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3Dプリンターで宇宙をつくる

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昨年の話になりますが、ヤフーが行った「さわれる検索」プロジェクトが話題になりました。検索キーワードを入れると、その結果を3Dプリンターで立体物として出力し、文字通り「触って」確認することができるというもの。視覚に障害を持つ方々などが活用することを想定していて、実際に筑波大学附属視覚特別支援学校にコンセプトマシンをテスト導入し、児童たちに使ってもらったことが報じられています:

小学生は3Dプリンタで何を作るか――ヤフー「さわれる検索」の結果を報告(ITmedia)

 3Dデータはヤフーがプリセットしたものに加え、企業や個人からも募集。児童の「さわりたい」という声に応じて追加した「ト音記号」「神社の鳥居」などを含む57個のデータが国内外から提供され、最終的には242種類の3Dデータが登録されたという。

 同校の星祐子副校長は「児童にとって、危険なので実際には触れない動物や、教科書には載っているが形を知らなかったものなどを触って理解できる喜びは大きかったようだ。『トビウオと飛行機って形が似てるね』『ニュースで聞いた竜巻ってこんな形なんだ』など、触ることで新しい発見をしながら世界が広がったと思う」と話す。

非常に興味深いプロジェクトなのですが、これと似た取り組みが、米国の宇宙望遠鏡科学研究所Space Telescope Science Institute)で行われているそうです:

Hubble Images Become Tactile 3-D Experience for the Blind (HubbleSite)

同研究所はハッブル宇宙望遠鏡の運用を行う組織とのことで、このハッブル望遠鏡を通じて得られた宇宙の写真を3Dプリンターで出力、視覚障害の方々に「触って」体験してもらおうという取り組みが紹介されています。

Three-dimensional printers are transforming the business, medical, and consumer landscape by creating a vast variety of objects, including airplane parts, football cleats, lamps, jewelry, and even artificial human bones.

Now astronomers at the Space Telescope Science Institute in Baltimore, Md., are experimenting with the innovative technology to transform astronomy education by turning images from NASA's Hubble Space Telescope into tactile 3-D pictures for people who cannot explore celestial wonders by sight. The 3-D print design is also useful and intriguing for sighted people who have different learning styles. In the 3-D representations, stars, filaments, gas, and dust shown in Hubble images of the bright star cluster NGC 602 have been transformed through 3-D printing into textures, appearing as raised open circles, lines, and dots in the 3-D printout. These features also have different heights to correspond with their brightness.

航空機の部品やサッカーシューズ用のスパイク、ランプ、宝飾品、さらには人工骨に至るまで、多種多様なものを3Dプリンターによって製造することが可能になりました。それにより、ビジネスや医療、消費の世界は大きく変わろうとしています。

いま宇宙望遠鏡科学研究所では、天文学者たちがこの技術を使い、天文学教育のあり方を変えることに取り組んでいます。天体の世界を目で体験することができない方々のために、NASAのハッブル宇宙望遠鏡から得られた宇宙の画像を、触ることのできる立体物へと変えようとしているのです。3Dプリンターによる立体物の形で表現することは、一般の方々にとっても新しい学習の機会となり、素晴らしい体験を提供するでしょう。今回3D化されたのはNGC602星団の画像で、星やフィラメント、ガス、ちりといった構成物を、表面の凹凸や線、点などで表現しています。またその高さによって、構成物の明るさも表現されています。

hs-2014-03-a-web_print

上が実際の画像ですが、ちょうど3Dプリンターで出力しているシーンが収められた映像もあったので、埋め込んでおきましょう:

確かにこうした立体の形で表現することは、視覚障害の方々だけでなく、一般の人々にとっても宇宙の理解を深める良い機会となるでしょう。とはいえ画像でしか確認できないものの三次元構造を理解し、立体化するというのは簡単な話ではなく、科学者の間でも様々な試行錯誤があったとのこと。今回のNGC602星団の立体化は、まだまだ初歩的な取り組みであり、今後も研究を続けていくそうです。もしかしたら三次元構造を考えるという作業自体も、天文学の発展に何らかの形で貢献するかもしれませんね。

嬉しいことに、このような「立体で知識を伝える」という取り組みが、いま各所で始まっています。最近の例だけでもこんな感じ:

3Dプリンター:触れる国宝「縄文の女神」 実物大で展示(毎日新聞)

