたい――。どの企業も願うことだが、どこに問題があるかによって対策や手法はまったく異なり、反対に言えば、ちょっと戦術を変更するだけでマーケティングが上手く回り始めるばかりか、費用を大幅に節約できるケースも多々ある。
先ほど、売上を1.2倍にするには「客数を増やす」「客単価アップ」という2つの方法を紹介したが、じつは3)「新たな事業を立てる」という発想もあり、これもまたマーケティング戦術の工夫により可能となる。
いつも思うのは、企業のマーケティング戦略をつくる作業、あるいは立て直す作業はどこかパズルに似ている。いろんな発見があり、考えれば考えるほど選択肢が広がり、アイデアが生まれる、じつに面白い経済活動なのだ。
なるべく多くの薬(=アイデア)を持ち、そこから企業の症状や予算に合わせて最適な処方(=マーケティング戦術)を提案し、なおかつその効果やメリット、場合によってはしっかり副作用まで説明できるのが優れたマーケッターであり、正しいマーケティング戦略のつくり方でもある。
マーケティングの専門家とは、まさしく医者である。
(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)
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