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【書評】『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実』

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覚えておられる方も多いと思いますが、2010年に米国の外交公電がウィキリークスに流出するという事件が起きました。当時米軍の情報分析官を務めていたブラッドリー・マニング(その後性転換発言を行い、チェルシー・マニングと名乗るように)上等兵が、公電のデータをCDに焼いて流出させ、それを入手したジュリアン・アサンジが自身のサイトであるウィキリーク上で公開するという事件でしたね。当初アサンジは、手に入れた膨大なデータを処理しきれず、世界の著名紙(ガーディアン・ニューヨークタイムズ・シュピーゲル・ルモンド・エルパイスの5紙)に情報を渡して裏付け作業を依頼しています。その経緯と顛末を英ガーディアン紙の関係者がまとめたのが『ウィキリークス アサンジの戦争』という本でした:

【書評】『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』(シロクマ日報)

あれから4年。今度は米NSA(国家安全保障局)の職員だったエドワード・スノーデンが、NSAが米国を含む世界規模でのインターネット傍受を行っていたことを暴露、大騒動に発展しているのもご存知の通り。そしてこの事件でも、ガーディアン紙が情報公開の仮定に大きく関与しており、その顛末をまとめた本を出版しています。それが『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実』です。

スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実 スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実
ルーク・ハーディング Luke Harding 三木俊哉

日経BP社 2014-05-16
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いったいこの事件の衝撃がどの程度のものなのか。本書の表現を引用してみましょう:

 スノーデンの接触を受けた米国のフリージャーナリストは、いまや、機密情報の宝の山を手にしていた。ロンドンの『ガーディアン』が2010年に報じたウィキリークス事件は、米外交公電、アフガニスタンやイラクの軍事資料をチェルシー・マニング上等兵が漏洩したものだ。そのうち比較的低いレベルの機密指定を受けていた情報でも、わずか6%にすぎなかった。

 ところがスノーデンファイルは次元が違っていた。ほとんどが「トップシークレット」かそれ以上。かつて、ケンブリッジ大学で教育を受けたバージェス、マクリーン、フィルビーらのスパイがソ連に亡命するというメロドラマじみた事件があった。だが、これほど大規模な文書漏洩はいまだに例がない。

すなわちウィキリークス事件をはるかに上回るレベルでの情報漏洩だったわけですね。中でも衝撃的だったのは、NSAが非常に広範囲な形でネットを監視し、個人情報を収集していたという点。「ネットを巨大な監視マシンに仕立て上げた」という表現が決して誇張ではないほど、大胆不敵な情報収集が行われていたことが明らかになります。スノーデンはこうした状況に憤りを感じ、彼なりの正義に従って行動したのでした。だからこそ、個人的なメリットや猜疑心、復讐心から行われた過去の流出事件よりも、大規模な漏洩となったのでしょう。本書で描かれるスノーデンの姿からは、ある意味で落ちつきというか、覚悟のようなものが感じられます。

そんなスノーデンの行動を軸に、米国の政府関係者がどのような動きを見せるのか、そしてスノーデンが頼った報道関係者がどう対応するのかが本書のストーリーになります。そこからは様々なテーマが読み取れると思いますが、個人的にはやはり、メディアというものが果たす役割について考えさせられました。

前述のウィキリークス事件でも、大手新聞社は非常に重要な役割を果たします。大量のデータを精査し、本当の意味で出してはならない情報(情報提供者の実名が掲載されているものなど)と世間に知らしめるべき情報をふるいに分け、読者に分かりやすい形で提示するわけですね。スノーデン事件でも、ガーディアン紙を始めとした関係者が同様の行動を行っていたことが描かれます。さらに情報公開を阻止しようとする米英政府関係者(実際にガーディアン紙はデータが保管されていたPCの破壊を余儀なくされます)に対して、真っ向から対決していく場面は、結末を知りつつもハラハラさせられるものでした。

ではなぜガーディアン紙だったのか。スノーデンの思いも含め、様々な理由が挙げられているのですが、こんな指摘も行われています:

 この会議では、英米の新聞社のカルチャーの違いが鮮明になった。米国の場合、三大紙がほぼ市場を独占している。競争がほとんどないため、のんびりと紳士的な態度で事を進めてもいっこうにかまわない。政治的なカルチャーも違う。米国のマスコミはふつう大統領に礼儀正しい。オバマに厳しい質問や厄介な質問をすれば、それ自体がニュースになる。

 一方、英国の新聞はようすががらりと異なる。ロンドンでは12の全国紙が生き残りをかけた消耗戦を展開していた。紙媒体の新聞の発行部数が減少したため、競争はますます激化。スクープがあれば公表する。しなければ、ほかのどこかが公表する。食うか食われるかの世界である。

もちろんジャーナリストの挟持というか、信念を持って行動することが大スクープにつながるということもあると思います。しかしこうした競争状態や、文化的な環境というものが、政府に対する批判的な報道を行う場合に重要になってくるのでしょう。もちろん大手メディアだけでなく、ブログなどのオルタナティブ・メディア(ちなみに報道機関側のキーパーソンの一人となったグレン・グリーンウォルドは、フリーの政治評論家でネット上でも影響力の高い情報発信を行っている人物)も含め、どのようなメディア環境が実現されているのかが第2・第3のエドワード・スノーデンを生めるかどうかに関わってくると思います。

逆に言えば、新たなエドワード・スノーデンが公益性の高い情報を暴露しようとしたときに、メディアはどのような構図で救いの手を差し伸べられるのか。例えば日本で同じ事件が起きたときに、メディアは報道を続けることができるのか。NSAの行っていた行動に不安を感じる一方で、間違いを正すメカニズムを構築できるのかという点でも、多くのことを考えさせられる一冊でした。

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