忍び寄るロボット記者
はてなブックマークで「10年後に『食える仕事』『食えない仕事』~グローバル化で職の72%は消える」という記事が注目を集めています。同名書の書評として書かれたものですが、1つ付け加えるとすれば、グローバル化以外の要素が「職を奪う」ことも考慮する必要があるでしょう。そう、以前も触れたこんな要素ですね:
■ 【書評】機械は敵か味方か――'Race Against the Machine'
テクノロジーの進歩により、自動化に関係する技術が高度化+低価格化。「人間にしかできない仕事」や「人間に任せた方が早い仕事」の領域が急速に縮みつつあり、機械が職を奪うという状況が現実のものになっていると指摘する一冊でした。中国のフォックスコン社ですらロボットの大量導入を計画中であるとすれば、この状況がいかに差し迫ったものであるか実感できるのではないでしょうか。
とはいえいわゆる「クリエイティブ」な仕事であれば、機械による置き換えはそれほど速く進まないだろう、というのが大方の予想だと思います。確かにグーグルの無人自動車が自動化されたとしても、人間の運転手がいるタクシーとどちらを選ぶかと言われれば、大抵の人は後者を選ぶでしょう。しかしそのような競争が存在しない領域であればどうでしょうか?
先日、AllThingsDにこんな記事が掲載されていました:
■ Coming to Yahoo: Fantasy Football + Robot Writers (AllThingsD)
これも以前、ナラティブ・サイエンスという企業が文章を自動生成するアプリケーションを開発しているというニュースをお伝えしたことがありました(参考記事)。人間が入力したデータ、あるいはネット上に置かれている文書などを参照し、人間の記者が書いたような記事を生成することが可能という技術ですね。上記の記事で取り上げられているのはナラティブ・サイエンス社ではないのですが、オートメーテッド・インサイトという企業が開発した同様の技術を使って、Yahoo!がファンタジーフットボールの試合結果を記事化するという試みをスタートさせると報じられています。
ファンタジーフットボールとは、実在のNFL参加チームの選手や試合結果に関するデータを使い、空想の試合を行って楽しむというゲーム。アメフトを対象にしたものだけでなく、サッカーや野球を対象にした様々な「ファンタジー○○」が行われているので、遊んだことがあるという方も多いでしょう。この「試合」結果に関するデータをベースに、まるで実際に行われた試合について、実際の記者が書いたような記事を生成してしまおうという試みとのこと。これまで想像力で補われていた部分に、新たな楽しみが加わるわけですね。
さらにロボット記者を活用することにはもう1つの利点が。ファンタジーフットボールはあくまでも空想の試合を行うだけですので、同じタイミングで同じチームがまったく違うチームと対戦しているということが起こり得ます。従って何万何千という「試合」が全米で行われるわけですが、コンピュータであれば、データを突っ込むだけでいくらでも記事を書いてくれます。実際にオートメーテッド・インサイト社では、今シーズンだけで約5000万本の記事を生成するだろうと予測しているとのこと。仮に同じことを人間の記者でやろうとしたら、どれほどの時間とコストがかかるでしょうか。
つまりオートメーテッド・インサイトのロボット記者は、人間の記者とは競合しない部分に進出しつつあるわけですね。イノベーション研究の第一人者であるクレイトン・クリステンセン教授は、新しい革新的な技術は「無消費」の領域(既存の商品やサービスが利用されていなかった領域)から広まりやすいと主張しています。ファンタジーフットボールの試合結果記事という世界は、ロボット記者にとっての「無消費」の領域となるかもしれません。
イノベーションは無消費の領域での経験を足掛かりに、より技術やパッケージングを洗練させ、既存の商品/サービスが幅を利かせている領域にも打って出るようになります。「たかがゲームの記事」と気にも留めていないうちに、様々な場面でロボット記者の記事を目にするようになる、などという事態も起き得るのではないでしょうか。そのうち著名なコラムニストの記事や、有名ブロガーの記事まで、アルゴリズムによって自動生成されていた……なんて時代が来たりしてね。
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【○年前の今日の記事】
■ 発表会にブロガーを呼ぶ、ということ (2007年9月19日)
■ 誰に宣伝してもらう? (2006年9月19日)