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バレンタインデーにデジタル化時代の出会いを考える2冊:”Data, A Love Story”+“Love in the Time of Algorithms”

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あらゆる情報がデジタル化され、簡単に共有されるようになった現在。新しいモノや人々と知り合う形も、ずいぶんと様変わりしました。アマゾンにお勧めされた本をつい買ってしまう、フェイスブックで友人が紹介していたアーティストを好きになる、ツイッターのトレンドで話題のドラマを知る――などなど、5年とは言わなくても10年前ならば想像もしていなかったような「出会い」の姿が登場しています。では人生の中で究極の出会いとも言える、「恋人や配偶者と知り合う」という世界では、いまどのような状況が生まれているのか。ちょうど同じタイミングで出版された"Data, A Love Story: How I Gamed Online Dating to Meet My Match"と"Love in the Time of Algorithms: What Technology Does to Meeting and Mating"は、そんなテーマを扱った2冊です。

Data, A Love Story: How I Gamed Online Dating to Meet My Match Data, A Love Story: How I Gamed Online Dating to Meet My Match
Amy Webb

Dutton Adult 2013-01-31
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まずはAmy Webbさんの"Data, A Love Story"。こちらは「出会いサイト体験記」と呼べるような一冊で、恋人と別れて傷心のAmyさん(元ジャーナリストで、日本に滞在した経験もあることが本書で触れられています)が、家族や友人の勧めでMatch.comやJDateといった出会いサイト(※日本語では「出会い系サイト」にネガティブなニュアンスが含まれてしまっていますが、ここではもちろん「真面目な」出会いを紹介するためのサイトを意味しています)に登録し、理想の男性を探す――という内容。これだけだと単なるデート日記になってしまうのですが(実際にそれに近い部分も含まれています)、著者が持ち前のジャーナリスト精神を発揮して、出会いサイトの状況を徹底的に把握して必勝法を生み出してゆく様子が描かれています。

例えばサイトに登録したばかりの頃、メッセージを送ってくれた男性たちと実際にデートしてみたAmyさんは、「自分がパートナーにどんな性質を求めているのか」「それをどこでチェックすれば良いのか」をハッキリさせないと、おかしな相手ばかりに引っかかってしまうことに気づきます。確かに現代の出会いサイトは、様々なアルゴリズムを駆使して、登録されたデータから自分に合った相手を紹介してくれるかもしれない。しかし元となるデータを登録するユーザーの側がしっかりしていないと、どんなアルゴリズムも無駄になってしまう――そう気づいたAmyさんは、男性をチェックするためのマトリクスを設計し、特定のラインをクリアした相手とだけ交流することを決意します。さらに入念なリサーチを行った上で、自分自身のプロフィールを完璧に仕上げるという努力も。この辺りは「出会いサイト体験記」を読んでいるというよりも、まるでプロジェクト運営のケーススタディを読んでいるかのような感覚を覚えました。

実際、自分自身を商品、交際する候補者を顧客だと考えれば、Amyさんが行った徹底的な分析も何らおかしなものではないでしょう(ただしこの「商品」はたったひとりの顧客にしか売ることができず、それゆえに相手が最良の顧客か否かをチェックする必要があるわけですが)。クリックひとつで競争相手のページへと移動されてしまう、あるいは適切なデータを用意しておかなければフィルタリングされて検討すらしてもらえないという時代において、自分の売り物をどう売り込んでゆくのか。大げさに聞こえるかもしれませんが、本書は「出会いサイト」という特殊なケースを通じて、そんな一般的なアドバイスも感じ取ることができる一冊のように思えました(もちろんAmyさんは良い伴侶に巡り合えるのか!?という物語としても楽しめますよ)。

Love in the Time of Algorithms: What Technology Does to Meeting and Mating Love in the Time of Algorithms: What Technology Does to Meeting and Mating
Dan Slater

