データが防ぐハリケーン被害
米テキサス州ヒューストンにあるライス大学(Rice University)の研究者らが、"Storm Risk Calculator"というサイトを開設しています。その名の通り、ハリケーンなどの嵐による被害の想定を確認できるサービスとのこと。
サービスの対象範囲となっているのは、ライス大学のあるテキサス州ハリス郡(Harris County)。ヒューストン都市圏の中心となっている郡で、全米でも第3位の人口を抱える地域です。この地域でハリケーンの接近が予測されている場合にはそのリアルタイム情報を、そうでない場合には過去の被害データや気象データから算出した被害想定を、それぞれ確認することができるようになっています。
例えばこちらはパサデナ周辺を表示したもの(現時点ではハリケーンは出ていないので蓄積データによる予測)。確認できる予測は「停電」「降雨」「高潮」「強風」の4種類で、例えば上のスクリーンショットでは停電リスクが表示されています。またハリケーンの強さを5段階(カテゴリー1からカテゴリー5まで)で変化させることが可能で、どのくらいの強さであればどの程度の被害になるのかを確認することもできます。これさえあれば絶対安心というわけではありませんが、これから住む場所を決める場合や、住んでいる地域でどのような対策が必要かを考える場合、また実際にハリケーンが近づいてきて避難する場合などに役立つでしょう。
実際にこのサイトが誕生するきっかけとなったハリケーン・リタ(2005年)の際には、避難すべきかどうか・どう非難すべきかといった情報が不足していたために、住民たちの間で混乱が見られたとのこと。その反省からライス大学のロバート・ステイン(Robert Stein)教授(政治学)やデビカ・サブラマニアン(Devika Subramanian)教授(コンピュータサイエンス)らが中心となり、関連機関からのデータを収集、さらに使いやすいインターフェースを構築してウェブサービスとして完成させています。
興味深いのは、被害予測モデルを構築するために幅広い種類のデータが集約されている点。ライス大学から発表されたニュースリリースによれば、Storm Risk Calculatorには気象関連データはもちろんのこと、対象エリアの地形や水の流れ・循環、配電システムの配置や建築物の構造・築年数といったデータまでが集められています(ちなみに対象エリア内にある戸建住宅の数は、およそ120万戸に達するそうです)。例えば強風被害に関する予測の場合、17の要素が組み合わされて算出が行われているとのこと。またこれからの運用を通じてさらにデータを集め、予測モデルとインターフェース両方の改善を続ける予定だとか。
一方でヒューストンのローカルニュースサイトでは、「予測には不確実性が含まれるものであり、現実に対応するためにはその不確実性を考慮に入れる必要がある」として、同サイトの効果を疑問視する専門家の声も伝えています。確かにモラルハザードとまではいかないまでも、予測の精度を上げて人々が頼るようになればなるほど、予測がはずれた場合の対応がおろそかになってしまうかもしれません。ただだからといってサイトを閉じるべきではなく、利用者の側にStorm Risk Calculatorだけを絶対視しないという態度が望まれるのでしょう。
米国でオープン・ガバメント(開かれた政府)の動きが本格化し、公的データへのアクセスが容易になっている状況、さらにビッグデータへの注目の高まりを考えれば、今回のような取り組みが今後も続くかもしれません。データ分析がどこまで有益な知見を提供できるか、またユーザー側でどのような行動が望まれるのか、次第にその姿も見えてくるのではないでしょうか。
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