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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

音楽検索アプリとネオナチ対策

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"Shazam"というスマートフォンアプリがあります。街角で流れている曲を聴いて「この曲なんだろうな」と思ったとき、その曲をマイクで拾うだけで、音から検索をして曲名を教えてくれるというもの。似たような音楽検索/音声認識アプリは他にもあり、同じ技術を使って、テレビの音声を拾うだけで見ている番組を識別してくれるアプリなども登場しています。

で、その音楽検索アプリと同じ技術を使い、ネオナチ対策に役立てるという取り組みをドイツ警察が検討中なのだとか:

'Nazi Shazam': Police Devise App to Curb Far-Right Music (Spiegel Online)

なぜShazamとネオナチ対策が結びつくのか。実はネオナチのような極右グループの思想を歌い上げるロックがあり(昨年だけで79曲がネオナチ思想を含んでいるとして有害指定されたとのこと)、彼らの集会でよく流されているのだとか。時にはそういったロックを誘因として、若者たちをグループに引き込むという活動が行われているそうです。そこでそういった「ネオナチ・ロック」を自動識別できるアプリを作り、捜査員に持たせれば、隠れたネオナチ活動をより摘発しやすくなると。

実際にプロトタイプが独東部のザクセン州で開発済みで、捜査の迅速化と省力化に役立っているとのこと。これを受けて、16の連邦州の内務大臣が集まり、同じ取り組みをドイツ全土に広げていこうとしているそうです。ただ当然ながらこういった監視が望ましいのか、あるいは法律的な問題はないのかといった懸念があり、実際の捜査方法として定着するかどうかは分からない、と締めくくられています。

しかし機械を使わなくても、耳で聞くだけで過激な内容かどうか分かりそうなものですが、「どこからか聞こえてくるかすかな音を拾う」といったことができるのであれば便利なのかもしれません。また識別能力を自動化して、アプリとして展開可能になるということは、音楽が流れている瞬間に捜査員が現場にいなくても良いということになります。例えば市民の協力を呼びかけて、彼らのスマートフォンにこのアプリを導入してもらい、いろいろなところに出かけてもらう――そして通報は自動的に行われるようにする、といった運用が可能かもしれません。何らかの逮捕につながる(自動)通報をしたユーザーには、ささやかな賞金が支払われたりして。そうなるとまさに相互監視社会といったところで、かなりイヤな状況ではあるのですが。

実は似た取り組みが既にアメリカで行われていることを、アトランティック誌のAlexis Madrigal記者が伝えています。それによると、オークランド州を始めとしたいくつかの州で"ShotSpotter"というシステムが導入されているとのこと。これは「発砲を(Shot)認識する(Spotter)」という名前の通り、マイクで銃声を拾ってそこから様々な情報を引き出すというもので、「何回発砲があったか」「どのような銃器が使われたか」といったデータを取れるそうです(もちろんマイクが設置されている場所の位置情報も)。音から周囲で何が行われているのかを認識し、それを犯罪対策や治安維持に役立てるという発想は、以外に応用範囲が広いのかもしれません。

ただ繰り返しになりますが、アプリという形で自動化が行われた瞬間に、行き過ぎた監視や統制が行われるリスクは一気に高まります。「監視されているかもしれない」という疑心暗鬼が社会に広がるリスクも無視できないでしょう。様々な「監視アプリ」や認識技術をどう社会に組み込んでいくのか、いまから議論が必要ではないでしょうか。

私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について リキッド・サーベイランスをめぐる7章 私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について リキッド・サーベイランスをめぐる7章
ジグムント・バウマン デイヴィッド・ライアン 伊藤茂

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