Current Hardcover 2013-01-24
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そしてこちらが、Dan Slaterさんの"Love in the Time of Algorithms"。Amyさんの本が出会いサイトを「内側から」レポートしたものだとすれば、本書は出会いサイトそのものと、それをめぐる状況を「外側から」レポートした一冊となります。実はDanさんのご両親は、1960年代版の出会いサイトとも言える「コンピュータ支援型マッチングサービス」(プロフィールと質問票を提出すると、コンピュータを使って相性の良い人を紹介してくれるというサービス)を通じて出会い、結婚するまでに至ったのだとか。そんなところから出会いサイトに興味を持ったDanさんは、巨大な産業へと成長した出会いサイトの現状と、その影響について調査してゆきます。

実は米国内に住む独身の男女9000万人のうち、3分の1にあたる3000万人が何らかの出会いサイトに登録しているのだとか。その中にはMatch.comのような大手サイトから、JDateのようなニッチサイト(実は同サイトはユダヤ系の人々を対象にしたサービスとなります)、あるいは日本で言う「出会い系サイト」に相当するアダルトサイトに近いものまでが含まれます。中には旧東欧圏や中南米といった、貧しい国々の女性を「紹介」するサイトまであるのだとか。当然ながらそうしたサイトまで十把一絡げに語ることはできないわけですが、Danさんはそうした特殊な領域についても、現状を詳しく紹介してくれています。

個人的に興味を引かれたのが、タイトルにもある「アルゴリズム」で良い出会いが生み出せるのか?という部分。ご存知の方も多いかもしれませんが、海外の大手出会いサイトはデータ分析に力を入れていて、「ユーザー自身が気づいていない趣味・嗜好まで把握して良縁を紹介できる」とアピールしている企業が少なくありません。登録されたプロフィールだけでなく、サイト上での行動(どんな人物のプロフィールを閲覧しているか、どんな時間にログインしているかなど)までデータ化して分析するところもあり、一種のビッグデータの世界と言えるでしょう。ただそれがどこまで有効なのか、有効だとしてどんな手法ならば良いのか、当然ながら答えが出ているわけではありません。先ほどのAmyさんは、ユーザーの視点から「アルゴリズムだけに期待することはできない」という結論を下しているわけですが、一方の本書では、ある程度までデータ分析によって隠れていた事実が把握できることが描かれています。Amyさんも自分自身でデータを集め、そこから必勝パターンを編み出していたわけですから、ある意味でデータ分析の恩恵を受けていたと言えるでしょう。ただ人間という不合理で不確かな存在が歯車のひとつになる以上、「良縁をシステム化する」という課題は非常に困難なものであることは間違いなさそうです。

また仮に「出会い」の質を高めることができたとしても、問題はそれで終わるわけではないことが本書では指摘されています。例えば出会いサイトは慈善事業ではありません。一定のユーザーを維持し、そこから直接的(サービス利用料)・間接的(広告収入)に利益を上げ続けなければならないわけですが、そうなると出会いを求める人々がコンスタントに存在する必要があります。しかし既存ユーザーが「リピーター」になるということは、彼らが良縁に恵まれないことを意味する――つまりユーザーとサイト運営者の間には、深刻な利益の相違が存在していることになります。実際に現在の出会いサイトユーザーの中には、かなりの割合で「リピーター」が存在することが指摘されており、この利益の相違を乗り越えて出会いサイトが存続することは可能なのか?とDanさんは疑問を投げかけます。

また魅力的な候補者が次々に現れ、さらに候補者たちの詳しいプロフィールが事前に把握できるという状況は、考えてみれば人類の長い「出会い」の歴史の中ではなかったことです。例えばそれが、「いま付き合っている相手と上手くいかなくても、すぐに別の相手を探せるからいいや」というような態度を招いていないのか。さらに言えば、そういった態度が離婚率の上昇を招くことはないのか。恋愛や結婚というデリケートな問題に絡んでいるためか、真面目に議論される機会の少ない出会いサイトですが、その存在が社会に大きな影響を与える可能性があることを本書は描いています。

ということで、別に狙ったわけではないのですが、今日は2月14日ということでバレンタインデーですね。考えてみれば、バレンタインデーにチョコを贈るという風習だってごく最近のものなわけですから、今後テクノロジーが「出会い」を変えてゆくというのも大いにあり得る話でしょう。両方ともKindle版も用意されていますので、ご興味のある方は是非。

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