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検索がオークションを潰す

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BusinessWeek からの翻訳記事ですが、「あの eBay がネットオークション事業からの転換を図っている」という報道がなされています:

米国でネットオークションが下火に (NBonline)

eBay(イーベイ)と言えば、ご存知の通り世界最大のネットオークションサイト。日本国内では Yahoo! オークションの前に敗退を余儀なくされてしまいましたが、世界の多くの国々でシェア1位を取っています。一方で eBay は固定価格販売も行っており、その固定価格販売から上がる収益が、オークション販売での収益を上回りそうだとのこと。またオークション販売の伸び率が悪く、その流れを受けてか、固定価格商品を出品する大手業者に有利な(そしてオークション事業者にとっては不利な)新手数料体系を導入しようとしているそうです。

その理由について、BusinessWeek では

インターネットを介した売買システムが成熟し、オークションの興奮や目新しさが、ワンクリック購入の利便性に取って代わられてしまったからである。ハーシェンソンさんは6月3日を最後にイーベイから撤退する。「オークションは変わってしまった。全くの別物だよ。二度と元には戻らないだろうね」。

以前、オークションは電子商取引の花形だった。単なる買い物の場ではなく、欲しいものを必死に争って勝ち取る場。それがイーベイだった。だが最近では、オークションの手間を嫌い、さっさと固定即売価格で購入する消費者が増えている。

と解説しています。消費者は価格よりも利便性を重視するようになった、とは何とも景気の良い話ですが、それほど多くの人々が懐を気にしなくなったとも思えません。と感じていたら、記事の2ページ目にこんな指摘もあります:

では、オークションに何が起きたのだろうか。買い手は利便性だけでなく、買い得感にもこだわるようになっている。オンラインによる価格情報が普及した現在、特価商品の検索は容易だ。オークションで実際の価値より高い値を付けてしまう危険を冒す必要はない。

ハーシェンソンさんにも、入札競争が過熱し、40ドルの新品トースターが80ドルで落札されたのを目にした経験がある。しかし今では、何度かクリックするだけで商品の相場を手に入れることができるのだ。

つまり特価品の検索や価格情報の取得が容易になったために、「良いものが安く買える」というオークションの魅力が失せてきたばかりか、「実は高い買い物をしてしまう場合がある」ということが見えてきてしまったと。先ほどの「価格より利便性」という説明とは一部矛盾する話ですが、個人的には世界経済ががそれほど好調とも思えないので、こちらの説明の方に説得力を感じます(もちろん利便性の問題も重要だと思いますが)。

検索技術の向上によって、ネット全体が1つの大きなオークションのようになってしまったのかもしれません。eBay に出品していなくても、自分のサイト上に「○○を~円で売ります」と書いておけば、誰かが見つけてくれるでしょう(さらにその人が「ここで良い買い物ができるよ」と宣伝してくれるかも)。また「○○が~円ぐらいで欲しいんだけど」と書いておけば、「いいよ」と声を掛けてくれる人が現れるかもしれません。もちろんまだまだ事態はそんなに簡単ではありませんが、eBay だけが売り手・買い手を探せる唯一の場所ではなくなった、ということなのでしょう。

これはオークションに限った話ではなく、求人情報や賃貸物件・不動産情報などあらゆる情報交換に当てはまる話だと思います。今までもその傾向はありましたが、今後「場所」を提供するサービスはますます下火になり、広大なネットの海から提供者・利用者を検索できるサービスの方が主になる。ネットオークション最大手の eBay ですら方向転換を余儀なくされたということは、それを象徴していると言えるかもしれません。

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