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#炎上TV と「参加」の限界

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昨日の深夜、つまり今日の未明に放映されたTBSの番組「大炎上生テレビ」。生放送でスタジオの芸能人が議論するのを見ながら、視聴者もツイート、公式サイト上でのアンケートへの回答、ならびにLINEを彷彿とさせる「スタンプ」を通じて参加ができるというものでした。いまでこそ「視聴者の皆様もツイッターでご意見をお寄せください」的な番組は珍しくありませんが、大炎上生テレビではスタンプをリアルタイムで表示する(スタンプの内容は番組側で設定するので放送禁止用語が流れる心配はなく、視覚的効果も得られる)という捻りを加えることで、視聴者参加の性格を色濃くしているのが売りだったと思います。

発想は面白く、またバスキュールが手掛けたシステムも視覚的で楽しいものでした。ただ、こういった「ネットと連動して視聴者の参加をつのる」という番組を観ると、いつも思い出す文章があります。ニューヨーク大学のクレイ・シャーキー教授が『みんな集まれ! ネットワークが世界を動かす』の中で述べていたものです:

ウェブは双方向性を技術的には可能にする。しかし、テクノロジーが与えるこの双方向性は、社会的要素によって消し去られる。有名人の場合、双方向性は潰されてしまうのだ。名声は本人の意識の問題ではないし、技術的な不備によって起こるのでもない。それは単にこちらに向けられる注目とこちらが外に向ける注目の不均衡である。外に向けられるよりはるかに多くの矢がこちらに向いているのだ。有名人の場合、2つのことが起こるが、そのどちらもテクノロジーの問題ではない。1番目は規模である。彼あるいは彼女は、最低でも1000人単位の視聴者の注目を集めてしまう。(アンディ・ウォーホールの有名なセリフ「将来は誰もが15分間有名になる」のインターネット時代バージョン、「将来は誰もが15人の間で有名になる」は魅力的だが誤りである。)2番目に、彼らにとって相互のやり取りはもはや不可能だ。このパターンはテレビ番組で経験済みである。有名ショーの視聴者は膨大な数であり、双方向のやり取りは技術的に不可能だ。我々は技術的な問題がこの不均衡を引き起こすと考える。(あるいはそう信じようとする。)ブログやその他のインタラクティブメディアが世に広まり始めた時、それらはあらゆるグループで選別のない直接の会話を可能にし、名声のもたらす構造的な不均衡を取り除いていた。しかし、技術的側面での限界の除去は、社会的な限界を生み出した。

双方向でのつながりは非常に素晴らしいが、それは万能ではない。ウェブの双方向性に技術的な限界はないが、人間の認識力には限界がある。誰であろうと、一定数以上のブログは読めないし、一定数以上のEメールを人々と交換することは不可能だ。

(90-91頁)

「注目」の不均衡性について語られた文章ですが、テレビ番組に置き換えてみれば、それが双方向性を持たないのは技術的な理由だけでなく、「大量の視聴者が投げかける注目に少数の出演者が反応するのは不可能」という本質的な理由もあるからだと言えるでしょう。多くのネット連動番組が1つ目の理由の克服には成功していますが、2つ目の理由を上手く回避できた番組は、僕は目にしたことがありません(もちろん僕が知らないだけという可能性はあるのですが)。

NHKが土曜日深夜に放送している生放送番組「ケータイ大喜利」は、視聴者がHPもしくはメール経由で投稿してくるネタを審査して、面白いものを紹介するという内容です。リアルタイムに近いスピードでネタを選び出すために、同番組では大勢のスタッフが動員されて一次審査を行い、ある程度絞られた候補の中からスタジオの千原ジュニアさんが最終的にピックアップする、という流れを取っています。いわば力技で「注目の不均衡」を抑えようとしているわけですが、それでも千原ジュニアさんがネタを選ぶために黙り込むという場面が多く、いかに難しい課題であるかを感じさせます。

大炎上生テレビでも、参加された津田大介さんがハッシュタグ「#炎上TV」をチェックして紹介する、という対応を行っていました。しかし、これも僕が観ていた限りで恐縮ですが、津田さん一人にツイート(つまり視聴者から飛んでくる注目)への対応を任せるだけで、双方向性を妨げる「注意の不均衡」を克服しようという姿勢は十分ではなかったように感じます。また売り物の「スタンプのリアルタイム表示」についても、あまりに大量のスタンプが寄せられてしまい、「スタンプを投稿したけどテレビに映ったか確認できない」(※スタンプはツイッターIDと連動する形で投稿し、番組内で表示される際にはツイッターIDも添えられていた)というツイートを何度か目にしました。

ちょうど大炎上生テレビを放送していた裏で、NHKで「追跡者 ザ・プロファイラー」という番組をやっていました。BSプレミアムで7月7日に放送されていた、ヒトラーを取り上げた回の再放送です。実は僕はこの番組と大炎上生テレビをザッピングしながら見ていたのですが、内容に関してツイートを投稿したのはザ・プロファイラーの方。もちろんザ・プロファイラーは生番組ではなく、そもそもネット連動での双方向性など組み込まれてはいないのですが、投稿したツイートに対して同じく番組を観ていた方から反応をいただき、違う意味で「参加」しているような気分になりました。その場にはいなくとも、バーチャルで同時視聴している感覚、いわゆる「バーチャルお茶の間」です。

個人的には、テレビを通じて「参加」の感覚を実現するという場合、スタジオの参加者に割り入ろうとするよりも、このバーチャルお茶の間の一員になるという方が適切な方向性ではないかと思います。テレビ局は盛り上がれるコンテンツ(必ずしもエンタメ系だけでなく、「ザ・プロファイラー」のような教育系の場合もあるでしょう)を用意し、その上で公式ハッシュタグや番組フェイスブックページなどの「視聴者が集まれる場」を用意する。それによって、視聴者は出演者との双方向感は得られなくても、視聴者同士の感情や意見の共有が実現できる。それだけでも、テレビの新しい楽しみ方は十分に提供できるのではないでしょうか。

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