「縄文の女神」の愛称で親しまれている国宝「西ノ前土偶」を、3Dプリンター技術で復元した実物大モデル(約45センチ)の展示が17日、山形県立博物館で始まった。高梨博実館長は「今後は、実際に触れる国宝として、県内外に普及させていきたい。目の不自由な方にも縄文の女神を楽しんでもらいたい」と多くの来場を呼び掛けた。

Autodesk、スミソニアン博物館の所蔵物を3D化 - 3Dプリンタで出力も可能(マイナビニュース)

米Autodeskは、ワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館が所有する資料を3Dで閲覧できるWebブラウザツール「Smithsonian x3D Explorer」を開発し、公開したと発表した。現在は同ツールを利用してケナガマンモスやリンカーンの顔など21の所蔵物を閲覧できる。

(中略)

なお、スミソニアン デジタイゼーション プログラム オフィス責任者のGunter Waibel氏は、同ツールを利用することで「これまで博物館に実際に来ることができなかった人たちと所蔵物を共有できる」とコメントし、今後さまざまな人が同サービスを活用し「新たな研究が生まれることを期待したい」と続けている。

福岡市博物館、3Dプリンタで出力した黒田官兵衛の甲冑フィギュアを発売(マイナビニュース)

福岡市博物館は1月15日、2014年の大河ドラマ「軍師官兵衛」の主人公である「黒田官兵衛」の3Dフィギュアを発売した。

福岡市博物館は旧福岡藩主・黒田家が残した実物資料を展示している。今回のプロジェクトでは、甲冑を三次元計測(3Dスキャニング)を行い3D CGデータ作成し、3Dプリンタで実物の16分の1のサイズで出力した。

最後の例はフィギュア販売という目的ではあるのですが、単なる娯楽で終わるのではなく、甲冑の構造やデザインに対する理解を深める上でも有効でしょう。こうして新たな形での情報共有が実現されることで、スミソニアンの関係者が語っているように、「新たな研究が生まれる」ことも期待できるのではないでしょうか。

実際、情報をオープンにして多くの人々と共有することで、新たな発見が生まれた例はいくらでも挙げることができます。例えばGoogle Earthで公開されている衛星画像から、未発見の遺跡が確認されたという話がいくつかありましたね:

遺跡発見もオンラインでできる時代に? 考古学者がGoogle Earthで未知のピラミッドを見つけたらしい。(GIZMODO)

アメリカ、ノースカロライナ州に住む衛星考古学者(satellite archaeology researcher)のアンジェラ・ミコル(Angela Micol)が、Google Earthの衛星画像からピラミッドの遺跡と思われるものを発見したそうです。彼女が見つけたのは2地点で、それぞれは90マイル(145km)程度離れています。

(中略)

Google Earth上で見つけたなんて、どの程度信憑性があるものやら、と思う方もいるかもしれません。ただ今回の場合はエジプト学者でピラミッドの専門家であるナビル・セリム(Nabil Selim)も、これは遺跡の可能性が高いだろうと太鼓判を押しています。実は、衛星写真から遺跡発見が行われたのはコレが初めてのことではありません。エジプト学者で、アラバマ大学バーミングハム校の教授、サラ・パーカック(Sarah Parcak)は昨年、17のピラミッド、3100の集落、1000以上の墓の痕跡を発見したと言っています。

三次元で情報を提供することで、今まで以上にリッチな情報が、より多くの人々に伝わることになります。その結果、より多くの頭脳が研究に参加することになり、まったく新しい分析の視点がもたらされる可能性も高くなるでしょう。歴史的に見ても、ある分野の専門家ではなく、まったくの門外漢が大発見をもたらしたという例は少なくありません。3Dプリンター/3Dデータによる知識の拡散は、単に障害を持つ人々のためというだけでなく(もちろんそれも重要な目的ですが)、より大きな意味を持つ行為になってくるのではないでしょうか。

とはいえそんな大きな話をする以前に、僕自身「さわれる検索」を体験したら、恐らく「ニュースで聞いた竜巻ってこんな形なんだ!」と驚くことになると思います。ニュースのたびにいちいち3D出力していたらきりがありませんが、科学ニュースやドキュメンタリー番組などで、「本日取り上げた○○をより深く知るために、公式サイト上で3Dデータを公開しています」というサービスが行われるような時代になったら楽しいかもしれません。

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